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特集新聞、テレビ、ソーシャルメディアを分析─ ヒットの裏に転換点あり

(2014.4.8/2014年4・5月号 特集)

新聞、テレビ、ソーシャルメディアを分析─ ヒットの裏に転換点あり
株式会社エム・データ   ライフログ総合研究所 所長   梅田 仁 氏 読売新聞東京本社   広告局マーケティング戦略部

レイコップ:
「ダニ専用」から「ふとん専用」へ、価値の一般化がヒットの転換点に

──訴求ポイントを変えたことによって売れた商品というのはあるのでしょうか。

梅田   レイコップがそうですね。図3を見てほしいのですが、昨年の初めの頃の「レイコップ 番組」というのは、ほぼテレビショッピングです。最初、レイコップは「ダニを取る専用クリーナー」として、ダニアレルギーのある人たちを対象に訴求していました。

──アレルギーの原因についていつ頃から言われるようになったのか調べてみたのですが、すでに1937年には「アレルギー説は果たして正しいか?」という記事が出ています。さらに1986年には、花粉症はダニが誘発するという記事が出ています。それが商品開発と結びつき、ふとんのダニやホコリを吸引する掃除機の専用ヘッド「ふとんローラー」が誕生します。2002年には記者が体験ルポを夕刊に掲載しています。

1937年12月2日 朝刊

梅田   だからレイコップも最初はダニを取る専用クリーナーとしてアピールしていたということだと思います。

──昨年5月6日の家計面の記事では、「ふとんに潜むダニをたたき出し、紫外線を照射して弱らせ吸収するふとんクリーナー」として紹介されていますね。

梅田   ところが夏頃からバラエティー番組でも取り上げられるようになって、「ダニも取れるふとん専用クリーナー」という紹介のされ方をするようになってきたのです。ふとんのクリーナーとして、こんなにおもしろい商品があるんだと認知されるようになった。それがさらに昨年の後半になると、「気持ちのいいふとんのためのクリーナー」という方向に訴求ポイントが変わってきます。当然、「ダニアレルギーで悩んでいる人」以上に、「気持ちのいいふとんで眠りたい人」のほうが圧倒的に多い。それがレイコップのヒットにつながったということです。

──10月25日朝刊の広告では「キレイなふとんは、想像以上に、ここちよい」と、まさに寝心地のよい睡眠を得るためのクリーナーとして訴求していますね。それから、今年1月10日の経済面「トップインタビュー2014」にジャパネットたかたの髙田明社長が登場していますが、この中で日本で売れたレイコップの約3分の2をジャパネットたかたが販売したこと、それから、レイコップは特にシニアに人気で、「日干し、はたき、取り込み」の手間を省けることが、その理由だとも言っています。気持ちのいいふとんで眠る、そのための手間を省いてくれるクリーナーという捉え方をしていますね。

梅田   今までは「ふとん・ダニ」という結びつきはあっても、「ふとん」と「クリーナー(掃除機)」が結びつかなかったんですね。ダニ専用クリーナーではなく、ふとん専用クリーナーとすることで、価値が一般化され、より多くの人が欲しい商品になった。それがレイコップがヒットした転換点だったと思います。

レイコップ

2013年10月25日 朝刊

スリムウォーク足指セラピー:
相反するテーマを両立させたことがヒットの転換点に

──レイコップは「気持ちのいいふとんで眠りたい」という人の心理に訴えてヒットしたということですが、そのような売れた理由を改めて見つける方法はあるのでしょうか。

梅田   ライフログ総合研究所オリジナルの手法ですが、ソーシャルメディアで語られている話題を元にヒットの理由を分析する方法があります。昨年ヒットしたピップの着圧ソックス「スリムウォーク」を例に説明しましょう。
  スリムウォークは、足首に強い圧力をかけ、ふくらはぎ、太ももと徐々に弱めていくことで血液の循環を良くするソックスです。「ヒールの高い靴を1日はいていると脚がむくむ」「夕方になると靴がきつい」という女性は意外と多いのですが、その足のむくみを解消してくれるのがスリムウォークです。2012年に、このスリムウォークに足の指先を広げる機能も付いた「足指セラピー」という商品が発売されヒットしました。
  図4は、ソーシャルメディアで語られている「足指セラピー」発売以降のスリムウォークの話題をマッピングしたものです。

