【大日本除虫菊】
新聞広告でテレビCMを広告すれば、ローカルCMが全国放送になる!
毎年、話題を呼ぶユニークな新聞広告を出稿する大日本除虫菊(KINCHO)。今年はテレビ面を模した「金鳥新聞」。「LOVEメディア」と題する今回の新聞広告には、これでもかというくらいのムカデネタとクロスメディアな仕掛けが詰め込まれている。その狙いと広告にかける思いを取締役宣伝部長の北伸也氏とクリエイティブディレクターの古川雅之氏に、クライアント、クリエイター両者の視点から聞いた。
大日本除虫菊
取締役 宣伝部 部長
北 伸也 氏
電通 第6CRプランニング局
Creative KANSAI部
グループ・クリエイティブ・ディレクター
CMプランナー/コピーライター
古川 雅之 氏
新聞広告でテレビCMを広告する
広告掲載のQRコードから、CM視聴ページにアクセスできる。
――今回の新聞広告の狙いを教えてください。
北氏:「ムカデムエンダー」は、部屋の広さに合わせて空間に数回プッシュするだけでムカデ駆除ができる新製品です。ムカデは全国に生息していますが、特に需要が高いのが九州、中国、四国地方で、テレビCMも同エリアでオンエアしています。新聞広告の目的は、この「ムカデムエンダー」の認知を全国に広めることでした。そこで制作をお願いしている古川さんたちから出てきた案が、新聞広告を利用してホームページに誘導し、そこでコマーシャルを見てもらえば全国放送のテレビCMと同じになるというアイデアでした。テレビ面の下に「新聞読んで、テレビを見よう!」。その下を見たら「なによりも、コマーシャルを見よう!」「テレビじゃなくても、ここから見られる!」とネットに誘導する。この2段階の発想が非常に面白いと思ったんですね。
古川氏:昨今テレビCMはオンエアされるだけでなく、自社のホームページにも格納されるのが普通です。この新聞広告がネット上で話題になれば、多くの人にホームページにおいでいただいて、コマーシャルの視聴を広げることができます。また、テレビでオンエアされるコマーシャルの注目度もさらに上がります。つまり、新聞広告を第2の発火ポイントとして「新聞広告でテレビ広告を広告する」ことを今回の企画としました。
テレビ面は新聞とテレビの交差点
――テレビ面を模したアイデアは、どのように出てきたものでしょうか。
古川氏:アイデアは考えを正しく積み上げて出てくるものでもないので・・・苦しまぎれに思いついたものを、都合よく後付けで説明することになってしまいますが(笑)。新聞広告という枠を超えて、その外に広告を拡げる。言いかえると「話題化したい」と考えたとき、世の中にいま広く行き渡った気分に乗る、ということが必要になります。その糸口のひとつが、昨今よく言われる「マスメディアに元気がない」という状況でした。若者はテレビを見ない・・・新聞読者も減っている・・・そう言われている世の中の状況にあらがいつつ乗っかりつつコミュニケーションできないか、というのが企画の発端です。テレビ面は、新聞とテレビの交差点とも言えます。15段という大きな紙面を使い、テレビ面をモチーフにすれば、新聞、テレビ、ラジオも含めたメディア自体への注目度もあがると思いました。
――テレビの番組表をよく見ると、全てムカデに関した番組になっています。
古川氏:まず広告を読み飛ばされないこと。そして広告紙面に1秒でも2秒でも長く止まってもらうことを目標にしています。その方が印象に残るし、誰かに言いたくなる人が増えると思います。そのためには、やはりディテールまで手を抜かないことだと考えています。
北氏:一つ一つ読むとしょうもない番組が並んでいるだけですけど(笑)、読み始めるとつい読んでしまう。スマホだと見ている画面を一度消してしまうと、後でもう一度見るということはほとんどないですが、新聞なら後でじっくり見ることもできます。それも新聞広告の良さだと思います。
「ボツになった新聞広告」も見られます
ボツになった新聞広告も、HPで公開している。
――紙面のQRコードでテレビコマーシャルだけでなく、「ボツになった新聞広告」まで見られるようになっています。これは本当に今回ボツになった案ですか。
古川氏:そうです。広告はサービス精神ですから、あの手この手で。わざわざQRコードを読んで見にきてくれた人に、少しでも面白いと思ってもらえることを飛んでいった先にも仕込んでおく。それが、広告が新聞を飛び出して話題になることにつながればと思いました。プレゼンの時はダミーの写真でしたが、このボツの新聞広告を作る時は、実際にサバを三枚におろして、骨を焼いて撮影しています。
――広告の反響はいかがでしたか。
古川氏:SNS上の反応を見ていると、とてもよい反響をいただいたと思っています。「普段見ないテレビ面を初めてじっくり見た気がする」「初めて新聞を隅々まで見た」などの声があったのはうれしかったですね。
QRコードの先こそ見たくなる仕込みを
――QRコードの先に新聞広告が出てくるアイデアでは、2020年の「もう どう広告したらいいのか わからないので。」が強く印象に残っています。
