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特集シェア、してますか?

(2015.4.6/2015年4・5月号 特集)

スペースの価値観を変えるシェアビジネス マスメディアは戦略的に使う
スペースマーケット   代表取締役   重松大輔 氏

重松大輔 氏

「スペースマーケット」は、企業の持つ遊休スペースや利用時間外のオフタイムを、ミーティングやイベント、研修、株主総会などさまざまな用途で貸し出すマーケットプレイスだ。「アメリカの野球場で株主総会をしよう」「古民家で会議をやろう」などスペースのユニークな使い方の提案がウェブはもちろん、新聞や雑誌、テレビでもよく目にするようになった。その広報戦略を含め、代表取締役の重松大輔氏に聞いた。

スペースの新しい価値を提供する会社

──スペースマーケットはどんな会社でしょうか。

  一言で言うなら、「スペースの価値観を変える会社」です。スペースの価値観を変えて、よりチャレンジを生み出しやすい世の中にしたいということから作った会社です。

──貸しスペースの検索サイトと言ってしまうと、違う?

  われわれが提供しているのは、会議室だけではなく、ユニークなスペースを貸し借りできる「マーケットプレイス」です。マーケットプレイスというのは、売り手と買い手が自由に参加できるインターネット上の取引市場のことで、日本ではヤフオク!や楽天市場がその代表例です。その中でスペースのマーケットプレイスというと、今まであったのは会議室やホテルの検索サイトで、インターネットが普及し始めた1990年代後半ぐらいからありました。われわれは、ただ単にスペースの貸し借りの場を提供しているのではなく、スペースの新しい価値や新しい体験を訴求している。そこが、今までとは違う点だと思っています。

──具体的には、どんなサービスですか。

  会議室で会議をやるのは当たり前ですけれども、古民家でアイデアを出し合うミーティングをしたらどうだろう。野球場で株主総会をしよう。帆船で会社の周年記念パーティーをやってみよう。映画館で新規事業のキックオフイベントをやったら盛り上がるんじゃないか。「ハレの舞台」という言い方がありますが、今まで型通りにやっていた会議やイベントも、場を変えることによって参加者の意識が変わり、新しい発想も生まれやすくなる。そういう今までにない魅力あるスペースの使い方を提案する会社です。
  具体的な例をいくつか挙げると、まず「鎌倉 Co-Minka」、その名の通り鎌倉にある古民家があります。スペースマーケットがサービスを開始したのは昨年4月ですが、ここはすでに外資系企業を含め30社ぐらいが利用しています。使用目的は、オフサイトミーティングや企業の真面目な会議、幹部合宿などさまざまです。冬は多少寒かったりするのですが、光ファイバーが入っていてプロジェクターやホワイトボードもあります。会社の会議室と同じことがここでできるわけです。鎌倉駅から歩いて15分ぐらいのところにあるのですが、自然豊かなところを歩いていって、ここにたどり着いて、1日気持ちのいい気分でミーティングができるわけです。

──借りる時間は、どのくらいが多いのでしょうか。

  基本的にはどの物件も時間単位、1日単位で貸していますが、この古民家の場合は半日か1日の利用が多いですね。曜日によって多少違いますが、1日3万円ぐらいで借りられます。ここのオーナーさんは月15万円でこの古民家を借りていて、ご自身もオフィスとして使っているのですが、わりと都心に出ることが多いので空いている時間が多い。それなら、空いている時間帯に人に使ってもらって、楽しんでもらおうということで始めた。月に5日間利用者がいれば、古民家の賃貸料もペイするわけです。

──空いている時間だけ貸し出しているわけですね。

  通常のレンタルスペースというのは、初めから貸すことに特化した施設がほとんどですが、空いている時間をシェアすると考えれば、さまざまな場所の貸し出しが可能になるわけです。
  例えば、ベンチャー企業のプレゼン大会を映画館でやった事例があります。昨年の12月に「ユナイテッド・シネマ豊洲」で実際にやった例ですが、映画館らしさを演出するために、登壇者のポスターを一人一人作って、通路に掲示しましたが、巨大なスクリーンはあるし、音響設備も整っている。映画館の舞台はまさにプレゼンするにはぴったりの場所なのです。
  ベンチャー企業が10社参加して、それぞれプレゼンを行い、質疑応答もあるので、参加者は3時間ぐらいずっと座っていなければいけないのですが、映画館の椅子は長時間座っていても疲れないんですね。

──映画館を借りた時間というのは?

