国内の若者と海外に向けて
奈良県が世界遺産プロモーション映像を制作
YOMIURI BRAND STUDIOが奈良県世界遺産室の公募した奈良県の世界遺産をめぐる旅をイメージした観光プロモーション映像を制作した。国内向けと海外向けの2本の映像を制作し、国内向けにはYouTube、Instagram、TikTokのSNSで広告配信、海外6か国にも広告配信プラットフォームを通じてWeb広告配信を行った。奈良を「周遊する魅力・楽しさ」を伝える映像制作の狙いと反響について、奈良県世界遺産室の森井室長に聞く。
日帰り観光地を払拭する“奈良”をアピール
奈良県 地域創造部 世界遺産室長
(なら歴史芸術文化村 副村長)
森井 順之 氏
――奈良県の世界遺産、文化資源の魅力を発信する映像制作を公募することになった経緯を教えてください。
森井氏:日本には現在25件の世界遺産がありますが、奈良には「法隆寺地域の仏教建造物」「古都奈良の文化財」「紀伊山地の霊場と参詣道」の3件の世界遺産があります。2025年の大阪・関西万博を見据えて、奈良県内の貴重な文化資源を活用し、県内を周遊する観光客を増やすこと、加えて、これまで来訪の少なかった奈良県外の若年層や外国人観光客に県内各地の魅力を伝えたいという思いから、映像制作を企画しました。特に2023年は世界遺産「法隆寺地域の仏教建造物」が登録30周年、「古都奈良の文化財」が登録25周年というメモリアルな年でしたので、日本を代表する世界遺産やその地域の食、宿泊地を「周遊する」魅力・楽しさを伝えたいと思いました。
――奈良を「周遊する」魅力・楽しさを伝えたいというのは?
森井氏:奈良県へお越しになる観光客の方々は、有名な社寺などの観光地を1、2か所観光して、日帰りというパターンが定番となっています。そういう人たちに、「奈良に宿泊してもう少し足を運べば橿原(かしはら)神宮があります」「さらに足を伸ばせば紀伊山地の霊場もあります」「正倉院展で有名な奈良国立博物館もあれば、橿原市には考古学で有名な橿原考古学研究所があり、その附属博物館もあります」などということを伝えたかった。そのためには文化資源だけではなく、その周囲の飲食店、宿泊施設、そこに行くための移動手段をもっとアピールしていく必要があると考え、そのための有効なPR手段として映像制作を企画しました。
県外の若者向けとインバウンド向けにクオリティの高い映像を制作
――今回の映像制作にYOMIURI BRAND STUDIOの提案が選定されました。どのような点が評価されたのでしょうか。
森井氏:県外の若年層と外国人観光客おのおのに最適化した映像を制作するという提案で、まさに我々が意図するところにぴったりの提案でした。行政はどうしても発想が固い。その固い発想を非常にクオリティの高い映像にしていただけたと思っています。YOMIURI BRAND STUDIOの制作力については、1年前の「春日若宮おん祭」の映像制作で納得済みです。奈良在住の書家・逢香さんにナレーションと出演をお願いして「おん祭」を紹介した映像です。昨年12月に奈良国立博物館がおん祭の展覧会を開催されたとき、その映像を紹介するチラシを作成し、館内に配架させていただきました。チラシは日本語版と英語版両方作りましたが、YouTubeへアップした映像へのアクセスも大きく増えました。
――今回の映像には、世界遺産だけでなく、ホテルやレストラン、お店も登場します。
森井氏:法隆寺や春日大社など登場させる文化施設は予め決まっていましたが、その周辺のレストランやお店のリサーチはかなり制作スタッフにお任せした部分があります。若年層向けの映像では、登場する男女が和服に着替えますが、そこに登場する貸衣装屋の情報も制作スタッフからいただいたものです。
――若年層向けの映像(本編)はバスに乗って移動するシーンから始まります。
森井氏:それが今回の映像の狙いの一つでした。意外と近い距離・簡単な交通手段で、別の魅力ある文化資源、飲食店、宿泊施設を体感できることも、今回の映像で伝えたかったことです。例えば、法隆寺には電車でも行けるし、バスでも行けます。大阪からなら、天王寺駅から法隆寺駅までJR大和路線を使って20数分で乗り換えなしで行けます。それから、奈良交通は観光地をめぐる路線バスを走らせています。映像にある「奈良・西の京・斑鳩回遊ライン」のバスに乗ると近鉄奈良駅から1時間ちょっとで法隆寺に着きます。その道中、唐招提寺や薬師寺の前も通るし、さらに法隆寺の1km先には藤ノ木古墳もあります。奈良の文化財は点在しているのではなく、日本史のドラマを感じられる太い線で繋がっている。しかも、その周辺には美味しい食べ物や体験型の施設がある。そのことを映像で知ってもらいたい。風景も含めて美しい奈良を見てほしい。それが若年層向けのメッセージとして伝えたかったことです。
――バスの色(薄紫)が奈良のイメージに合っていますね。
森井氏:実はこのバスのシーンですが、映像制作中に「奈良・西の京・斑鳩回遊ライン」のラッピングバスが運行を開始し、無理を言って撮り直しをお願いしたものです。映像にうまくバスのイメージを取り込めたと思います。
今後も「奈良を周遊する楽しさ」の発信を
――インバウンド向け映像には、ルート案内が出てきます。
森井氏:外国人観光客は、国内の観光客よりさらに日帰りの傾向が顕著で、東大寺と興福寺を見て、奈良公園の鹿と戯れたら帰るというパターンが一般的でした。それだけではない、違う奈良の楽しみ方を知ってもらいたいということで、インバウンド向け映像には、具体的な公共交通機関を活用した移動ルートや所要時間を映像に盛り込みました。加えて、歴史と伝統のある高級ホテルや食事も紹介しています。
――映像の効果は表れているでしょうか。
森井氏:まだ数値としてははっきり表れていませんが、個人旅行の外国人の方の動きが少しずつ変わってきていると実感しています。法隆寺周辺の外国人観光客の動きを見ても、当たり前のルートではないところを歩いている人たちが増えています。私たちが昨年から努力してきたことが、少しずつ伝わってきているのかなと思います。
――今後の展開を教えてください。
森井氏:奈良県には、今回の映像で紹介した「法隆寺地域の仏教建造物」「古都奈良の文化財」二つの世界遺産以外にも、2024年に登録20周年を迎える「紀伊山地の霊場と参詣道」や現在世界遺産登録を目指す「飛鳥•藤原の宮都とその関連資産群」をはじめとするたくさんの魅力ある文化資源や、それぞれの地域に魅力ある食、宿泊施設、温泉などが多くあります。これまで奈良県に興味が無かった方々やより深く奈良県を知りたい方々に「奈良県を周遊する楽しさ」を今後も発信していきたいと思います。