読売新聞ビジネス局・イノベーション本部ポータルサイト adv.yomiuri

STORYストーリー

「最強」新聞2紙に掲載された「最強対最強」
集英社「呪術廻戦」

人気漫画『呪術廻戦』のコミックス25巻発売当日、読売新聞には五条悟、朝日新聞には両面宿儺りょうめんすくなが描かれた全面広告がそれぞれ掲載された。五条と宿儺の「最強対最強」をテーマにした新聞広告は、合わせると1枚の大きな決戦ポスターになる。この広告はSNS上でも拡散され、約1945万人の推定リーチを記録。コンビニや駅の即売部数も、大きく伸びたという。

濱岡諭史氏

集英社 宣伝部雑誌宣伝課
主任 濱岡諭史氏

通常のマーケティングが通用しない出版広告

――『呪術廻戦』の「週刊少年ジャンプ」連載開始は2018年14号ですね。

濱岡氏:『呪術廻戦』は、人間の負の感情から生まれる呪霊と呪術を使って祓う呪術師との闘いを描いた芥見下々先生の作品です。今や、「週刊少年ジャンプ」の看板漫画の一つで、連載年数で言っても、『ONE PIECE』『僕のヒーローアカデミア』に次ぐ長期連載の作品です。

――コミックスの発行部数は、2024年1月4日の25巻発売をもって累計9000万部(デジタル版を含む)を超えたということですが。

濱岡氏:集英社でシリーズ累計発行部数1億冊を超えた作品は『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(秋本治)、『DRAGON BALL』(鳥山 明)、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ(荒木飛呂彦)、『SLAM DUNK』(井上雄彦)、『ONE PIECE』(尾田栄一郎)、『NARUTO ナルト』(岸本斉史)、『BLEACH』(久保帯人)、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)、『キングダム』(原泰久)、『僕のヒーローアカデミア』(堀越耕平)だけです。恐らく『呪術廻戦』も連載が終了する頃には1億冊を超え、「週刊少年ジャンプ」を支えた今までの大看板の作品と並んでくると思います。

――『呪術廻戦』はどのような層に人気の作品なのでしょうか。

濱岡氏:コミックスは男性ファンが多いですね。人気作品の一般的な傾向でもあるのですが、テレビアニメ放送を経て、女性を中心にファン層が広がります。その増えた母集団をいかにコミックスの販売につなげていくかが、広告宣伝の役割になると思っています。

――そのコミックスを売るための広告宣伝の役割というのは、具体的にどういうものですか。

濱岡氏:コミックスの広告宣伝は、通常のマーケティング的な考えがあまり通用しない世界だと思っています。市場が必要とするモノを提供することを「マーケットイン」、作り手がいいと思うモノを作って売ることを「プロダクトアウト」と言いますが、漫画は作家が一人で生み出した「プロダクトアウト」の世界の極致で、 業の結晶みたいな商品です。そのため、マーケティングデータも頭に入れてはいますが、まずは作品と向き合うことが大事だと思います。作品が発する熱量が「1」だとします。さまざまな情報があふれる中でこの熱量は埋もれてしまい、「0.3」とか「0.4」になる。ゲーム用語でいう“デバフ”がかかった状態になります。その“デバフ”を可能な限り「1」に回復・強化させていく。そのために作品と向き合って、読者が面白がってくれそうなところを毎巻探っていく。そういう“バッファー”みたいな役割が、出版の広告宣伝だと思っています。

SNS、プレミア配信、新聞広告で「煽る」

――1月4日のコミックス25巻発売日に、読売新聞に五条悟、朝日新聞に両面宿儺のイラストを全面に使った新聞広告を掲載しました。

2024年1月4日付 読売新聞全国版朝刊

2024年1月4日付 読売新聞全国版朝刊

濱岡氏:今回の新聞広告の出稿は原作の持っている熱量をできる限りそのまま宣伝広告に出したい、という思惑から実施しました。「最強対最強」と紙面にもあるように、コミックス25巻では五条悟と両面宿儺の戦いが始まるのですが、2人の対決をどれだけ世間に強く訴えられるのかがポイントでした。アイデアの種は担当編集からもらっていて、「この戦いが世界タイトルマッチ、世紀の一戦と認識されるようにしたい」というもの。その企画の種をどう膨らませるか――広告会社のクリエイティブチームと議論する中で出てきた答えが、「煽り」をテーマに据えることでした。格闘技では、試合前に選手同士が煽り合って試合を盛り上げますが、コミックス発売前に二人の対決を煽るのはどうか。であるなら、広告もメディアとしての影響力を持つ新聞の中で「最強」の2紙である読売と朝日にしようという結論に至りました。