古川氏:KINCHOさんの新聞広告の制作は毎年、2、3月から考え始めるのですが、2020年は新型コロナで初めて、リモートでプレゼンしました。感染拡大の先が見えず、多くの企業がどんな広告を出せば良いのか悩んでいる時期でした。さまざまなケースを想定して何案も考えていきました。しかし、面白いかもしれないが不謹慎かもしれない、状況によっては笑えなくなるかもしれない・・・ということで、なかなか決められない。最後の最後に出てきたのが、それまで作った広告案の扉ページを作って、ケースバイケースの広告をQRコードで見られるようにしようというアイデアでした。
北氏:広告にQRコードを付ければ必ず見てくれるかと言ったら、そんなことはないわけで、見たくなる仕込みが大事だと思います。古川さんたちが提案するQRコードの先には、しょうもないものも含め「その先に何があるやろ」と興味津々で見たくなる仕掛けが用意されています。ここ数年、KINCHOでは新聞広告を毎年出稿していますが、コロナ前までは、数字を順につないでいくとある文字が浮かんでくる広告や、(折ると台所によく出てくる虫になる)超難解折り紙など、紙媒体という新聞の特性を生かして、読者に参加してもらうことを狙ってきました。それが、ここ2、3年さらにバージョンアップして、単純な参加ではなく、新聞を起点に楽しんでもらう方向に進化してきたと思います。
2020年5月30日 全国朝刊
2017年5月27日 全国朝刊
「広告で楽しいことをやる会社」というブランディング
――振り切った広告表現は炎上リスクも高くなると思います。クライアント、クリエイターそれぞれの立場から「広告の炎上」をどう考えるか、お考えをお聞かせください。
北氏:同じインパクトのある広告でも、人に面白いとか広告を見たいとか思わせることと、何かを批判することで注目されることとはまるで違うと思います。その見極めだけはきっちりするようにしています。広告を見たいと思わせるトリガーがいくら尖っていても、問題ないと考えています。
古川氏:気を付けているのは、やはり、人を傷つける笑いにならないようにということです。世の中で起こっていること、いろいろな人が感じていることを、KINCHOならではの見方で表現する。「物の見方」「視点や視線」に面白さを求めることが大事だと思います。
――世の中には、KINCHOは面白い広告を作る会社というイメージがあります。
古川氏:作り手として恵まれていると思うのは、「KINCHO」というブランドの「人柄」が、「広告で楽しいことをやる会社」として認識されていることです。「また冗談言ってる」「また何か面白いこと言ってる」と好意的な目で見てくれる。受け手がそういう準備してくれているというのは、広告を作る側としてはすごくやりがいを感じます。ただ、期待を裏切らない広告を作り続けるのはプレッシャーでもあるのですが。
クリエイターからの提案を消費者目線で選ぶ
――KINCHOと古川さんたちの電通 Creative KANSAIの関係は、関西電通の時代から数えると50年以上になりますね。
北氏:コンペでいろいろな会社に提案いただくのも一つの方法ですが、KINCHOの製品や会社を深く理解した上で広告を考えていただく方が価値があると考えています。広告の基本的な方針は示しますが、具体的な広告内容に関してはクリエイターに任せるというのが基本なんですね。それは会社のトップの方針でもあります。
――実際に出稿する新聞広告は、どのように選んでいるのでしょうか。
北氏:我々宣伝部は小人数で仕事を回していますが、古川さんたちからの提案を必ず全員で聞いて、その場で決めるものは決める、決められなければ課題をまとめて、また改めて提案してもらうというやり方を取っています。個別にやっていくと、それぞれの考えが出てきて、まとまっていかないのですね。
古川氏:提案をその場で決めていただけるというのは、本当にすごいことだと思っています。それから、初見で「ここがわかりにくい」などまっすぐなご指摘も、修正のヒントになります。解決策を考えているうちに新しいアイデアにつながることも多いですね。
――コンペのように1回のプレゼンで終了ではなく、これでいこうという案ができるまで、アイデア作りの関係は続くわけですね。
古川氏:コンペではないので最終的に「僕たちが提案した案の中から選ばれること」は決まっているわけです。これはある意味、怖いことです。コンペなら勝って負けて、いろいろと言い訳もできますが、それも一切できません。プレッシャーも当然ありますが、クリエイターとしては本当にやりがいがあります。毎回必死です・・・。
――宣伝部として最後にこの広告でいこうと決める。その決め手はなんでしょう。
北氏:これでいこうという確信めいたものが自分の中にあるから決断するのですが、最後は自分の中の自分です。会社と関係のない人間を自分の中にもう1人置いて、その自分がこの新聞広告を見たときに、この商品を買って使おうと思えるかどうか。これからもそのことを大切にしながら、提案して頂いたアイデアを判断していきたいと思います。