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ojoトップ  > 特集  > 広告デザインに活かす「伝える」技術:【 ユニバーサルデザインに学ぶ 】マーケティング対象を拡げるユニバーサルデザイン

特集広告デザインに活かす「伝える」技術

(2013.2.4/2013年2・3月号 特集)

【 ユニバーサルデザインに学ぶ 】マーケティング対象を拡げるユニバーサルデザイン
博報堂ユニバーサルデザイン   所長   井上 滋樹 氏 博報堂ユニバーサルデザイン   クリエイティブディレクター   山崎 淳 氏

左から井上氏、山崎氏

より多くの生活者の満足度を高める「ユニバーサルデザイン」という考え方は、建築や商品の分野に加え、情報やサービス分野へも広がりを見せつつある。博報堂はその考え方をコミュニケーション領域のコンサルティング・制作業務に活かすことを目的に、専門組織「博報堂ユニバーサルデザイン」を開設している。所長の井上滋樹氏とクリエイティブディレクターの山崎淳氏にこれまでの取り組みと広告制作に活かす際のポイントを聞いた。

──ユニバーサルデザインのフォントを開発・販売されていますが、そもそもなぜ広告会社がフォントを作ったのでしょうか。

井上   博報堂ユニバーサルデザインを開設したのは2009年ですが、その9月に販売を開始したのが「つたわるフォント」です。広告会社がなぜフォントを開発したのかという理由は、博報堂ユニバーサルデザインの設立趣旨とも重なります。ユニバーサルデザインというと、「障害のある人のためのデザイン」というような、福祉的な視点・手法と思われがちですが、広告会社である我々の目標とするのは、ユニバーサルデザインで「企業のマーケティングロスを最小化する」こと、つまりこれまでだとマーケティングの対象外になってしまうような人をできるだけ少なくするような商品づくりやデザインをお手伝いすることだと考えています。
  例えば携帯電話は、以前は目の不自由な方や耳の聞こえない方には使えなかったり、使いにくかったものですが、今はユニバーサルデザインによってそういう人たちも使えるようになってきました。それだけ携帯電話のマーケットが広がったわけです。
  我々が開発したユニバーサルデザインのフォント、「つたわるフォント」の発想も同じです。ハードだけでなく、ソフト面でもユニバーサルデザインは大事だと言われながら、それまで見落とされてきたのが、コミュニケーションのベースとなる文字、フォントでした。開発前に実際に調べてみると、障害者や高齢者だけでなく多くの人が、パッケージや取扱説明書、商品パンフレットなどの文字が読みにくいと感じていました。そういった課題を解決するために、「つたわるフォント」を株式会社タイプバンク、慶應義塾大学と2年かけて共同開発しました。

誤認されにくいフォント

──従来のフォントとはどこが違うのでしょうか。

山崎   試作フォントでの検証結果なのですが、数字の6は0、4、8の中で、どの数字と誤認されやすいと思いますか。

──8のような気がしますが。

山崎   聞き取り調査でも8か0と答える方がほとんどですが、実験での結果、一番誤認が多かったのは4なんです。「つたわるフォント」開発に当たっては、低視力状態を意図的に再現できる低視力シミュレーターを使って、各性・年代の人たちに例えば数字の3と6をランダムに1万回見せて誤答率を調べるということをやっています。間違いの多かった数字や文字は、そのつど誤認されにくい形に修正をかけていきました。そういったプロセスを何度も繰り返して出来上がったのが「つたわるフォント」(図1)で、従来型のフォントと比べ約7割の人から「読みやすくなった」という評価を得ることができました。

──どういうところで使われているのでしょうか。

井上   約200の企業や自治体で採用いただいております。具体的な用途も、パンフレットやホームページに始まり、新聞や雑誌の広告にも使われるなど多岐にわたります。

図1  「つたわるフォント」の特徴(一部)

