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広告リポートfrom Asia

(Thu Jun 05 15:45:00 JST 2014/2014年6・7月号 from Asia)

シンガポールの“本音と建前”
有坂朋宏   シンガポール駐在

  「クゥー ウォー?」 。昼食後に立ち寄ったドリンクスタンドで、注文の際に中国系の顔立ちをした店員に聞かれた。中国語かと思い、英語で何度も聞き返すと、「Cool or Warm?(クール オア ウォーム?)」、どうやら最初から英語で、アイスかホットか?を聞かれていたのだ。これが、噂(うわさ)に聞いていた“Singlish(シングリッシュ)”=シンガポール人の話す訛(なま)りの強い英語の洗礼か。着任して2か月余りが経(た)つが、いまだにこれが「英語」に聞こえない。

  シンガポールは総人口約380万人(横浜市と同規模)、東京23区より少し広いくらいの国土面積(約714.3平方キロ)を持つ多民族国家だ。民族構成は華人74%、マレー人13%、インド人9%、その他4%で、1人当たり国民所得は5.5万ドル(2013年度)でアジア第1位だ。公用語は英語、中国語、マレー語、タミル語の4つ。MRT(地下鉄)の駅名や構内表示はすべて4か国語表記だ。地理的にも、北にマレーシア、南にインドネシアと、2つのイスラム国家に挟まれている。これだけの豊かなエスニシティーが成立する背景には、強力な開発主導型国家であるシンガポールという国の “本音と建前”が見え隠れする。

  シンガポールは19世紀初頭、英国領として建設され、飛躍的な発展を遂げた。2つの大戦を挟んで1963年にマレーシア連邦として独立したものの、2年後の65年、マレーシアから絶縁状を叩(たた)きつけられる形で分離独立。以来、リー・クアンユー初代首相の強烈なリーダーシップの下、多民族社会に舵(かじ)を切り、経済的な成功を果たした。一方のマレーシアが、同じく多民族国家でありながら、マレー系民族優遇施策(ブミプトラ政策)を推進したのと対照的である。

  こういういきさつから、両国の関係は時に感情的対立を起こしてきた。代表的な例が水問題だ。水資源に乏しいシンガポールは長年にわたり、マレーシアから供給される水に依存してきた。一時は、マレーシアが水供給価格の引き上げを求め、両国関係は冷え込んだ。現在はシンガポールが水の自給体制に道筋をつけて、懸案は解消された。さらに、両国政府が共同参画する「複合都市・イスカンダルプロジェクト」が推進されるなど、良好な関係を保ってきている。

  その一方で、シンガポール国内に目を移すと、華人とマレー人の経済的・社会的な格差は顕著だ。民族別の職業分布をみると、「行政・管理職、専門職」に就く割合は華人の27.2%に対し、マレー人は7.0%。また、15歳以上の大卒者比率は、華人が30.0%、マレー人は5.4%と、華人とマレー人の格差は大きい。

  先日、DBS銀行(政府系金融機関)に勤めるシンガポール人の友人に、シンガポールにおける“本音と建前”について聞いてみた。日本での社会経験も豊富で日本語が堪能な彼は言う。

  「多民族・小社会というお国柄か、シンガポール人は日本人よりも社交的だが、その分、関係解消も早い。ひとたび自分たちの社会の話になると他人には無関心。まるで大都市に暮らす日本人そのものだね」

  隣国との関係も人間関係も、“本音と建前”の使い分けは世界共通なのかもしれない。

有坂朋宏・シンガポール駐在

シンガポールのMRT(地下鉄)の駅名は、多言語国家のせいか不思議な語感を持つものが多い。Toa Payoh(トア・パヨ)、Tanah Merah(タナ・メラ)、Dhoby Ghaut(ドビーゴート)などなど。ちなみに「ドビーゴート」はヒンディー語で「洗う場所」という意味。面白いですね。