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広告リポートfrom America

(Fri Jun 05 10:00:00 JST 2015/2015年6・7月号 from America)

街全体が体験の場と化すニューヨーク
金田明浩   ニューヨーク駐在

  ニューヨークに赴任して2か月――。慣れないせいか職業柄か、街を歩くと広告の多さを感じる。その大部分は無数の広告の一つとして埋もれてしまうが、「リアルな体験」を媒介にすることで、埋没せずにメッセージを伝えている事例がある。

  自転車のレンタル・シェアサービス「シティバイク(citi bike)」もその一つだ。サービスは2013年に始まり、今では市内に約300か所のステーションと6000台以上の自転車が配備され、年間契約者は約9万にのぼる。今後も規模を拡大していく予定だ。

  名称の通り、このサービスにはシティバンクがスポンサーについている。自転車はコーポレートカラーの青色に染まり、同社のロゴが目立つ。サービスを体験する度に、自転車が持つクリーンなイメージと同社を重ね合わせることになり、企業好感度が高まる仕組みだ。また自転車は街の至る所で見かけるため、乗らない人も街の景色としてサービスを体験することになり、同社のイメージはさらに向上していく。

  日常では味わえない感動体験を生み出すマーケティングといえば、スポーツイベントだ。ニューヨークでも様々なイベントが開催されるが、体験という点では、参加者と観客数が多く、街全体が舞台となるニューヨークシティー・マラソンが筆頭に挙げられる。

  この大会のスポンサーであるアシックスは、走る楽しみや感動と企業イメージを結びつけることを目的として、毎年様々な試みを行っている。特に2014年の大会では、リアルに留まらないユニークなキャンペーンを実施して話題となった。まず出場者から希望を募り、顔写真を送らせ、ランニングウェアを身にまとった本人のフィギュアをプレゼントした。さらにランナーのFacebookと計測用ICチップを連動させ、大会当日、各ランナーがチェックポイントを通過すると、事前にチェックポイントで撮影されたフィギュアの写真が各人のFacebookにリアルタイムで投稿される仕組みを作った。大会に出場したランナーや現場の観客たちが味わう感動と興奮を、SNSを通じて応援するユーザーにも疑似体験させたのだ。

  最後にアートの領域だが、ニューヨークらしい、街に溢(あふ)れる壁画を用いて、リアルな体験を促した新聞社の事例を紹介したい。ニューヨーク・タイムズが発行している折込雑誌「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」4月26日号の特集テーマは、「ニューヨークの街歩き」であった。雑誌にはフランスの芸術家JR氏が撮影した市民のポートレートが掲載されただけだったが、ウェブ版では撮影の詳細とともに、「ニューヨークの街中の壁に、ポートレートを貼り付けたので探して。見つけた人はSNSにぜひ投稿して!」という記事が掲載された。結果SNSには、大きなポートレート壁画の写真が数多く投稿された。アートを発見する楽しみを読者に提供することで、メディアの世界から抜け出し、リアルな世界で「街歩き」を体験させることに成功した。

  どの事例も体を動かすリアルな体験を軸としている。市民は一方的に情報を発信してくる広告に飽きて、体を動かすような、自らが主体となる広告を受け入れた。また、各事例とも街全体が体験の場となっている。街を感じられる体験こそが、ニューヨークの街を愛する市民にとって最高の体験なのだ。

金田明浩・ニューヨーク駐在

4月からニューヨーク事務所に赴任しました。写真は、タイムズ・スクエアです。広告が作り上げた街を象徴する景色に、改めて、ここが世界有数のマーケティング都市であると感じています。そんなニューヨークから情報をお届けしますので、今後ともよろしくお願いします。