立ち読み広告

2010.2・3/vol.12-No.11・12

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激変するときこそ、初心にかえれ。

 元旦の出版広告が楽しい。それぞれの出版社が、自社の哲学を語っているからだ。こんな本を世に問いたい、自分たちはこういう思いで本をつくっている。ストレートで熱い思いが伝わってくる。
 2010年の元旦も力作ぞろいで面白かったが、いろいろと考えさせられたのが第5面全面の講談社である。
 モノクロの福山雅治のポートレートがいっぱいに。白抜きの細かな字で、福山のメッセージ。「雑誌は、僕と世界、世界と僕をつなぐ扉。」となかほどにある。
 だがそれよりも目を奪うのは右上に大きな字で書かれた4文字3行、12字である。

 渾然一体
 誠実勤勉
 縦横考慮

 横にある小さな小さな字を読むと、講談社の三大社是なのだという。
 「縦横考慮」というのは、ものごとをあらゆる角度から見てじっくり考えろという意味だろう。本づくりに大事なだけでなく、本が縦横考慮の手助けもしてくれる。
 「誠実勤勉」は説明不要か。
 「渾然一体」はどういうことだろう。言葉の意味はわかる。手元の辞書には「いくつかの物事が区別なく一つに溶け合っているさま」とある。なぜ出版社の社是が渾然一体なのか。
 講談社のサイトにアクセスして「創業物語」を読んだ。それによると、社員と社が一体となり、社員は編集部とか営業部とかといったセクションを超えよう、という意味らしい。「一切の障壁を廃し、温かい血の互いに交流する兄弟の情をもって水魚の交わりをなす、こうありたい」という創業者、野間清治の言葉が残されている。
 「創業物語」を読んで、この元旦の広告に込められた思いがわかった。

日本の出版界にとっての大きな転換年

 なぜ福山雅治なのか。いうまでもなく、福山は今年の大河ドラマ「龍馬伝」のヒーローである。この広告でも最下部に「福山雅治“龍馬”写真集 2010年初夏 発売決定!」とある。福山のポートレートも、龍馬の縮れっ毛頭になっている。
 「創業物語」によると、野間清治の母、文は、幕末の剣豪、森要蔵の娘であり、なんと要蔵は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』にも登場する人物なのだという。たんに大河ドラマのヒーローだからというのではなく、創業者のルーツに深く関わる人物だからこその龍馬だったのだ。
 講談社は昨年、創業100年を迎えた。今年は初心にかえってのスタート。もういちど「渾然一体・誠実勤勉・縦横考慮」なのである。
 講談社にとってだけでなく、日本の出版界にとって、2010年は大きな転換点となるだろう。たとえば電子化の波はもう足元までやってきている。キンドルの日本語対応は今年にもあるかもしれない。日本の出版社はそれにどう対応していくのか。雑誌のありかたも問われてくる。まさに幕末から明治にかけてと同じような状況が、これからの日本の出版社を襲うだろう。そういえば明治のほんの短い期間に、それまで主流だった和本が駆逐され、洋本にとってかわられた。変化はいつもダイナミックだ。
 激変するときこそ、初心にかえれ。野間清治のメッセージは、ずしりと重い。

1月1日 朝刊
1月1日 朝刊

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