広告にもユニバーサルデザイン

──提供サービスの一つ「つたわる広告」というのは、どういったものなのでしょうか。

井上   ユニバーサルデザインの活用は、建築や製品の領域から始まったため、情報やサービスへの取り組みが遅れていました。特に情報に関するユニバーサルデザインは、Webのアクセシビリティーくらいで、グラフィック領域で、色弱者や低視力の人たちを考慮するということは、これまでほとんどありませんでした。それで先ほどの「つたわるフォント」をベースに、文字の大きさ、コピーライティング、デザイン・レイアウトなどすべての広告要素をユニバーサルデザインの考え方で制作するサービスを提供しています。それが「つたわる広告」です。
  このサービス提供に先立って、実証実験を何度も行っています。図2は仮想の睡眠薬の新聞広告を作り、従来の広告とユニバーサルデザインの考え方に基づいて制作した「つたわる広告」の効果を比較したものですが、「読みやすさ」「理解しやすさ」などのコミュニケーション面だけでなく、「買ってみたい」などの購買行動にも「つたわる広告」の方が効果があることがわかりました。

──「ユニバーサルデザインの考え方」というのは、具体的にはどういうことですか。

山崎   例えば文字の大きさも対象ユーザーが読める大きさの下限値は何ポイントかというのを意識的に行ったり、色弱者の方が見分けにくい配色になっていないかも考慮するということです。特に後者において一般の広告デザインはそこまで配慮してはいませんでした。

多様性を意識する

──特定の障害のある人に伝えることと、より多くの人に伝えることは、矛盾することでもあると思うのですが。

井上   確かにそうです。障害のある方に情報を伝えることも大事ですが、それによって本来最も伝えたいターゲットに情報が伝わりにくくなっては本末転倒です。例えば、弱視者のためにすべての文字を拡大してしまうと、他の多くの人にとっては読みにくいものになってしまいます。障害者、健常者の違いを認識しつつ、双方に有効なコミュニケーションを探ることが本来のユニバーサルデザインです。そのために我々が、広告や商品、病院などの空間をデザイン制作する際に一番大切にしているのが、「多様な人と一緒につくる」ということです。
  生活者は、実に多様です。ですので、我々は、制作する際に、見え方や聞こえ方、移動や行動にさまざまな特性がある人、国籍や言語、環境や年齢の違いがある人など、多様な人たちの意見を取りいれて制作します。企業のサービス・モノづくりやコミュニケーション活動を利用し、評価するのは、そうした多様な人たちだからです。最近のユニバーサルデザインは、企業が一方的に提供するものから、生活者と一緒になって開発するものに変わってきていますが、多様性、すなわち「ダイバーシティ」の多様な意見は、普段見過ごしがちな課題を発見してくれる貴重な提案やアイデアの宝庫ですので、今後ますますその役割が重要になってくると思います。

──こうすればユニバーサルデザインを考慮した広告ができるというポイントはありますか。

山崎   広告はその都度のオーダーメードですから、マニュアル化は難しいのですが、多様な特性を持った人たち、自分とは違う人たちの意見を早い段階で取り入れて、改善していくことが大事だと思います。

──どういうことですか。

山崎   実際に体験したことですが、ある商品のパッケージに書いてあった重要な商品説明を、観察調査の結果、ほとんどの人が読まないことがわかったのです。そういう調査結果、ユーザーの反応を前提にパッケージをデザインするのと、デザイナーの想像だけで読んでくれるだろうとデザインするのとでは結果が違ってくるということです。ただ、そこで私が強調したいのは、そういう調査によって得られた結果は、あくまでも判断材料の一つだということです。広告は、理屈に振り回されすぎてしまうと非常につまらないものになってしまうことが多いので、最終的な判断はクリエイターが行うべきだというのが、私の考え方です。

ユニバーサルデザインを活用した新聞広告好事例

NTTドコモ

NTTドコモ

2012年11月17日 朝刊

広告に「つたわるフォント」

  NTTドコモの新聞広告は「つたわるフォント」で制作されている。「つたわるフォント」は明朝系、ゴシック系、タイポス系、丸ゴシック系合わせて15種類が用意されていて、見出し、本文を問わず使用できる。
  NTTドコモでは、この「つたわるフォント」を広告やパンフレットなどにも使用している。できるだけ多くの人たちに見やすい文字で情報を提供するというのも、企業姿勢のあり方の一つと言えそうだ。