IT企業が気づいた新聞広告の「強み」 インタビュー(III)
サービスの「存在意義」を紙面で表現
新聞広告でアピールした自分たちの考え方
株式会社 JUBILEE WORKS
株式会社 JUBILEE WORKS
吉本 安寿 氏
予定を共有できるアプリ
JUBILEE WORKS は、カレンダーアプリ「TimeTree」を2015年3月から提供しています。スケジュールを管理するアプリは他にもありますが、たいていは自分のためで、用事を忘れないというリマインドが目的です。しかし、歯医者さんに行くにしても、ランチを食べに行くにしても、相手を伴います。そこで、予定は共有されることが前提と考えたうえで、スマートフォンに最適化させて作ったのがTimeTreeです。家族全員が見る壁掛けカレンダーのスマホ版というイメージです。
アプリをプレスリリースで発表しても、当日はまるで反響がありませんでした。代表の落胆ぶりを見かねたご家族が、「無名企業だからどこも取り上げてくれないと部屋の片隅で突っ伏していたので、よろしければ見てみてください」とツイートしたところ、バズったのです。リツイートが1万件を超え、注目を集めたのですが、全くの偶然でした。
初めは広告も出さず、CS(顧客満足)を高める活動に力を入れていました。問い合わせにテンプレート(定型文)で答えるのではなく、堅い内容には堅い文面で、フランクな方にはフランクな文面でと、相手に丁寧に合わせて返しました。今でもやっていますが、顧客の期待を超える反応をしていくことで、口コミで広げてもらえるのです。
より印象に残る広告媒体を探して
広告は15年の夏から秋にかけて、デジタルで徐々に開始しました。フェイスブック広告を中心に行いました。ご家族、特に小さいお子さんがいる25 ~ 40歳くらいのご夫婦が多く使っていることが分かってきたからです。習い事の送迎など子どもの予定が増えると、夫婦のどちらが担当するはずだったかで、もめることがありますよね。こうした課題を解決するアプリとしてTimeTreeが評価されたのだと思います。
様々なデジタル広告の媒体に広告を出しましたが、リーチできる層には限界があります。また、デジタル広告は広告接触あたりのインパクトでいうと、弱いという印象を抱いていました。そのため、サービス認知の拡大にはあまり向いておらず、どちらかというと、いわゆる獲得系と呼ばれるサービス認知はすでにあって、ダウンロードしていない人に対して広告を見たときに反応して、ダウンロードをしてもらうといった訴求がメインになります。
そこで、サービス認知拡大のためにテレビCMを使いました。17年4月に福岡で試験的に始め、2018年4月には全国で放送しました。CMを見た層からの流入もかなり多く、音があるので耳からも入ってきますし、デジタルより印象に強く残ります。サービス認知の拡大に加えて、ダウンロードにつながる効果も高かったです。
2018年4月8日 朝刊
新聞広告でアイデンティティーを形成
ユーザーは今年7月には1000万人を超えました。ある程度サービス認知も拡大し、次に打つべき手を考えたときに、まだTimeTreeを利用していない方々にどうすれば伝わるかという観点からは、機能や利便性を伝えていくだけでは、限界があるのではないかと思い始めました。
米アップルの製品は、持っているだけでかっこいいとか、ビジョンに共感できるとか思われて、支持されています。TimeTreeも使っている人にとってのアイデンティティー(同一性)になっていくことが、さらにユーザーを拡大させていく一手なのではと考えたのです。
そこで選んだのが、新聞広告です。私はもとから興味があったということもありますが、それまでの広告とは違う役割を持たせました。デジタルやテレビでは便利さなどを訴え、利用シーンへの共感や利便性の訴求が目的でしたが、新聞では自分たちの考えを伝えることだけを狙ったのです。
新聞という媒体は安心、安全、信頼できるという印象を持たれています。新聞全体は読み物ですから、広告もそれに溶け込めるように読み物として読んでもらえるようにすることを意識しました。アプリということさえ、小さく書いてあるだけです。ブランディングという面からの効果測定は今後の課題です。ただ、共感してくれたユーザーの方々がSNS などでシェアしてくれるなど二次波及効果もありました。
社内でも大変好評でした。アプリ会社はどこでも、ダウンロード数など目先の数値を追い求めがちなので、なかなか長期的な視点に立ったマーケティングには注目がいかないところがあり、みんなが大切だと思っていても、できないことがたくさんあります。それが実現できたので、すてきな会社だと感じてくれています。
TimeTree はグローバルに展開しており、日本ではかなり多くの方にご利用いただいております。マーケティングにおいてはデジタル広告で当たりにくいユーザー層に別の方法で当てられるように強化していくことを今後考えています。テレビCM をやる余地もまだありますし、印象に残るオフライン広告を攻めていきたいです。ただ、普通に生活していて邪魔にならないような広告にすることは常に心がけています。
新聞広告は、生活の文脈に即した形で使っていけると考えます。いい夫婦の日や入学シーズン、夏休み明けなど、日付のコンテキストに沿った形で展開していくような使い方が合っているのではないかと思います。
JUBILEE WORKS
深川泰斗氏がヤフーからカカオジャパンに出向していた同僚らと2014年に創業した。国内外の投資家から16年には2.1億円、17年には5.3億円の資金調達をするなど急成長している。TimeTreeは7月に登録ユーザーが1000万人を突破。グローバル展開にも熱心で、日本語、英語、韓国語、中国語、ドイツ語、ロシア語など13言語に対応している。
吉本安寿(よしもと・やすとし)氏
大学時代は修士課程で分子生物学を研究。2011年ヤフー入社。新規広告プロダクト企画や広告商品企画業務に従事した後、13年にカカオジャパンに出向。15年5月にJUBILEE WORKSに入社。アプリのサービス企画やマーケティングを担当している。