特集

2009.8・9/vol.12-No.5・6

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大学広報の今

大学のグローバル化をめざしたウェブ活用

 早稲田大学は「早稲田からWASEDAへ」をスローガンに大学のグローバル化を推進しているが、そこで課題となっているのが、大学の国際的な情報発信だ。ウェブを活用して大学広報の新たな領域に取り組む広報室の村上裕二氏に聞いた。

――早稲田大学の広報室の役割からお聞かせください。

 大学の広報とひと口に言っても、そのミッションは大学によって違います。一番大きな違いは入試広報を広報部門が行うかどうかで、早稲田では入試広報は入学センターが行い、それ以外をわれわれ広報室が行うという棲み分けになっています。
 その広報室の役割を定義するなら、「大学が持っている学術的文化的資産やその取り組みの成果に関する情報を網羅的かつ体系的に収集して、それをメディアを通じて効果的に社会に発信する」ということです。大学という閉じられた世界の中に情報をとどめずに、それを社会に還元していくことが広報の最大のミッションだと、われわれは考えています。

――発信するトピックは、どういう基準で選んでいるのでしょうか。

 特別な基準があるわけではありません。大学には、教育と研究という二つの大きな役割がありますが、それに関するものについて常に発信するということです。その中には例えば、最新の研究成果もあれば、野球の斎藤佑樹投手の動向や「大学生の恋愛事情」といったやわらかい話題まである。「イメージが悪いからこれを出すのはやめておこう」ということはありません。「自由闊達」「多様性」が早稲田のキーワードで、言葉は悪いですが、ピンからキリまで全部出す。「早稲田の今」を知ってもらうことに努めています。

広報を変えたウェブ

早稲田大学のオフィシャルサイト
早稲田大学のオフィシャルサイト
http://www.waseda.jp/
――大学広報の中で、ウェブの役割をどう考えていますか。

 一番大きな変化は、今まではニュースリリースを作っても、それを載せるか載せないかはメディア次第だったものが、ウェブが影響力を持つようになり、大学自らがアクティブに情報発信できるようになったことです。早稲田の場合、トップページのアクセス数も既存の媒体を凌ぐまでになっています。しかも、国内にとどまらず全世界に向けて情報を発信できますし、速報性もある。また、紙媒体との連動も可能です。紙媒体をPDFにしてウェブに載せ、それをアーカイブしておけばいつでも閲覧できる。その場限りの情報で終わるのではなくて、重層的に積み上げていける。そういう意味で、ウェブは広報のあり方そのものを変えたと思います。
 毎年夏に各大学の広報が集まって合宿研修をやっているのですが、最近は必ずウェブの講座が一つか二つ入っていますね。

――ウェブへの関心がますます高まっている?

 以前から関心は高かったのですが、関心のポイントが変わってきました。ウェブが出始めのころの関心はデザインでした。それがナビゲーションなどが重視されるようになり、同時に各種の「サイトランキング」が注目されるようになりました。
 そのため、ここ数年どの大学もウェブにかなりの投資をしたと思います。多くの大学が、ウェブを立ち上げてから建て増し、建て増しで複雑になっていたサイトをゼロベースで立ち上げ直しています。われわれも昨年度、サイトを全面的にリニューアルしました。

――リニューアルで重視した点というのは?

 ランキングにこだわるというよりは、あくまでユーザー視点で、見に来た人がストレスなく自分の目的の場所にたどり着けることに重点を置きました。ウェブには、やはり目的があって来るわけです。大学のサイトには、受験生やその保護者、在学生、留学希望者、卒業生、それから企業関係者や記者といったさまざまな人が訪れるわけですから、その時、迷わないように、わかりやすく情報を置くということに力を注ぎました。
 ただ、大学には学部の自治があって、サイトも、ある階層から下は各学部の裁量で作るのが一般的だと思います。企業のように一つの部署が全体を管理するということができないんですね。ナビゲーションやユーザビリティーをどのように統一していくかが今後の課題です。

