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特集新聞、テレビ、ソーシャルメディアを分析─ ヒットの裏に転換点あり

(2014.4.8/2014年4・5月号 特集)

新聞、テレビ、ソーシャルメディアを分析─ ヒットの裏に転換点あり
株式会社エム・データ   ライフログ総合研究所 所長   梅田 仁 氏 読売新聞東京本社   広告局マーケティング戦略部

梅田 仁 氏

ソーシャルメディアが普及してからのヒット商品は、どのように生まれているのだろうか。ネットのデータはオンラインで利用しやすいこともありマーケティングへの活用が進んでいるが、実はマスメディアが商品のヒットにどのように影響しているのかという分析は、これまでほとんど行われてこなかった。その分析に最近積極的に取り組んでいるのが、テレビ番組とCMの放送実績データである「TVメタデータ」を提供する株式会社エム・データの社内プロジェクト「ライフログ総合研究所」所長の梅田仁氏だ。そこで、今号の第一特集では、「ヒットの裏に転換点あり」と題し、梅田氏の分析に当社による新聞報道の分析も加え、ヒット商品が生まれる際には何があるかを具体的に探った。

テレビや新聞で取り上げられることがヒットの転換点に

──昨年から「TVメタデータ」を使ってヒット予測に取り組まれていますね。

梅田   エム・データが提供する「TVメタデータ」というのは、テレビ番組やCMを専門スタッフが実際に視聴し、「いつ」「どの局のどんな番組で」「誰が」「どんな話題・企業・人物・商品・ショップなどについて」「どのくらいの時間」「どのように放送」されたかを記録したデータです。最近、自社ブランドの反響を探ったり、広告キャンペーンやPR戦略のチェックなどにソーシャルメディアの話題やネットの検索数などのデータが使われるようになりましたが、テレビのデータも、網羅的に、時系列に記録しているエム・データの「TVメタデータ」によって同じようにマーケティングに活用できます。その「TVメタデータ」の活用分野の一つに商品やサービスなどの「ヒット予測」があると思っていて、今、ライフログ総合研究所では、その研究に取り組んでいるところです。

──ヒットとテレビで取り上げられた情報には、相関があるのでしょうか。

梅田   最初に結論めいたことを言うと、物事がヒットするには転換点があるということなんです。当初は小さな波だったものが、何かをきっかけにして潮目が変わっていく。それをソーシャルメディアの話題やネットの検索数と「TVメタデータ」を使って探っていくということをしています。物事が大ヒットすることを、我々は「全国区になる」と言っているのですが、そこには必ずマスメディアが関与しています。ネットだけで全国区になることはありません。
  例えば、原宿のある店のパンケーキが話題になっても、その店に行かなければ食べられない間は、今風のかっこいい食べ物レベルのトレンドにとどまります。テレビ番組で地方の喫茶店のパンケーキが紹介されたり、料理番組で取り上げられたり、あるいはメーカーがパンケーキの新商品を発売したりという積み重ねが、波を大きくし、パンケーキを全国区に押し上げていくわけです。

──そのヒットに新聞がどうかかわっているかも、今回は見ていきたいと思うのですが。

梅田   新聞もテレビと同じマスメディアですが、働きが違うと思います。テレビの場合、その情報が取り上げられた秒数(露出量)とソーシャルメディアの話題の総量は非常によく符合します。ところが新聞の場合、記事で取り上げられた回数や文字数にソーシャルメディアの話題の総量が比例するかというと、そうはならない。むしろ新聞の役割は、その商品やサービスの持っている意味や世の中の論調を変えるところにある気がします。そういう視点を含めて、いくつか事例を見ていきたいと思います。

AKB48:
「100分の壁」はより大きなマーケットを得るための転換点

──ヒットには転換点があるということですが、事例を紹介してもらえますか。

梅田   図1は、AKB48がデビュー以来テレビで取り上げられた秒数(露出量)を週ごとにまとめたグラフです。「100分の壁」と書いてありますが、1週間のテレビの露出が100分を超えるようになると、そのタレントはブレイクします。これまでの分析では、1000組のタレントのうち994組のタレントは、デビュー後3年間にこの「100分の壁」を超えられず、消えてしまいます。

  AKB48は2005年12月に誕生しましたが、その1年後から「100分の壁」を超え始めます。2007年のNHK紅白歌合戦の出場の週もそうです。ただ、このときは単独出場ではなく、中川翔子、リア・ディゾンと一緒の出場で、秋葉原で人気のタレントということから“アキバ枠”と呼ばれました。その後も“一部のマニア向けアイドル”というイメージから抜け出せず、「100分の壁」を超えたり、超えなかったりが続いたのですが、人気に本格的に火が着いたのは2009年の麻生太郎首相(当時)との「桜を見る会」でした。
  「桜を見る会」にどういう効果があるかというと、ニュースで取り上げられることです。コアなファンは別にして、一般の人たちにとっては聞いたこともないようなアイドルが首相と一緒にニュースに出る。AKB48のドメインは歌番組であり、アイドル番組というのが最初の3年間だと思いますが、ニュースに取り上げられることによって、自分たちのドメインの外にいる人たちにも知られるようになる。我々はこれを「アウトリーチ」と呼んでいますが、コアなファン以外にも認知されることが、次のフェーズに入っていくための大きなきっかけになるわけです。

