新聞広告を起点に「#15分ガマンベール」を拡散
お客さまの行動を喚起した周年記念プロモーション
雪印メグミルク 乳食品事業部チーズグループ 西嶋拓也氏
発売60周年を迎えた「雪印北海道100 カマンベールチーズ」が、「#15分ガマンベール」という食べ方提案のプロモーションを実施。新聞広告を起点にしたプロモーションを行った結果、冷蔵庫から取り出して15分待った後にカマンベールチーズを食べたという人の割合は、新聞広告認知者の約37%(※)に達した。
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2022年9月23日全国朝刊
お客さまと一緒に新しい商品価値を作り上げる
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雪印メグミルク 乳食品事業部チーズグループ
西嶋 拓也 氏
――「#15分ガマンベール」の狙いから聞かせてください。
西嶋氏:雪印メグミルクが国内初のカマンベールチーズを発売したのは1962年です。「雪印北海道100 カマンベールチーズ」は、発売当初から北海道産の生乳を100%使用し、伝統的な製法で作られてきました。その発売60周年を記念したプロモーションが今回の企画です。単なる周年記念のプロモーションではなく、お客さまと一緒に新しい商品価値を作り上げるプロモーションにしたい。そういう想いから、「#15分ガマンベール」という言葉を拡散させ、「冷蔵庫から取り出して15分ガマンして食べるとうまみが際立つ」という体験を広めることがプロモーションの大きな枠組みになっています。
――なぜ「15分ガマン」をアピールポイントにしたのでしょうか。
西嶋氏:「うまみが強いカマンベールチーズ」というのが、「雪印北海道100 カマンベールチーズ」の大きな特長です。パッケージでも「うまみで選ぶ」と強調していますが、他社の国産カマンベールチーズと比べると、主なうまみ成分であるグルタミン酸が2倍以上含まれています。しかし、その特長を伝えきれていないという課題がありました。ただ一方的に「うまみがある」と言ってもお客さまにはなかなか伝わりません。実際に食べて、体験してもらうことが一番だと考えました。
このうまみを最大限に味わう方法は、実はカマンベールチーズを室温に戻して食べることです。実はあまり知られていないのですが、一般的にフレッシュタイプ以外のチーズは、室温に戻すことで風味が楽しめると言われています。実際15分待つことでチーズが室温に近づき、断面がトロッとしてきます。うまみとあわせてカマンベールチーズならではの食感も楽しめるわけです。
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新聞広告を起点にTwitterで拡散
――プロモーションの仕組みを教えてください。
西嶋氏:一言で言えば「新聞広告を起点にしたプロモーション」です。同時に店頭には新聞と連動させたPOPも設置しています。
#15分ガマンベールプロモーション全体像
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Twitterキャンペーンも、実は「15分限定キャンペーン」と「通常プレゼントキャンペーン」の2段階で実施しました。「15分限定キャンペーン」というのは、新聞広告が掲載日の正午から15分間限定で行ったもので、カマンベールチーズ100個を山分けしようというキャンペーンです。「15分限定キャンペーン」の告知は、新聞広告の右下で行いました。
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――新聞広告の告知は見逃すくらい小さな文字でしたが、応募はどのくらいあったのでしょうか。
西嶋氏:応募が1人だけなら100個のカマンベールチーズを独り占めできるキャンペーンでしたが、実際は約1,000件の応募がありました。雪印メグミルクの公式Twitterアカウントでは前日の18時に「あしたの新聞広告をよく読むと、いいことあるかも?」という予告を行い、出稿当日の午前中も公式アカウントと読売新聞社広告局のアカウントでも、新聞広告のツイートを行っています。また、この限定キャンペーンを見逃してしまった方にも新聞出稿当日の18時から「雪印北海道100 カマンベールチーズ」詰め合わせが抽選で200名に当たるキャンペーンを行いました。9月23日から10月7日までの期間限定でしたが、これにも約1万件の応募がありました。
――実際に冷蔵庫から出して15分待って食べた人の割合はどのくらいだったのでしょう。
西嶋氏:新聞広告の認知者ベースで約37%の実施率(※)です。ただ待つだけでうまみが引き立つという手軽さが、実施率の高さにつながったと思います。
全年代を巻き込んで60周年を盛り上げる
――プロモーションに新聞広告を使った理由はなんでしょうか。
西嶋氏:カマンベールチーズの主な購入層は50代、60代で、新聞購読者層と近いことがまずあります。カマンベールチーズは価格が高めなこともあって、購入経験のない20代、30代が多い。そこはデジタルでフォローしていこう。コアターゲットは新聞広告で押さえながら、新聞広告を起点としたプロモーションを行うことで、全年代を巻き込んで60周年を盛り上げるというのが、今回のプロモーションの考え方です。
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――新聞広告とTwitterは相性がいい?
