【印傳屋上原勇七】
「伝統と新しさ」を伝える新聞広告を展開
日本の伝統的な鹿革の工芸品「印伝」の小銭入れやポーチに描かれているのは、キース・ヘリングのポップな絵柄。1582年の創業以来、伝統の技法を受け継ぎながらも、新商品開発、海外へのブランド展開を進める「印傳屋上原勇七」が、新聞広告を積極的に活用する狙いとは。
甲州印伝総本家 株式会社印傳屋上原勇七
(左)専務取締役 上原 伊三男 氏 (右)取締役総務部長 出澤 忠利 氏
440年受け継がれた甲州印伝の技法
――甲州印伝の技法の成り立ちや歴史を教えてください。
出澤氏:「印伝」とは鹿革に漆などで模様を施した日本の伝統工芸品です。日本では、昔から鹿革は入手しやすく、軽くて丈夫なことから生活道具や武具などに使われてきました。奈良時代には鹿革を燻(くす)べた文箱がすでに作られています。戦国時代にも多様な染色技法を駆使した鎧や兜が作られました。甲斐を治めた武田家の鎧兜がその好例です。その技法を「甲州印伝」として一子相伝で現代まで伝えてきたのが上原勇七です。
――「印傳屋上原勇七」の創業は1582年。440年の歴史があると言われています。
出澤氏:1582年はあくまで資料の裏付けが取れている年で、実際はそれ以前から伝えられてきたと言われています。遠祖上原勇七は武田家の家臣で、信州の諏訪に住んでいましたが、江戸後期に甲州に移り住み、鹿革に漆付する独自の技法を創案し、甲州印伝が始まったと伝えられています。江戸時代、町人文化が栄えてからは、粋を競い合う人々の間で巾着や莨(たばこ)入れ、早道(はやみち:財布)などの甲州印伝がもてはやされました。甲州印伝の技法には、漆で模様をつける「漆付け」、ワラなどを焼いてその煙でいぶして着色する「燻(ふすべ)」、一色ごとに型紙を替えて色を重ねる「更紗(さらさ)」がありますが、こうした技法は上原家を継ぐ家長の勇七に口伝されてきました。
上原氏:上原の家長は代々、家業を引き継ぐときに「上原勇七」を襲名してきました。現在の当主は十四代勇七ですが、秘伝だった技法を従業員に公開したのが父である十三代勇七です。新しい時代に印伝を普及させるためには、企業として職人を育てることが必要だと考えたからです。
十三代勇七は1981年、東京・青山店を皮切りに、大阪・心斎橋店、愛知・名古屋御園店を展開し、同時に新商品の開発にも力を入れました。社外デザイナーを起用して、ハンドバッグや名刺入れなど独自ブランドを次々と発表してきました。
――海外向けブランドも展開されていますね。
上原氏:十三代勇七は「印傳屋上原勇七を日本だけでなく世界で認められるブランドにしていきたい」というビジョンを持っていました。2011年にアメリカのファッション市場への進出を目的としたブランド「INDEN NEW YORK」を発表し、2016年にはブランド名を「INDEN EST.1582」へ改め、イギリス、フランスを中心とした欧州のファッション市場にも進出しました。
ブランディングと販促効果を両立
――2022年11月以降、継続して読売新聞に広告出稿していただいていますが、新聞、とりわけ全国紙に広告を出す狙いは何でしょうか。
出澤氏:古典的な技法を守りながらも現代的なデザインを打ち出していく際に、お客様にその理念をご理解いただくための媒体として、信頼性の高い新聞を選択しています。
上原氏:全国紙への広告掲載は、5年前にECでの販売を開始したことで、地元山梨や都市圏にある直営店に来られるお客様だけに限らず、全国の方に印傳屋上原勇七の商品をご購入いただけるようになったことをきっかけにスタートしました。中でも読売新聞に広告を出稿する理由は2つあります。印傳屋のブランディング、そして印傳屋の主要な購入層に読まれていることです。新聞は、記事や広告をじっくり読んで理解してもらうには一番のメディアだと思います。やはり、現在の新聞読者層は年配の方、生活に余裕のある世帯が多い。なかでも読売新聞は発行部数も国内一ですから、そうした層に最も多く届けられる媒体です。
実際、広告の反響を調査したJ-MONITORの結果も見ても「センスが良い」と印傳屋を評価してくれる人が30.4%います。「伝統を守りながらも新しいものを発信していく」という私たちの意図が広告を通してしっかり伝わっていると考えています。単に売り上げを上げるだけでなく、ブランド力、企業価値を高めていくところにも新聞の重要な役割があるのではないでしょうか。
フリーアンサーより一部抜粋
- 物凄く歴史ある会社ですが流行の最先端をいってる感があります(男性40代)
- 甲州印伝は知っていたが、結構おしゃれな製品なのでいいなと思った。(男性60代)
- 商品が高級感がありセンスが良くすぐ目に止まりました。実物を手に取り見たいと思いました。(女性29歳以下)
- 印伝とキースへリングとのコラボが意外だった。面白いと思い、興味を持った。実物を見てみたいと思った。(女性50代)