――新聞以外はどのような仕掛けがあったのでしょうか。

濱岡氏:「煽り」は、1月1日からX上で発信した両面宿儺と五条悟の煽り合いから始まり、発売日前日の23時57分からはYouTubeで3分間のプレミア配信を行いました。デジタル版であるジャンプコミックスDIGITALでは発売日の0時から新刊を購入できるため、コミックス発売開始の時刻をタイトルマッチのゴングが鳴るタイミングと位置付けたのです。ナレーションも、総合格闘技イベントPRIDEのナレーターを務めている立木文彦さんにお願いし、まさしく年末興行のような雰囲気を演出し、ライブ配信の終了と同時にデジタル版の販売がスタート。そして朝になるとタイトルマッチのキービジュアルとしての新聞広告が世に出る、という展開です。

ジャンプコミックスDIGITAL『呪術廻戦』25巻がオンラインで発売される3分前、1月3日23時57分かYouTubeのジャンプチャンネルで公開された「“『呪術廻戦』25巻“最強対最強”決戦ムービー」

ジャンプコミックスDIGITAL『呪術廻戦』25巻がオンラインで発売される3分前、1月3日23時57分からYouTubeのジャンプチャンネルで公開された「『呪術廻戦』25巻“最強対最強”決戦ムービー

――今回の新聞広告のSNSでの拡散状況を「よみバズ」で分析しましたが、2日間で推定約1945万人にリーチしたという結果でした。

掲載当日の読売新聞社ビジネス局と「広告朝日」編集部アカウントによる投稿

濱岡氏:推定で2000万人近くにリーチしたというのは想定以上です。それから、この広告をSNSにポストしたアカウントを見ると、女性64.6%に対し、男性35.2%、五条悟というキャラクターは特に女性に人気ですから、ほぼ予想通りでした。嬉しかったのは関連ポストを行った人のほぼ9割が20代以下だったことです。やはり、10代20代の皆さんは「最強対最強」のようなわくわくするストーリーが好きなのだなと実感します。

集英社(呪術廻戦 新刊発売)

――『呪術廻戦』は20代以下の若い人たちのファンが多いことがよくわかりますね。

濱岡氏:はい、その年代にも人気がある漫画です。「週刊少年ジャンプ」読者は親子一緒に読んでいただいているケースも多く、年末に実施したジャンプフェスタにも親子の参加者が多かったですね。

新聞はポスターサイズで全国に届く唯一無二のメディア

濱岡諭史氏

――『鬼滅の刃』の時も新聞5紙に各キャラクターが登場する広告が掲載されましたが、新聞広告とコミックスは相性がいい?

濱岡氏:今回の新聞広告の絵は、「煽り」というテーマに沿って芥見下々先生に描き下ろしていただきました。先生の原稿を配した広告というのは、原作宣伝の成せる技であり、作家と寄り添っている出版社だからこそできるクリエイティブだと思います。そしてそれをポスターサイズの大きさで全国に直接読者に届けられるのは、新聞しかありません。書店も地方によっては車がないと行けないところがあるし、コミックスに同梱して届けようとしても、コミックス以下のサイズでしか届けられません。今の時代、オフラインで全国津々浦々に行き渡る新聞の物流や販路の強さは、唯一無二だと思います。テレビCMも一度に大きな反響を得るのに適していますが、その分コストがかかります。コンテンツ次第では、新聞広告はテレビCMと変わらない大きな反響が得られる媒体だと思います。

――アナログの良さがあるということでしょうか。

濱岡氏:少女漫画、青年漫画はその売上の半分近くがデジタルにシフトしています。しかし、ジャンプコミックスの場合は8:2でまだまだ紙が優位です。そこには「好きなものを所有しておきたい」という気持ちが働いていると思っています。アナログで人の手を介してモノとして届けられていると、受け手の熱量が大きいと感じます。先ほど触れたジャンプフェスタでは、会場に訪れてくださる幅広い年代の読者の方の熱量の大きさを直接感じることが出来ました。編集も宣伝もそれに応えるべく、アナログの良さを活かした拡散の仕方を考えています。実際にその場に行って見たもの、手にしたものは何年も記憶に残ると強く思います。

Page
Top