CURRENT REPORT

2009.8・9/vol.12-No.5・6

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立体緑園都市づくりで東京の街をもっと快適に

 東京都心部での住宅供給が活発化し人口回帰が進む昨今、東京のグランドデザインを問い直す時期が来ているのではないだろうか。1959年の設立以来、50年にわたり都心部での開発事業を手がけてきた森ビルの取締役河野雄一郎氏に、東京の街づくりについての考えを聞いた。

森ビル株式会社 取締役秘書室長兼広報室長 河野雄一郎氏
――東京をどのように見ていますか

 東京は世界でも類を見ない、機能が集積した素晴らしい都市です。ただ、これから国際的な視野に立ったときに、現在の平面過密、立体過疎の都市構造では世界の都市間競争で後れをとってしまう。この点はアジア諸国の都市と比較しても顕著で、このままでは東京の活力は失われてしまいます。
 もっとも、その課題ははっきりもしています。経済的な繁栄を持続させることはもちろんですが、地震に対するリスクを回避し、生活環境を改善していくことが挙げられます。こうした課題は都市政策を転換し、工学技術の力を借りることで解決できると私たちは考えています。

――森ビルの考えとは

 まず、日本人が根強く持っている戸建て持ち家主義から発想を転換することが必要です。細分化された土地を集約して建物を高層化すれば、住まいのボリュームは変わらず、足下には大きな空地を創出できる。そこを人と緑に開放することで、安全で快適な好環境都市が生まれるし、都市機能をコンパクトに集積することで、利便性は格段に高まります。
 こうした構想を「ヴァーティカルガーデンシティ(立体緑園都市)」と呼んでいるのですが、今後は地表面の立体利用もさることながら、地下空間の活用が重要になると考えています。日常私たちが使う施設には、案外採光を必要としないものがある。コンサートホールや図書館などはその代表ですが、可能なものは地下に造り、地上を開放する。構造上も地下のほうが安定したものを造ることができるので、地震に対してもより安全ですし、気温差が少なく、夏涼しく冬は暖かいので、空調効率も高まり、CO2の削減、エネルギーの節約につながる。地球環境的にも理にかなっているのです。従来の建物の延長だけではなくて敷地全体をまるごと利用し、地下空間を最大限活用できれば、「ヴァーティカルガーデンシティ」の可能性もさらに膨らみます。

――着想のきっかけは

 私たちは創業当初から「街に緑を」と謳ってきましたが、ビル単独での緑化には限りがあり、かつては屋上緑化などに耐え得る技術も十分ではなかった。転機となったのは86年に竣工したアークヒルズの再開発です。敷地内のサントリーホールの屋上を緑化し、外周道路に桜並木を植え、四季の喜びを感じられるようになった。やはり都市で生活するには、大きな街区で自然と共生し、文化、芸術、商業など複合的な機能を持たせたほうが住みやすくなるんです。
 それ以前の再開発事業では、地権者の方には郊外への転出をお勧めしてきました。当時はそれが正解だったのでしょうが、今となっては通勤に1時間以上もかかってしまうような外延化を進めてしまい、都市の活き活きとした営みを失わせてしまったのではないかとの思いもあります。私たちは街を活性化させるという目的を持って事業に取り組んでいるわけですから、最も大切なのは、そこでの人々の暮らし、日々の営みです。どんなにキレイで立派な街並みをつくっても、活力がなくては意味がありませんし、都市景観をも変えていくわけですから社会的責任も非常に大きいわけです。住む人、働く人、遊びに来る人、皆さんにとって快適な空間を創造していく。その点には最も傾注しています。

――私企業の取り組みとしては非常にエネルギーの要ることですね

 時には既存の条例や法律が想定していなかった事態を乗り越えていく必要もあるのですが、街のあり方を考え、実現のためには既成概念にも挑戦してきた私たちだからできることがあると思うのです。
 六本木ヒルズにしても、敷地面積11ヘクタール、法人、個人合わせて1000人規模の関係者の権利調整を要した案件で、当初は事業の実現を疑問視されました。結果的には17年という歳月を費やしましたが、地域の方のご賛同を得て事業をまとめることができたのです。やればできるんですよ。
 でき上がった街には多くの称賛もいただきましたし、一定のご批判もあることは承知しています。でも、大切なことは街のあり方について地元の方々の意見を聞きながら、デベロッパーとして責任を持って提案し、実践することだと考えています。

――現在進行中の事業は

 1989年に地域との勉強会を立ち上げ、今秋着工予定の「虎ノ門、六本木地区再開発」、1946年に都市計画道路の決定を受けた環状2号線と沿道地区の再開発事業「環状2号線プロジェクト」など、着工済み、あるいは地域の皆様と協議中の多くのプロジェクトが長いスパンで進行しています。
 街が広がれば新たなプロジェクトを呼びますから、街づくりに終わりはありません。港区エリアを中心に事業を展開している私たちですが、この東京を安全で環境も良く、経済、文化両面でも豊かな、世界から称賛されるような都市にしていきたい。 もちろん自分たちだけでできるとは考えていません。私たちが標榜する街づくりについて、周囲の方々も一緒になって考えていただき、東京の街を活性化していくことができれば非常にうれしいことです。

6月2日 朝刊
6月2日 朝刊

(梅木)

取材メモ

 森ビルが創立50周年を迎えた今年の6月2日、朝刊に全30段の企業広告が掲載された。「人が活き活きと生活している『ヴァーティカルガーデンシティ』を表現するために、CGや模型ではなくイラストで楽しくデフォルメしてみました」と河野氏。イラストは2か月で制作する予定だったが、「もっと楽しく、わかりやすくと、結局、1年かかっちゃいました。森ビル的な広告づくりということでしょうか(笑)」
 広告に出現した街は、技術的には現時点でも実現は可能だという。

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