新聞社サイトに常設サイトを

――ヨミウリ・オンライン(YOL)に「ワセダオンライン」という常設サイトを設置されていますが、新聞社とのタイアップの意義はどこにあると考えていますか。

 「ワセダオンライン」は昨年からスタートしましたが、最大の目的は海外への情報発信です。検索サイトで「WASEDA」と打ち込んだ時に、見たい情報が英語でもすぐ取れるようなサイト構築を早急にやりたいということから始めたものです。これを大学サイトで実現しようとすると、学内のコンセンサスが必要ですから、立ち上げまでに時間がかかります。「ワセダオンライン」は、広報室管轄ですから、われわれの判断で進めることができる。自由度が大きいということなんです。
 早稲田大学は07年の創立125周年を「第二の建学」と位置づけ、今後着手すべき重点施策を定めた「Waseda Next 125」を発表しましたが、その中で広報が掲げた目標の一つが国際的な情報発信でした。その時に、読売新聞との間で英語版のサイトも併せて展開しようという話になったのです。日本語版のコンテンツはすべて広報で作りますが、それが新聞社の協力で英語版のサイトとして見られるという仕組みです。
 この国際的な情報発信を始めて1年たち、相当な量の英語コンテンツがアーカイブとして蓄積されてきています。われわれとしては、「ワセダオンライン」を海外への情報発信の起点とすることで、大学本体のサイトも海外への発信力を高めていくことを期待しています。やはり、新しいことを始めるには、まず目に見える形にすることが大事で、その実例が「ワセダオンライン」だということです。

――大学のオフィシャルサイトと「ワセダオンライン」の違いは、どこにあるのでしょう。

 最も大きな違いは、大学のサイトではできないことが可能になることです。例えば、大学のサイトでは、学術的な内容の場合、評価の定まっていないもの、確実な裏付けのないものは発信しにくい面があります。しかし、「ワセダオンライン」の場合は、新聞社とのタイアップで信頼性を担保しながら、今こんな動きがあって、近い将来こうなるかもしれないという内容でも話題として載せていける。ということは、速報性にもつながるということです。

――「ワセダオンライン」の英語版の反響はどうですか。

 今までなかったことですが、まず海外から広報に研究者への取材依頼がメールで入るようになったことがありますね。それから、海外メディアから「ワセダオンライン」の記事を転載したいという依頼も来るようになりました。
 広報の仕事は結果が見えにくいところがあるのですが、ウェブは仕掛けを作ることによって実際に結果が見えてくる。「世界中から見てもらっている」ということで、スタッフのモチベーションも高まりましたね。

日本語版(上)と英語版(下)があるワセダオンライン
http://www.yomiuri.co.jp/adv/wol/ ワセダオンライン

グローバル化への対応が課題

――早稲田大学では、広報の国際化に今後力を入れるということでしょうか。

 先ほどの「Waseda Next 125」の中核ビジョンの一つがグローバル化の推進です。「グローバルキャンパス早稲田」とわれわれは言っているのですが、日本の大学であることを超えて、世界水準の教育・研究拠点として存在感を示せる「WASEDA」の確立を目標にしています。
 近年、日本の大学も国際競争の波にさらされています。世界の大学ランキングが注目されるようになりましたが、ハーバード大学もケンブリッジ大学も清華大学も同じ尺度で見られるようになっています。そこで重要になるのは国内でしか通用しない“偏差値”ではなく、自分がその大学で何をどう学べるかという世界水準の教育の質です。そういう中で、早稲田も世界の学生に選ばれる大学にならなければならない。これから日本の大学は、世界に伍して評価される大学と地域社会に貢献することで評価される大学に分かれると思うのですが、早稲田は世界の中で戦うことを選んだわけです。
 文部科学省も国際化拠点整備事業(グローバル30)において、9月入学の実施、英語で授業を受け学位が取得できる体制を整えた大学への支援を始めています。早稲田も、国際教養学部がすでにこれに対応した教育を行っていますし、今後、他の学術院に拡げることで、海外からの留学生を現在の3000人から5年以内に8000人にする計画です。
 しかし、広報という視点から見ると、グローバルキャンパス早稲田を実現するためにまだまだ手付かずの部分があります。その中核となるのはやはりウェブです。多言語化が理想ですが、まずは英語から。「ワセダオンライン」は、その第一歩だということです。


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