  このイベントの場合は、平日の朝7時から11時ぐらいまでやりました。平日の映画館の上映開始時間は午前11時前後ですから、早朝は使われていません。特にヒット作が出ていない時期だと、平日早朝の利用は映画館にも喜んでもらえますね。

鎌倉市二階堂にある築90年の古民家は、昨年4月から30回以上の利用がある

ベンチャー企業と大企業のマッチングイベント「Morning Pitch」の年末特別版として昨年12月、映画館で開催。通路には登壇者の映画風ポスターも掲示された

さまざまな分野に展開可能なスペースのシェアリング

──説明を聞いて、「スペースの価値観を変える会社」の意味がわかった気がします。

  これもそういうスペースの使い方の例になると思いますが、今年の1月に芝の増上寺で、商売繁盛の祈願を兼ねた賀詞交換会をやりました。

──普通はホテルの大広間でやりますね。

  それだとつまらないじゃないですか。もともと弊社の1周年記念パーティーをやろうと思って、話を進めていたのですが、協賛してくれる企業もあったので、規模を大きくして、一般の参加者も募って開催したのです。増上寺には商売繁盛の祈願もお願いした。海外の方にもすごく喜んでいただけましたね。

スペースマーケット、PayPal、Tech in Asiaの共催で1月16日に開催されたベンチャー企業の賀詞交換会。芝の増上寺で行われ、商売繁盛の祈願も行われた

──広告キャンペーンやイベントにも、利用できそうなサービスですね。

  ですから、イベントの場所探しの依頼もありますね。例えば、最近多いのは一時的なテナント、ポップアップショップをやりたいので、その場所を探してほしいという依頼です。この間は、CMの撮影で回転ずし屋を借りられないかという話がありました。「100軒ちかく電話したけど見つからない」と。われわれはスペースに関しては、すでにいろいろコネクションができていますから、見つけやすいですね。
  最近、イギリスやアメリカで急激に伸びている「Appear Here」というサービスがあります。これは、通りや地下鉄、ビルの屋上などの空きスペースを1日単位、1週間単位で借りられるサービスです。そこでお弁当や新製品の食品、物販などの商売をするわけです。
  日本の場合は規制も多く、そういう場所を借りるとしたら期間は1年、保証金も必要。いざ、やってみたら全然、客が来ないという場合が多く、ものすごくハードルが高い。その商売がうまくいくか、空きテナントで1週間、2週間でも、実際に商売をやれば、だいたいわかるわけじゃないですか。

──貸す側から見れば、短い期間で貸すことによって今まで使われていなかったスペースの有効活用もできるということですね。

  ところが、土地やスペースの賃貸というのは、日本の場合、不動産の商慣習に縛られていて、「長く貸していくら」だったんですね。

──地方都市でシャッター通りが増えていますが、それもスペースマーケットのようなサービスが普及すれば、活性化するかもしれない?

  まだ形にはなっていないですが、そういう相談も自治体から来ています。地方には使われていない立派なホールがあります。それから、廃校になって、そのままの校舎や体育館もものすごく多い。その一方で、野原のようなところで1万人を集めるような音楽フェスが増えてきています。だから、やりようで、そういうところで音楽フェスを企画してもいいし、廃校の体育館で研修するとか、みんなでバーベキューをして、テントを張って寝るとか、いろいろな活用の仕方があると思いますね。

会社設立時からサイトの広報戦略を考える

──会社の設立が昨年1月、サービス開始が4月で、ウェブだけでなく、新聞、テレビなどにも取り上げられていますが、広報戦略はかなり意識しているのでしょうか。

  会社を立ち上げるとともに、サイトの広報戦略を考えました。最初に話したように、会議室の検索サイトはたくさんあるわけで、その中で目立たなくてはいけない。それで、海外の空きスペース活用サービスなども研究して得た結論が、「今まで使ったことのない珍しい場所を借りられるサービスなんだ、ということを全面に出す」ということです。
  しかし、まったくのベンチャー企業としてスタートしましたから、社会的信頼もない。そこで、最初に目指したのがウェブ媒体に取り上げられることです。そのために何が大事かというと、ビジュアルです。今はソーシャルメディアの時代なので写真がとても重要なんです。まず写真がシェアされて広まっていく。どんなにいいことを言っている記事でも、写真が魅力的じゃなかったらシェアされないことが多いんです。

Coca-Cola Park(アメリカ:Allentown)の球場 ¥200,000/日〜

──アメリカのマイナーリーグの野球場、コカ・コーラ パークと契約を結んだのは、そういう考えだったんですね。

  1日20万円で実際に借りられますが、この球場の写真がスケールや世界観を伝えるのに最適だと思ったんですね。たまたま僕の知り合いがここで働いていて、運営する会社の社長が日本にきた時に、許可をいただいたんです。それをサイト立ち上げの段階でIT系のニュース配信サイト「TechCrunch」に取り上げていただき、それを堀江貴文さんが絶賛してくださったことから広まっていきました。

