特集

2009.12・2010.1/vol.12-No.9・10

  • この記事をクリップ!
  • newsing it!
  • Buzzurlにブックマーク
  • このエントリーを含むはてなブックマーク

消費を喚起する

欲望を考え抜いたソフトレンタル事業

 家庭内消費が増え、レンタルが好調だと言われているが、その一方で、レンタル価格値下げ競争や洋画市場の縮小など課題もある。TSUTAYAなどのレンタル事業を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)で販売促進の中心になって、この問題に取り組んでいるのが、ワーナーミュージック・ジャパンでヒットメーカーとして活躍した酒井善貴氏だ。

――酒井さんがCCCに移られた理由は何だったのですか。

 CCCという会社のこれからの変化を体感したいと思ったのが大きな理由です。レンタル店の数は約1400店舗と日本一ですし、ネット事業、3300万人以上の会員を抱えるポイントサービス事業なども展開している。この会社で良い企画をつくれば世の中を変えていくことができると思ったんですね。今年4月にCCCは、事業会社13社を統合して、TSUTAYAなどのレンタル事業やオンライン事業、そしてポイント事業を内部に持った企画会社として再出発しました。その改革と同時に僕も、この会社にジョインすることになったんです。
 今は、販促本部が仕掛けているTSUTAYA事業や、Tポイントのプロモーションとブランディングを任されています。

値下げ競争では悪循環に

――レンタルDVDを家で見る人たちが増えていますが(注)

 レンタルは「巣ごもり消費」の象徴のように言われていますが、映画1本数百円で楽しめるということが、やはり今の消費者の金銭感覚に合っているからだと思います。手ごろな価格で借りて、見て、返すというレンタル文化は日本で生まれたもので、TSUTAYAはそこにフォーカスしてきた。それが今好調な理由だと思います。
 人間の金銭感覚というのは、多分に心理的なもので、昨年末の派遣村の報道がいい例ですが、マスコミの報道の影響などで日々変化していきます。今年になってから、スーパーの弁当が280円になったり、いろいろな業界で値下げ競争が起こっていますが、単なる値下げ競争は経済全体にとって決して良いことではありません。こちらが値下げすれば、あっちも値下げをして、あげくの果てには全体のバランスが崩れ、商品供給の悪化なども引き起こし、結果として、ユーザーに迷惑がかかるという悪循環に陥るだけなんです。
 この夏、TSUTAYAが実施した洋画のDVD名作100選を100円でレンタルする「100選100円」キャンペーンは、こうした流れを断ち切りたいと考えた企画です。


レンタル店向けDVDソフトの出荷数量〈日本映像ソフト協会調べ〉(1〜9月累計)
(注)日本映像ソフト協会によると、レンタル店向けDVDソフトの2009年9月の出荷数量は365万枚と前年同月比で42.8%増え、2001年1月に統計を取り始めてから最多になった。一方で売上高は同1.8%減の92億8300万円。レンタル店のキャンペーンは旧作DVDが対象となっているため単価が低く、売上高低下の要因となっていると言われている。

――洋画に限定したのは?
リコーの社会環境ポータルサイト「Gaiaia(ガイアイア)」 「100選100円」の店頭ポスター

 実は、映画産業全体をみてもここ数年、洋画自体の人気が右肩下がりなんです。その洋画全体の底上げを狙った対策もあったのです。100本に限定したのは、洋画を見るきっかけづくりを狙ったからです。しかも、ユーザーの気持ちにマッチした企画なので売り上げもマイナスにはならない。このキャンペーンで、それまで前年比90%台だった洋画DVDのレンタルを旧作洋画で147%、洋画全体でも102%にまで引き上げることができました。
 今までTSUTAYAに映画のDVDを借りにきたお客様には、膨大なDVDの棚を前にして、何を借りていいかわからない人や、DVDのジャンル分けに戸惑って目的の作品がすぐ見つからず、あきらめて帰っていた人もいたはずです。それから、音楽や本も同じですが、映画のDVDは嗜好品なので、安くしても借りない人は借りないということもあります。
 ただの値下げではなく、TSUTAYAがお薦めの100本を選んで安く提供することで、お客様に喜んでもらえる。提案型で、しかも質の高いキャンペーンをやることが、TSUTAYAのファンを増やすことにもつながるということです。

マス広告あってのマーケティング

――夏にはTSUTAYAとポニョのコラボCMも作られていますね。

 『崖の上のポニョ』のDVDが7月3日に発売されたのですが、それをTSUTAYAで売っていることを世の中に知らせるのが目的でした。
 レコード会社にいたときからマーケティングに持論があったし、テレビスポットのバイイングも独自の方法で行ってきました。バイイングのもととなる番組の視聴率には人一倍注目していて、それぞれの番組の視聴率の変化に興味を持っていました。特に映画、中でもスタジオジブリの作品には非常に注目していました。
 実は『千と千尋の神隠し』が初めて地上波で放映されたときは瞬間最高視聴率が50%を超えたんです。要は、世の中のほとんどの人がこの映画を見たいと思っていたのです。僕は、注目度の高いジブリの新作DVDをTSUTAYAが売っていることを世の中に知らしめること自体が販売促進にもなるし、TSUTAYAのブランディングにもなると考えたんです。

――ネットを使ったキャンペーンを考えなかったのは?

