八塩圭子さんと振り返る
2023年3月8日朝刊「国際女性デー」企画
1975年に国連によって制定された3月8日の「国際女性デー(International Women’s Day)」。2023年の当日に読売新聞は女性の健康、エンパワメント、ジェンダー平等を考える広告を合計70段掲載しました。
この日の紙面はどのように見られたのでしょうか。読売マーケティング賞の選考委員を務める東洋学園大学教授・フリーアナウンサーの八塩圭子さんに企画担当者の読売新聞東京本社コンテンツ企画部の龍至江梨子がお話をうかがいました。
右から、東洋学園大学教授・八塩圭子さん、読売新聞東京本社コンテンツ企画部主任・龍至江梨子
(東京・文京区の東洋学園大学キャンパスにて)
ジェンダー平等は次のステップへ
龍至:3月8日の紙面をご覧になっての全体的な印象はいかがでしたか。
八塩さん:まず、3月8日の「国際女性デー」が世の中に広がってきている、ということを全体の印象として感じました。1面にも黄色の小枠があって、黄色、ミモザ、国際女性デー、とイメージできますね。それから、今回の各広告の内容を見て、今までと圧倒的に違うと思ったことがあります。それは、「女性の健康」というテーマに向き合っている内容が多いということです。今までは「ジェンダーバイアスをなくそう」だったり、「女性の活躍推進」であるとかのメッセージの方が強かったと思うのですが、今回の読売新聞の紙面では「女性の健康を考えよう」というメッセージが中心にあることで、ジェンダー平等も次のステップに進んだなと感じました。
龍至:エスエス製薬、沢井製薬、健保連のメッセージはそれに当たりますね。
健保連「未来のために語る。女性の健康問題」(クリックで拡大)
八塩さん:もちろんジェンダーバイアスをなくすことや女性が働きやすい環境作りも大切だと思いますが、バリバリ働きたい人もいれば、家庭とバランスを取りたい人もいる。それに長い人生の中で立ち止まる時期もあると思うので、「活躍推進!」ばかりでは疲れてしまうし、そろそろ次のステップが必要なのかも、と感じていました。そんなタイミングで今回の紙面を見て、女性が自分らしくあるためにはただがむしゃらに働くことだけではなく「休息」や「健康」、「教育や働く環境」こそが大切、という解をもらったと思いました。
龍至:3月8日の一連の広告の広告接触率(確かに見た+見たような気がする)は93.1%ととても高いものでした。また、広告の印象については「話題性がある」「よい広告を出していると思う」「タイミングがよい」「共感できる」などのスコアが高く出ました。
新聞広告共通調査プラットフォーム J-MONITOR 調査概要
調査地域:首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉) 調査対象者:読売新聞を朝夕刊セットで定期購読する15~69歳の男女個人 調査実施日:2023年3月9日 調査方法:パソコンを利用したウェブ調査 調査実施機関・レターヘッド:株式会社ビデオリサーチ
八塩さん:「今日は『~の日』です」という手法は新聞広告の得意なところですね。広告を出すタイミングはとても大切です。それから、「広告に共感できる」ということはなかなか難しいことだと思うのですが、新聞メディアの特性のひとつであるメッセージ性に裏打ちされて、どれも非常に質の高い企業広告となっている。それが心理的に広告を受容できる理由なのだと思います。
「風景を変えること」が重要
八塩さん:今回の広告ビジュアル全部に女性が出ていることも良いです。いつもの新聞の風景が変わったように感じます。
龍至:エスエス製薬はモノクロの菜々緒さんが印象的ですし、住友商事は女性活躍推進の取り組みを社員の方がお話なさっています。芝浦工業大学は副学長の女性が工学の魅力を伝え、健保連は参議院議員の松川るいさんと、2022 ミス・ユニバース 日本代表の坂本麻里ベレンさんが対談しています。また、沢井製薬の広告では創業の原点となった100年前の女性薬剤師、澤井乃よさんの逸話を知りました。
上10段:編集記事(大手小町・福島イベントの採録)
下5段:住友商事「女性活躍推進の取り組み」(クリックで拡大)
読売新聞オンラインで特設ページも
八塩さん:やはり政治面にしろ、経済面にしろ、新聞は男性が出ているページが多いイメージがあります。私はジェンダー平等に関して、まずは「風景を変えること」が重要だと日頃から考えています。経営者を招いての大学主催の講演会でも、なるべく半数は女性社長に登壇していただくようにしています。
また、広告を出している企業・団体の業種が多様なのも素晴らしいと思います。これまで男性中心で、女性に優しくはない印象の商社や工業大学のメッセージからは、本気で変わろうとしている姿が伝わってきました。
龍至:調査のフリーアンサーを読むと、男性から「女性特有の問題を改めて意識する機会になりました」という声が多くありました。
<読者の声>
- 女性特有の問題の解決を改めて認識する良い機会だと思う。(男性29歳以下)
- 様々な企業や団体が、同じテーマをそれぞれの立ち位置から表現をしていて、とても興味深いなという気がしました。今後一層、女性にとってよりよい社会になればいいと思いました。(男性40代)
- 女性特有の問題や男女共有の問題について、改めて関心が沸いた。(男性60代)
- 国際女性デーは、名前は聞いたことがありますが、詳しくは知りませんでした。このように新聞で多く広告が掲載されることはとても良いと感じます。1面の黄色い小さな広告が一番気に入っています。これからもっと国際女性デーが広まっていけばと思います。(女性50代)
- 何面にもわたりインパクトがありました。話題性もあり良いタイミングだと思います。(女性50代)
八塩さん:読売新聞は家庭に届くので、いろいろな立場の人が読んでいると考えられます。中高年にも強いので、経営・管理者層にも届く。今回の一連の広告を見て、男性や経営に携わる方が、やはり変わらなきゃ、と認識してもらえたらありがたいですね。
読売新聞広告局Twitterアカウントでも発信
龍至:今回の広告は、読売新聞広告局のTwitterアカウントでも掲載をお知らせしました。
八塩さん:SNSの情報は拡散されやすいですけれども、誰が発信したものなのかがとても分かりにくいですよね。そういう意味で新聞社が発信した情報の信頼度はネットを中心に情報収集している人にとっても揺るぎないものです。今は各社・各団体ともオウンドメディアで情報を発信することも多いですが、公平公正な記事を掲載している新聞の第三者性は他には替えがたいと思います。
私が調べたところ、SDGs関連の新聞記事掲載が年々増えていることが分かっています。
このように世の中の注目が社会課題の解決に集まる中、新聞紙面における企業からのメッセージの発信は社会に大きな影響を与えます。今年の国際女性デーの紙面を見て改めてそう感じました。
龍至:八塩さんからお話をうかがい、あらためて新聞広告は社会や読者の問題意識に訴える力のあるメディアだと再認識しました。デジタルは関心層を捉えて深く届きますが、広い層への影響力・拡散力は新聞の強みだと思うので、今後もアピールしていきたいです。本日はありがとうございました。
八塩 圭子(やしお けいこ)
東洋学園大学教授/
フリーアナウンサー
専門分野はマーケティング、メディア。上智大学法学部卒業。テレビ東京で経済部記者、アナウンサーを務めた後、フリーに。法政大学大学院経営学専攻修了。関西学院大学准教授、学習院大学特別客員教授を経て現職。報道・情報番組などにコメンテーターとして出演。