マーケティングの新レシピ

2009.6・7/vol.12-No.3・4

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値引きの品は安心ですか?

 この春先から、コンビニエンスストアの店内で一風変わった風景を目にすることが増えた。
 飲み物の売り場に行くと、特定の商品がやたらと少なかったり、時には売り切れているのである。大概は、日本茶などの万人が好む売れ筋の商品だ。
 理由は明白だ。週代わりなどで、特定の商品を値引きしているからである。値引き幅は20円程度であることが多い。殆どのNB(ナショナルブランド)の商品は税込みで147円だから、10%以上のディスカウントである。十分に魅力的な割引といえる。
 値下げの対象になっているのは、シェア上位、いわゆる売れ筋の商品であることが多い。消費者にとってはお得感が強い上に安心できるということなのだろう。
 一社がおこなえば、翌週は他のブランドとなる。不況の中ではこうした価格プロモーションが有効だからこそ、何度も繰り返されるのである。
 また、お茶のようなカテゴリーにおいて、「このブランドじゃなきゃ嫌だ」という消費者は少数派である。だからこそ20円の割引が効果を発揮する。
 開発者にとっては、お茶の味は「どれも同じ」ではないはずだ。こうした傾向は残念に思うかもしれないが、現実の消費者行動はシビアなのである。

「安くても安心」のブランディング

「安くても安心」のブランディング

 こうした低価格志向の消費行動を観察していると、ブランディングの潮目が変わってきたことが分かる。
 もともと、ブランディングは収益率を高めるためにおこなってきた。いま仮に、自社ブランドよりも低価格戦略をとったブランドがあり、店頭に並んでいたとする。
 ここで消費者が「高くてもこちらがいい」と思えば、値引きしない分だけ利益率は高くなる。そのためには、消費者の心の中にあるブランド像を「良い状態」にメンテナンスしておく必要がある。
 だからこそ、広告などのコミュニケーション活動が必要になるのだ。
 ところが、こうした潮目が変わった。07年後半から徐々に物価が上昇する中で、流通によるPB(プライベートブランド)が強化され、消費者にも受け入れられるようになったのである。
 かつてのPB商品の中には「安いけど、品質は今ひとつ」のものもあり、大量に在庫を抱えた失敗ケースもあった。
 しかし、昨今のPBの品質は向上した。2008年に日経流通新聞が発表した「ヒット商品番付」の西の横綱には「セブンプレミアム/トップバリュ」と代表的なPB商品が名を連ねたのである。
 こうした商品の普及が、消費者の心理を変えた。「高くてもこちらがいい」と選択されるためにブランディングをする時代が変わったのだ。
 「安くてもこちらが安心」と思われるためのブランディングなのである。ちなみに、PBの日本茶は88円で販売されている。NBが値引きをしないことには太刀打ちできなくなりつつあるのだ。

低価格時代のコミュニケーション

 こうした流れは、コンビニなどにある一般消費財だけに見られるものではない。自動車市場におけるハイブリッド車の価格設定も、同様の文脈で理解できる。
 ホンダがインサイトを189万円で発表したことで、トヨタもプリウスを205万円に設定して対抗した。
 ホンダのブランド力は高い。教科書通りなら、価格プレミアムを狙う戦略をとってもいいはずだ。そして、こうした低価格戦略は下位メーカーが参入する時の方策のはずだった。
 しかし、低迷した国内新車販売と急速な経済後退の中で、思い切った戦略に出た。低価格でも「ホンダなら安心」というように、ブランド力を活用したと理解できるのだ。そして、その流れにトヨタも加わり、両車種とも予約は好調である。
 このような傾向が続くと、いきおい利益率は低下していく。そして、それを食い止めるためには、販売促進コストを削減する必要がある。そうなると、広告を始めとするコミュニケーションコストも削減されていく可能性が高い。
 冒頭のケースのように、売値を10%以上下げると、利益の低下はそれを大きく上回るのである。1本あたりの販促コストをまず削ろうと考えるのが自然だ。
 かつてもそうだったけれど、景気後退期に低価格志向が強まると、総広告費はマイナスになる。こうした傾向は今回も見られている。
 しかし、新たなコミュニケーションのニーズが出てくる可能性もある。
 みんなが低価格志向になると、もう一度品質上の差別化競争になるからだ。そうなると、「なぜ低価格にできるのか」「同じ低価格でもどこがどう違うのか」を、いま一度伝達する必要が出てくるのである。
 その際には、製品の研究開発スタッフから広告制作者に至るまで、マーケティングにかかわるスタッフが結集して、「価格と価値」のあり方を考える必要がある。
 当面は個人消費の冷え込みは続く可能性が高いけれど、次の局面での変化は常に考えるべきなのだ。

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