AKB48の読売新聞創刊135周年キャンペーン:
新聞紙面がヒットの転換点になる

2009年10月21日 朝刊 同日発売のCD「RIVER」はオリコン2009年11月第1週のシングルランキングで1位を獲得

  読売新聞の記事へのAKB48の登場回数は、2009年から急増している(図1)。読売新聞の創刊135周年キャンペーンでAKB48に協力してもらったのが、「桜を見る会」と同じ2009年。広告展開だけを見ても、「若年層に応援のメッセージを」をテーマにした6月の1週間連続掲載を皮切りに、巨人軍の75周年応援隊や10月20日の新聞広告の日など、半年間で合わせて195段以上の新聞広告に登場している。
  また、このキャンペーン前は、読売新聞の記事ではヒットチャートに関連した登場くらいしかなかったのが、2009年には欧州最大の日本文化紹介イベント「ジャパン・エキスポ」での公演を伝える記事が掲載され、10月22日からはメンバーが毎週1人ずつ私服で登場し、お気に入りグッズを紹介する『AKB48の私服サプライズ』という連載も夕刊popStyle面にスタートしている。

〈ライフログ総合研究所 梅田所長の分析〉
  一般企業ではなく、新聞社のキャンペーンに採用されたことが、それまでの“一部のマニア向けアイドル”から、世の中の誰もが認める“国民的アイドル”になる大きなきっかけ、転換点になったということだと思います。

ノンフライヤー:
商品の市場浸透に従って新聞記事の掲載面も変わる

──新商品がヒットしていく事例としては、どんなものがあるのでしょうか。

梅田   油を使わず揚げ物ができるフィリップスの「ノンフライヤー」の日本市場導入は、非常にうまくいった例だと思います。最近の新発売キャンペーンは、マス広告だけでなく、報道やソーシャルメディアへの波及を意識した戦略PRが当たり前になっていますが、ノンフライヤーもPRを重視した展開を行ったことがソーシャルメディアの反響を見てもわかります。

  ノンフライヤーの発売は2013年4月22日でしたが、2月に「油を使わないで揚げ物ができる」というキャッチフレーズとともに製品が発表されると、たちまちツイッターで話題になっています。4月の発売と同時に量販店の店頭から商品が消え、一時期は商品が届くまで2か月待ちの状態になりました。日本に先立ち世界100か国を超える地域で150万台以上も売れている商品ですが、日本での売れ行きは最速だったと言われています。発売日にもツイッターのピークができ、テレビ番組の露出もピークになります。

──10月末にもブログのピークができていますが。

梅田   実は、毎年10月末に「日経トレンディ」でその年の「ヒット商品ベスト30」が発表されますが、その9位にノンフライヤーが選ばれたんですね。こうしたお墨付きが得られるとテレビの露出力、ソーシャルメディアの話題力は急上昇し、ヒットのレベルがさらに上がり、流行が確実になります。何度かソーシャルメディアで話題になることを経て、ヒット商品に育っていくわけです。逆に言うと、瞬間的にソーシャルメディアで話題が増えたものが必ずしも持続的なヒット商品になるとは限らないんですね。

──読売新聞に掲載されたノンフライヤーの最初の記事は、昨年4月1日の社会面に掲載された「油を使わずに揚げ物の調理ができる『フィリップス ノンフライヤー』1人に」という読者プレゼントの記事です。次が、8月28日家計の知恵面(以下家計面)の「揚げ物油いらず 熱風で調理『フライヤー』続々」という記事で、競合商品も合わせて紹介されています。そして、11月4日には「おしゃれで機能的 斬新な発想 海外家電 高まる存在感」という記事が経済面に掲載されています。

梅田   最初、社会面でプレゼント記事として紹介され(4月)、次に家計面に載り(8月)、最後に経済面に載る(11月)という推移が面白いですね。新発売時は企業のパブリシティーだったものが、消費者に認知されたことで家計面に載り、最後は市場に認められたことで経済面に載る。最初に、商品やサービスの持っている意味や世の中の論調を変えるのが新聞の働きだと言いましたが、記事内容だけでなく記事の掲載面でも、その商品が世の中にどのように受け止められているかわかりますね。
  ただ、ノンフライヤーの場合は「油を使わず揚げ物ができる調理器具」という新ジャンルの商品でしたから、社会面プレゼント記事→家計面→経済面と推移しましたが、元々世の中に認知されている企業や商品の場合は、おそらく経済面に掲載される場合が多いと思いますね。

コンビニコーヒー:
商品の浸透が掲載面でわかる。経済面から地域版に

  経済面から報道が始まっている商品としては、「コンビニコーヒー」がある。コンビニ各社が相次いで参入したので経済面で取り上げられることが多かった。2月3日「『セブンカフェ』全国展開へ」、7月6日「コンビニ レジ脇に商機 セブン、ローソン営業益最高」など、年の半ば頃まで「コンビニコーヒー」は経済面で取り上げられることがほとんどだった。それが10月8日には「氷入りカップ新工場 コンビニコーヒー人気で 日田の会社」と大分の地域版にも話題が登場。全国の話題が地域の経済にも波及してきたことが見て取れる。さらに、今年2月19日には家計面に「コンビニ 私のカフェ 入れ立てコーヒー好調」という記事が掲載された。「コンビニコーヒー」が、この1年で、生活に定着したことが記事の掲載面からも見えてくる。