西嶋氏:うまく活用すれば親和性が高いと思いますね。新聞広告は真面目な媒体ですが、そこで「#15分ガマンベール」のような広告をすれば、雪印メグミルクもこんな柔らかいことをしているんだという意外性が生まれる。また、一方でTwitterで新聞広告を掲載した情報を流せば、何か真面目なお知らせをしているのだという意外性が生まれる。それぞれの媒体特長を押さえることで相性はよくなると考えています。
――新聞広告のクリエイティブでこだわったところはありますか。
西嶋氏:ビジュアルで最も重要視したのは、チーズがとろける感じです。「食べてみたい!」「#15分ガマンベールやってみたい!」というファーストインプレッションが出るように、撮影も4時間かけて、何パターンも撮っています。それからコピーも、いきなり「ガマンベール」と言ったのでは、意味が伝わりづらくて読み進めてくれない。それで「#15分ガマンベール」の上にボディコピーより少し大きい文字で「待つ人だけが味わえる、贅沢なひととき。」と語りかけることで読み進んでもらえるように考えました。単に広告のみを話題にすることが目的なら、広告代理店のクリエイティブももっとインパクトのある紙面を作ってくれただろうし、「15分限定キャンペーン」もQRコードを付ければさらに応募は増えたと思います。しかし、今回は60周年記念ということでパブリックな広告という意味合いもあり、全体的なバランスを重視しました。正直、私も今まで経験したことがないくらい広告代理店とは打ち合わせを重ねましたね。
新聞出稿当日は前年同曜日比1.2倍の売り上げ
――プロモーションの結果は、どうだったのでしょうか。
西嶋氏:POSデータを見ると新聞出稿当日の9月23日は前年同曜日比1.2倍の売り上げでした。また、翌週末の金土日が今年度最高の売り上げを記録しているので、コアターゲットである50代、60代は冷蔵庫のカマンベールチーズを食べて再購入し、20代、30代は売り場に行って購入してくれたものと推測しています。ただ、新聞広告のタイミングで全国にいる営業が店舗のチラシを獲得したり、売り場の露出を広げたこともあったと思いますので、新聞広告とTwitterだけの効果とは言えないところはありますが。
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売り場に展開されたPOP
――プロモーションにおける新聞広告の役割をどう見ていますか。
西嶋氏:個人的な主観も入りますが、新聞広告はアニバーサリーなどをオフィシャルに真面目に伝えるという意味では、非常に適したメディアだと考えています。ただ、最近は若年層など新聞広告だけではリーチできない層が出てきているもの事実です。そこで注目したのが、今回のようなプロモーション全体の起点としての使い方です。新聞は真面目に伝えるメディアだからこそプロモーションの起点には最適だと思います。また、今回は新聞広告の掲載を読売新聞社広告局のアカウントでもツイートしていただきましたが、企業からの発信と比べ、新聞社の公式アカウントからの発信はより信頼性があると思いました。
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ベネフィットの提供が広告の役割
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――最初に「単なる周年記念のプロモーションではなく、お客さまと一緒に新しい商品価値を作り上げるプロモーションにしたい」とおっしゃいました。その点について改めてお聞きかせください。
西嶋氏:私自身今までプロモーションは、POSデータを見ていかに売るか、を中心に考えてきました。しかし、改めてお客さまを理解しようと考えていくと、お客さまが求めているのは、カマンベールチーズなのではなく、カマンベールチーズを味わって過ごす「贅沢なひととき」だという考えに辿り着きました。そう考えるとうまみが強い当社のカマンベールは最適な商品だと考え、今回の広告に至りました。そして、このお客さまのベネフィットを提供していくことが広告の役割だと考えています。
「ガマンベール」という駄洒落のような言葉でお客さまの行動を喚起する今回の広告に対して、ブランドの歴史からすると軽すぎるのでは?という懐疑的な意見も社内にはありました。しかし、お客様と新しい価値を作り上げていくには「ガマンベール」という言葉のキッカケは必要だと考えていました。また、北海道にある雪印メグミルクの「酪農と乳の歴史館」に行くと、1970年代の時点ですでに「室温にもどすとおいしくめしあがれます。」とおすすめをしているパッケージもありました。このパッケージを見たとき、これこそがブランドの伝えるべき価値だと確信しました。新聞広告のボディコピーの出だし「発売60周年目のお願いです。」には、その想いが込められています。
――コミュニケーション戦略で今後重視していきたいことはなんでしょうか。
西嶋氏:今回のプロモーションを通して、商品を売るのではなくて、商品を通して何ができるのかを伝えることがマーケティング・コミュニケーションだと改めて感じました。一方的なコミュニケーションでモノが売れた時代は終わりつつあります。お客さまと一緒に新しい価値を作っていく。あるいは、お客さまと一緒にブランドも成長していく。そういう時代になってきていると思います。