- 印傳というものを以前甲府に行った時に見たことがある。はじめてだったのですごく印象に残っている。伝統的なものだけどあたらしいデザインで現代にすごくなじんでいる。素敵だなとおもう。(女性60代)
新聞広告共通調査プラットフォーム J-MONITOR 調査概要
▶ 調査地域:首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉) ▶ 調査対象者:読売新聞を朝夕刊セットで定期購読する15~69歳の男女個人 ▶ 調査実施日:2023年7月16日 ▶ 調査方法:パソコン・スマートフォン等を利用したウェブ調査。 ▶ 調査実施機関・レターヘッド:株式会社ビデオリサーチ
――いずれの原稿も洗練されたクリエイティブですが、こだわりはどのような点でしょうか。
上原氏:広告は読者が目を止めてくれなければ何の意味もありません。しかし、ただ目を引けばいいわけではなく、ブランドのよさを感じるデザインであることが重要です。そのため商品の写真だけでなく、言葉も一字一句こだわります。モデルの服も商品イメージに合っていなければ反響がまるで違います。ですので、広告原稿の制作では納得がいくまで検討を重ねます。
広告掲載の朝から鳴り続ける直営店の電話
――新聞広告は売り上げにも直結しているのでしょうか。
上原氏:直結します。キース・へリング作品とのコラボ第1弾の広告を出稿したとき、私も甲府の本店にいたのですが、朝から半日、問い合わせの電話が鳴り止みませんでした。こういった反響の大きさも原稿で大きく左右されますから、手が抜けないんです。
――ECの反響はいかがでしたか。
上原氏:オンラインショップにも信じられないくらいの注文が一気にきました。
また、弊社の販売戦略として、新聞広告の掲載に合わせてオンラインショップと直営店4店舗で同時にイベントを実施しています。キース・へリング作品とのコラボシリーズは、若い層にも年配の方にも好評でしたが、若い層はもしかすると新聞を見ていない層と被っているかもしれない。そのため、若い層に対してはECサイトやデジタル広告でアピールし、年配層に対しては新聞広告を見てもらい、デジタルとアナログの両方から囲い込むことで、ECサイトや新聞広告の二次元コードから公式ホームページへの流れができるといった垣根を超えた相乗効果が生まれてきて、最近は新聞広告を核に全体がうまく回り始めた気がしています。
100年経っても変わらない印傳屋の思い
――「第75回正倉院展」へご協賛いただくことが決定しましたが、本協賛に期待することをお聞かせください。
出澤氏:正倉院宝庫には鹿革を用いた作品が奈良時代の作品として残されています。江戸後期、甲府城下には3軒の印伝細工所がありました。現在も伝統の技を継承しているのは印傳屋だけです。その伝統文化を伝えることは重要だと考えておりますので、このように全国の人に知っていただける機会を得たのはありがたいことだと思っています。また、個人的にも「正倉院展」のファンでして、より一層のご縁を感じています。実際に毎年のように足を運んでいますが、年々その盛り上がりを感じており、国内外問わず、世の中の伝統文化への関心の高まりや価値あるものを見直す姿勢を実感しています。そのような中で、弊社が「正倉院展」をお手伝いできるというのは、大変喜ばしいことだと思っています。
上原氏:正倉院には印伝のルーツがあるとかねてから聞いていたこともあり、私たちにとって憧れなんです。そのため「正倉院展」の協賛をすることになろうとは夢にも思わないようなことでしたので、今回ご提案をいただいて嬉しい驚きを覚えました。
――ティファニーやグッチなど海外ブランドのコラボも手掛けられておりますが、どのような狙いがあるのでしょうか。
上原氏:一伝統産業企業が海外にチャレンジするのは、「新しい印伝」というイメージを消費者に持ってもらうためにも重要な戦略だと考えているからです。イタリアのグッチ社からコラボのオファーが来たのは2015年ですが、2011年からニューヨークの展示会に私たちが出店し続けていたことで注目されていたということでした。事業と同じ継続の重要性を改めて感じました。今後は、アジアに向けて印伝を広めていく戦略を練っているところです。
――今後、新聞に期待することがあればお聞かせください。
出澤氏:今回の「正倉院展」のような文化的な活動には今後も協力していきたいと思いますし、その接点になることは新聞の役割の一つだと思います。印傳屋では、1999年に甲府の印傳屋本店2階に印傳博物館を開設しました。私たちの商品だけでなく、伝承者がいなくなり散逸しつつある鹿革工芸や印伝を保存し、日本の文化を後世に伝えるためです。伝統文化を残していくのも印傳屋の重要な役割だと思っています。社外デザイナーの起用、海外アーティスト、海外ブランドとのコラボなど印傳屋の作るものは常に新しさを求めていますが、その一方で、根底にある文化、印傳屋の思想は100年たっても変わらないと思っています。
山梨県甲府市の印傳屋本店
本店2階には印伝の作品をはじめ鹿革工芸品や漆工芸品などを収蔵した印傳博物館がある