──ソーシャルメディアで拡散させるためにはビジュアルがキーになるというのは、言われてみればそうですね。

  ネットの勃興期のときにある会社が、やたらかわいい子を使ったバナー広告を出していたんです。実は転職サイトのバナー広告だったのですが、広告には「転職」とすら書いていない。でも、みんな、その広告をクリックするんですね(笑)。

──マス広告で、小動物や赤ちゃんの写真は見られるというのと一緒ですね。

  そうなんです。ただスペースマーケットの場合は小動物が出ていてもおかしいので、ユニークなスペースの写真でいくようにしたということですね。
  それで、その次に目指したのがベンチャー系のビジネスコンテストに出ることです。政府もベンチャーを支援する環境作りに取り組み始めていますし、ベンチャーキャピタルも増えていて、ベンチャー企業を見いだすためのイベントが、最近多いんですね。その中でも権威のある三つのコンテストを狙ってエントリーし、一つは準優勝でしたが、二つは優勝しました。
  それがウェブ媒体で取り上げられ、ネット上で話題になると、次に雑誌や新聞が取材に来るようになりました。紙媒体で何回か取り上げられると、最後にテレビが取材に来る。そういう順番でしたね。

まだまだ認知されていないシェアリングエコノミー

──ウェブ、雑誌・新聞、テレビ、それぞれに取り上げられた反響に違いはあるのでしょうか。

  ありますね。最初にウェブに取り上げられた時は同業者というか、インターネット・ビジネスに関心のある層が反応する。新聞によっても差があって、日経新聞の場合は大企業は反応しますが、読売新聞や朝日新聞に取り上げられると、さらに老舗企業や個人経営者の人たちも反応するようになる。テレビに取り上げられると、一般の人たちからも反響があります。ウェブだけだと、世の中に広がっていかないところがありますね。

重松氏は、サイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV)主催の「RISING EXPO 2014 in Japan」(2014年8月8日開催)でも優勝。「RISING EXPO」は、IT・インターネット関連ベンチャー企業を対象としたアジア最大級の資金調達・事業提携イベント

──メディアの取材の時に心がけていることはありますか。

  わかりやすく書いていただく努力は、かなりしています。「シェアリングエコノミー」というのは、バズワードみたいになっていると思うんです。フワフワして、意外とわかりにくい言葉ですよね。ですから、写真を渡したり、サービスもできるだけかみ砕いて伝える努力をしています。
  リーマンショック以降、海外では、空き部屋を短期間貸し借りしたい人同士をマッチングする「Airbnb」、車の所有者が相乗りしたい人を募る「Lyft」、スマホアプリを利用したオンデマンドタクシー配車サービス「Uber」などのシェアリングエコノミー・サービスが成長を続けています。インターネット関係者なら誰もが知っていることです。ところが、一般の人たちを対象にした講演会で、「Airbnb」や「Uber」を知っているか聞くと、まだ1割くらいの人しか知らないんですね。

──プレスリリースを出す頻度というのはどのくらいでしょうか。

  実は、これまで出したプレスリリースは3回だけです。ベンチャー企業がメディアに取り上げられるためには、大企業との提携などで話題を作っていくことも大事ですし、われわれの場合だったら、本来的にはどれだけ面白い事例を作れるかだと思いますね。もちろん、実際はいつもお寺でイベントをやっているわけではないですが(笑)。

──先ほどの使われていない自治体のホールの話もそうですが、その事例はさまざまな角度から考えられるような気がしますね。

  不動産業というのは大きなマーケットですが、1年、2年という長い賃貸契約期間を前提にビジネスをやってきました。スペースマーケットは、そういう古い商習慣に固まった不動産マーケットを活性化させ、貸すほうにも借りるほうにもウィンウィンの関係を作るビジネスだと説明しています。それから、高齢化や過疎化が進む地方で空き家問題が発生していますが、そういう社会問題に対しても解決の糸口になるかもしれません。また、この仕事を始めて知ったのは、歴史的な建造物が管理者や維持費の問題で取り壊しの危機に瀕しているものが意外に多いことです。「スペースの価値観を変える」この事業が、そういう歴史的建造物の利用や保存にもつながればいいと考えています。

Daisuke Shigematsu

株式会社スペースマーケット代表取締役。1976年千葉県出身。早稲田大学法学部を卒業後、2000年にNTT東日本入社。法人企画営業やPR誌の編集などに携わり、2006年フォトクリエイトへ。同社では一貫してウエディングなどの新規事業を手がける。昨年末に退社し、2014年1月に株式会社スペースマーケットを立ち上げ、4月からサービス開始。同年、ベンチャー系のビジネスコンテスト「IVSローンチパッド」で準優勝、「Bダッシュキャンプ」「Rising Expo」で優勝し、注目を集めた。