 マス広告あってのマーケティングだというのが僕の基本的な考えです。よく今はネット中心だと言われますが、僕が重視するのはリーチとフリークエンシーです。マス媒体できっちりリーチさせて、その後に余力があればネットでも何でも使えばよいと思うのです。
 なぜなら、ネットはサイトも無限にあるし、一つのサイトに広告を出したからリーチしましたということにはならないからです。また、ネットは自分に関心があることを探しに行くメディアです。何か買いたいと思ったら価格コムに行くわけで、そっちのほうが値段もわかるし、使用者の評価もわかるから、目的を早く達成できる。自分にとって関心のない広告は、クリックしない。それがネットです。
 音楽業界で学んだことですが、リーチを取っていかないとミリオンセラーは狙えない。なぜなら、幅広い世代が反応しないからです。例えば、シングルをヒットさせるには、ドラマの主題歌にして、音楽番組に出演して、テレビCMを流して、新聞広告も見開きで打つ。そうすると、幅広い層にリーチしてミリオンが見えてくるわけです。

アクティブ会員約3300万人

――今、TSUTAYA会員の年齢層はどのくらいですか。

 中心は20代で、TSUTAYAの会員証である「Tカード」の所有率は、58%に上ります。

――20代全体の約6割ということですか。

 そうです。それから、「Tカード」はアクティブユーザーだけで3300万人いますから、日本の4分の1の人が持っていることになります。

――アクティブユーザーというのは?

 TSUTAYAでは1人が「Tカード」を複数枚持っている場合もきちんと1人とカウントして、なおかつ最近の1年間にカードを使ったことがある人を会員数として定義しています。だから、3300万人というのは、単なるカードの発行枚数ではないんです。

――「Tカード」は、TSUTAYA以外でも使えますね。

 ガスト、ファミリーマート、ENEOS、ブックオフなど、提携先は、現在56社、約3万店舗で、共通に「Tポイント」をためたり、使ったりできます。ところが実際調査すると、TSUTAYAとファミリーマート利用者では80%以上が認知していますが、まだ認知率が低い提携企業もあるのです。この認知を上げることが我々の課題なんです。

商品を売る基本とは

――「Tポイント」が他社の店でも使えることを認知させるためにとった対策というのは?

 認知率を上げるには、先ほども言ったようにマス広告がポイントだと考えています。まだ実験段階ですが、テレビ、FM・AMといったラジオ、そして、新聞を使ったクロスメディアキャンペーンを開始しました。
 そのテストマーケティングの場所として選んだのが福岡です。福岡のKBCテレビで20年続いている看板番組があるのですが、その中に「クリエイター集まれ」というコーナーがあります。そのコーナーで、事前にTSUTAYAで作ったCMを紹介して、「このCMを超えるものを作ったら本当にオンエアします」という公募をしたのです。
 学生や地元のクリエイターから多数応募がありましたが、その中から番組でミリオンクリエイターである僕が優秀作品を選び、その作品をブラッシュアップして実際にCMとしてテレビでオンエアしました。そのニュースをラジオや新聞にも広げていこうという仕掛けを考えたんです。
 テストマーケティングは10月いっぱいやりましたが、実際に結果を残したので、今後はエリアごとに展開していこうと考えているところです。

――そういう企画を酒井さんが考えている?

 そうです! 前の会社でヒットをつくり出すためのすべてのマーケティングを自分一人でやってきた経験から、いろいろな企画に取り組んでいます。TSUTAYAや「Tポイント」の本当の良さを世の中に広めるためには、やはり当事者である我々が自ら企画をつくってプロモーションすべきだと僕は思っています。これからの時代はプロモーションに注力した企業が伸びると思うんですね。

――プロモーションというのは、商品を売ることですか。

 ただ安く売るのは論外ですが、売れることは重要です。音楽でも、結局、売れることがアーティストの幸せにつながるし、最終的にはユーザーもレコード会社も幸せになる。小売りも売れるものをちゃんと仕入れないと、あそこの店に行ってもつまらないねということになってしまうと思うんですね。

――その売ることに、今多くの企業が悩んでいると思うのですが。

 最近の消費者は、ものすごくドライです。自分が欲しいものと、欲しくないものをきっちり分けている。衣食住で、どうしても必要に駆られて買うもの以外は、欲しいものしか買わない。
 だから、その商品を欲しいと思ってもらうためには、つくるときも、お客様の懐具合や趣味嗜好をとことん考え抜く必要があるし、売るときも、その人が欲しくなるような売り方をしなければいけない。ものを売る基本は、人がお金を払う瞬間の笑顔を想像して考えることだと思うのです。


もどる