  縦軸はスリムウォークについてソーシャルメディア上で語られている各話題の数「話題度」を表しています。上にいくほど話題の数が多く、下にいくほど話題の数が少なくなります。
  横軸は、スリムウォークに対する意向との関連性を表します。それぞれの商品には、固有の意向があります。たとえば、パンケーキについてソーシャルメディアで語られている意向表現の1位は「食べたい」、2位は「行きたい」。つまり、今の人たちにとってパンケーキは外食するものということが分かります。カップケーキの場合は、1位「食べたい」、2位「作りたい」。自分で作って食べるものです。この意向表現順位は同じ商品でも時代によって変化します。
  では、スリムウォークの意向順位はというと、1位「くつろぎたい」、2位「買いたい」、3位「使いたい」です。つまり、消費者は「くつろぎたい」がスリムウォークを購入する一番の動機になっているということです。横軸の項目は、この意向との結びつきの強弱を表していて、右にいくほど結びつきが強く、左にいくほど弱くなります。意向に対して関連度が深いのは、「美脚」「疲れ」「パンプス・靴」の順です。つまり、人々の心には「美脚は大事だけどくつろぎたい」「疲れを癒やすためにくつろぎたい」「パンプス、靴を履くけどくつろぎたい」という気持ちが並列で存在するということです。

2013年11月20日 朝刊 家計の知恵面

──「足のむくみ」は古くから女性が抱える悩みだったようで、1932年の「衛生相談」のコーナーに、読者の両足のむくみの悩みに婦人科の医師が回答する記事が載っています。着圧ストッキングの記事は、1978年1月の朝刊に「疲れにくいストッキング発売」という見出しで紹介されています。スリムウォークの「足指セラピー」がヒットした後の昨年11月20日の家計面には、「足に癒やし」と題して、着圧ソックスと疲れにくさを追求した靴を紹介しています。「むくみケア」が「くつろぎ」と同じ文脈で語られています。

梅田   くつろぎたいなら疲れの原因であるおしゃれな靴をはかなければいいわけです。矛盾している。でも女心は違います。美脚で美しくあることも絶対捨てたくない。でも、だからこそ、くつろぎたいのです。一見相反するテーマを両立させたことが、この商品のヒットの要因になっているということなんです。

興味関心のない人たちを振り向かせる。ヒットの転換点を作るマスメディア

──ヒットの転換点とは何か、改めてお聞きしたいのですが。

梅田   「腑に落ちる」という言葉がありますけれど、ある商品がヒットするというのは、その商品が消費者の腑に落ちて、みんなの生活行動の中にそれが取り込まれて、実際にビジネスになってお金を産むことだと思うんです。100万人しかいない市場では、その企業の商品を買う人は1万人もいないかもしれない。大手メーカーが資本をかけても無駄遣いなんです。

──ネットショップなら、それでも成り立つかもしれませんが。

梅田   重要なのは、マス広告を使うような企業にとっての“ヒット”です。先ほどパンケーキの話をしましたが、実際にパンケーキの検索件数は2011年から急速に増えています。では、その兆しはいつ頃から出てきたかというと、リコッタパンケーキが人気の「ビルズ」が代官山にできたのが2007年、ハワイのパンケーキで知られる原宿の「エッグスンシングス」が2010年です。意外と前からあるんですね。
  でも、パンケーキがトレンドだからといって、2010年時点で商品化しようとしても、ほぼ成功しません。大手メーカーがビジネスを仕掛けるなら、2011年以降であるべきなんです。その転換点は何によって作られるのかというと、マスメディアです。AKB48も2006年から2008年は秋葉原で踊っていた。ほとんどのタレントは、そこで消えてしまうんですね。堅いイメージのある新聞社がAKB48のブレイクするきっかけになったように、新聞がヒットのきっかけになる可能性は意外な分野でもあると思います。

──広告ではターゲットを明確にしろとよく言われますが。

梅田   メーンターゲット以外に広告が届くのは無駄だとよく言われますね。特にネットができてからは、そう言われることが多くなったと思います。しかし、物事をヒットさせるときに大事なことは、これまで見てきたように、「興味関心のない人にいかに欲しがらせるか」です。ダニ専用ではなく、ふとん専用クリーナーにすることで、価値が一般化され、より多くの人が欲しい商品になる。それまで無関心な人たちが振り向いたときこそ、ヒットの転換点だと思うんですね。

Jin Umeda

アップル・ジャパン シニアマーケティングプロデューサーを経て、現在はエム・データ社内のビッグデータ解析&ヒット予測プロジェクト「ライフログ総合研究所(Life Log Lab.)」所長。TVメタデータとソーシャルメディア、ネットの検索データを組み合わせたブランド診断、キャンペーン評価、トレンド予測に取り組んでいる。アップルではMac、iTune、iPhone、Apple Storeなどのデジタル・マーケティングを統括、生活者インサイトをベースとした、ヒットを生み続けるブランド戦略を得意とする。 http://mdata.tv/