読売出版広告賞
ごあいさつ
読売新聞東京本社 取締役ビジネス局長 坂本 裕寿
2024年は元日から能登半島地震が発生し、大きな不安や悲しみの中で1年の幕を開けました。被災地域では多くの書店が休業や閉店を余儀なくされましたが、出版界でも販売会社による応援派遣をはじめ、業界団体が義援金を募るなど復興へ向けた支援の輪が広がりました。
出版文化産業振興財団の調査で地域に書店が一つもない「無書店自治体」が全体の4分の1にのぼるなか、文化の発信拠点である書店を支援したり、活字文化に触れる機会を創出したりする取り組みが日本中で始まっています。経済産業省は書店振興プロジェクトチームを設置し、文化の基盤としての書店振興に取り組んでいます。秋の読書推進月間(BOOK MEETS NEXT 2024)では全国9都市で企画・イベントが開催され、3千店もの書店が参加するなど、幅広い世代が本に出会う機会となりました。
読売新聞も出版関連業界と協力し、活字文化を守り育てていく「21世紀活字文化プロジェクト」を推進し、全国各地での読書教養講座や活字文化公開講座、書評合戦のビブリオバトルなどの活動を展開しています。引き続き、書店活性化のための諸施策を後押しするとともに、読者に書評や出版広告をお届けして本の普及につなげ、出版文化の振興に貢献してまいります。
「読売出版広告賞」は、出版界のさらなる発展と出版広告の活性化に寄与することを目的に1996年に創設されました。29回目を迎える今回は、読売新聞に23年12月から24年12月までに掲載された出版広告を対象に厳正なる選考を行った結果、大賞と銅賞に集英社様、金賞に筑摩書房様、銀賞にKADOKAWA様、特別賞に光村推古書院様の広告が選ばれました。大賞を受賞した集英社様の広告「みどりいせき」は、朝刊一面3段広告という限られたスペースで、著者の手書きのメッセージや、小説の世界観を凝縮した印象的なコピーで選考委員全員の支持を得ました。その他の受賞作品も、いずれも選考委員から高い評価を得たうえでの受賞であり、受賞各社の皆様に心からお祝い申し上げます。
今後も読売出版広告賞が、出版界の発展と広告活動の活性化に寄与できるよう努力してまいります。関係者の皆様には、引き続き変わらぬご支援を賜りたくお願い申し上げます。
最後になりましたが、選考をお願いした先生方に深く感謝申し上げます。
第29回受賞作品
第29回読売出版広告賞は、2023年12月2日から2024年12月31日までに読売新聞に掲載されたすべての出版広告が賞の対象となっています。
大賞
- 集英社「みどりいせき」
- 2024年6月17日付朝刊 全3段
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- 制作/株式会社ウッディ
- デザイン/笠原万穂
- コピーライト/須永敦子
- 中江有里 選評
- 三島賞げと!大重版げと!そしてこの度は本広告賞の大賞げと!おめでとうございます。
作家の名を冠した文学賞は堅苦しくなりがち。そんな概念を覆すコピーに惹かれた。
これが〇〇賞受賞だと「謹んで受け取ります」「げと!」なら「獲っちゃった!」
純文学は新たな文体の出現。まだ読んだことのない本を世に送り出す出版社と編集者のアンテナは鋭い。読者に届ける広告は斬新なものがふさわしい。
金賞
- 筑摩書房「大阪の生活史」
- 2023年12月7日付朝刊 5段2割
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- 制作/筑摩書房宣伝課
- アートディレクター・デザイナー/濱中祐美子
- 北村薫 選評
- 広告に著名人の推薦の辞が並ぶのは、ごく普通の形です。この本の場合も、力のある言葉が寄せられています。しかし、それらは下に置かれ、上にずらりと、普通の人々の「語り」が置かれているのです。
町田康の「こんな本出されたら儂ら稼業あがったりやで」に対し、
──論より証拠!
というように。
中央の説明に進むと、大きな字から小さな字へと、まるで目が遠近法の消失点に誘われるように「どこを開いても、そこに人間がいる──。」に行き着く。
見事な文字の処理に、感嘆するしかありません。
銀賞
- KADOKAWA「拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます」
- 2024年9月29日付朝刊 全5段
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- 制作/KADOKAWA
- クリエイティブディレクター・コピーライター/阿部崇平(KADOKAWA)
- デザイナー/木村隼人(KADOKAWA)
- フォトグラファー/成田剛(unap)
- 嶋浩一郎 選評
- 夫婦のありかたはさまざまな現代社会。受賞作の主人公もかなり異色な夫婦だ。戦地に赴く軍人の夫と、その夫に結婚以来全く会ったことのない令嬢妻。しかも、彼女は離婚を企てているという。謎の夫婦関係だ。広告では長年連れ添ったと思われる老夫婦がお茶を飲みながらコミックスを読んでいる。こちらもかなりシュールな風景。旦那さんの奥さんを見つめる視線に不穏な空気が漂っている。思わず、どんな夫婦関係なのか想像を掻き立てられる。ファンにとっては作品の世界観をこう表現したか!と思え、未読の人にはとにかく気になるインパクトある広告表現になっている。
銅賞
- 集英社「呪術廻戦 25巻 シリーズ累計発行部数9,000万部突破!」
- 2024年1月4日付朝刊 全15段
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- クリエーティブディレクター/佐藤雄介(電通)
- アートディレクター/瀧澤章太郎(電通)
- グラフィックプロデューサー/西澤優花(電通クリエイティブピクチャーズ)
- デザイナー/浅岡敬太、飯塚朋未(電通クリエイティブピクチャーズ)
- 営業/栗野卓(電通)
- 幅充孝 選評
- 紙の新聞ならではの広告という意味で、全15段広告の存在感は増しているのではないか。古紙パルプを多く含んだ中質紙には、スマートフォンの画面にはないテクスチャーがあり、単行本にはないスケールがある。このメガタイトルの熱狂の只中にいる者のアーカイブ欲を煽り、一方で作品に対して未知の者でも、何か大きなうねりが起こっていることを直感できる力強い作品だ。
内容に目を向けても、筆文字で描かれる「最強対最強」のコピーはシンプルながら物語の佳境を感じさせ、躍動する作者の筆致は世紀の対決へ向かいほとばしっていることを示唆する。画面右側だけ空いている目をモチーフにしたフレームのデザインが何だろうと気になっていたが、同日の他紙にはライバルである「両面宿儺」が描かれたバージョンもあり、2紙を繋げポスターにすることができたようだ。
ファンダム・カルチャーの成熟と、その「聖なる価値(sacred values)」を紙で保有する意味を考えさせる広告である。
特別賞
- 光村推古書院「京都の意匠 窓」
- 2024年4月25日付朝刊 3段8割
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- 制作/カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
- アートラボ事業本部コンテンツ事業
- 書籍/伊賀本結子
- 小布施祐一 選評
- 余白を美しいと思う感性は、日本人特有だといわれる。画面の隅々までくまなく描かれる西洋画と、余白にこそ重きをおく日本画を比べてみると分かる。
京都の窓を集めた写真集の広告。上段の、左上と右下が空いた四角の枠が、両手の親指と人差し指で構図を決める、あのポーズを連想させる。そのフレームの右上に「窓」。明朝体というのは本当に美しいフォントだと思う。
余計なものが一切そぎ落とされ、余白が、最小限の要素を最大限に引き立たせている。伝えたい情報を上品に凝縮した下段も、余白の配置が美しい。サンヤツの小空間を、そよ風が通り抜けていくようだ。
(敬称略)