特集

2009.4/vol.12-No.1・2


不況に打ち勝つブランド戦略

住まいの本質を追求するマンションブランドへ

 日本の集合住宅を語る時に欠かすことのできないブランドが、三菱地所の「パークハウス」だ。69年の分譲開始から40年間、高品質のマンションを造り続けてきた三菱地所が、積極的なブランド戦略を展開し始めている。商品企画部の須藤良太担当部長に聞いた。

――マンション市場は厳しい状況にあると聞いています。

 昨年はまさに不動産業界にとっては厳寒期でしたが、年末あたりから少し雰囲気は変わってきています。各社同じような状況だと思うのですが、物件やモデルルームへの来場者数が、年明けから2月末までの実績をみると前年同期比で約3割アップになっています。
 その要因は、税制の優遇措置の拡大で、優遇の上限額も上がり、期間も11年になるという見通しが立ってきたこと、05年ごろから上昇してきたマンションの実勢価格がその上昇分だけ落ちてきていること、金利も低水準になっていることなど、いくつか考えられます。これまで年8万戸供給されてきたマンションが、09年度はおそらく4万数千戸まで落ち込むだろうということで、供給側から見れば以前と状況は違うのですが、実は買う側のお客さんから見たときには、数年前の一番売れていた時期と、そんなに変わらない状況になってきています。
 全体的な不況感や雇用不安からマーケットは縮小していますが、本当にマンションが必要で買いたい人たちにとっては、むしろ買い時になってきている。それが最近の来場者数の上昇につながっているのではないでしょうか。

技術者魂で造るマンション

――そういう中で三菱地所の「パークハウス」は、今年40周年を迎えるということですが。

 住宅市場に参入したのは69年で、赤坂7丁目の「赤坂パークハウス」が最初です。当時「パーク」という言葉は、とてもすてきな響きを持った言葉だったと思うんですね。事業が拡大した今も原則的にそのワンブランドで通しています。
 社内でも販売の現場から、都心のグレードの高い物件と郊外の物件を同じ名前で売っていいのかという意見がありますが、三菱地所が造る建物の躯体、つまり骨格に差があるわけではありません。立地やターゲットの違いで外構や内装に差はあっても、建物の骨格に差をつける必要はない、むしろそれはおかしいという考え方が我々のマンション造りのベースにあります。
 そういう考え方は、我々の会社がもともと内部に設計セクションを持っていたことから出てきています。今は分離独立してグループ会社になっていますが、そこに現在も300人の設計スタッフを抱えています。そういう技術者魂が地所のDNAとしてあると思います。

70年に竣工した「赤坂パークハウス」
70年に竣工した「赤坂パークハウス」
――「パークハウス」の竣工件数は、2000年あたりから急増していますね。

 マンション造りに対する考え方が、そのころから劇的に変わったのは事実です。それまでの「パークハウス」は、建設業界の方にどこのマンションがいいかと聞けば、「三菱地所がいい」と誰もが答えてくれるような非常に評価の高い物件でした。ブランドとしては最強であったかもしれません。しかし、数が少ないので買おうと思っても買えない(笑)。そういうマンションだったのです。数がなければ事業として大きくなれません。これではいけないと、住宅事業の改革を目指して検討会が設置され、それをもとに現在の業務体制の基盤となる大々的な改革が行われたのが01年です。
 その変革の一つは、責任体制を変えたことです。それまでは、事業部を土地の購入、施工、販売、アフターフォローと分けていたのですが、それを一つのセクションが通して担当するようにしました。また、事業部をバックアップするスタッフ部門も買う前のお客様とのコミュニケーションからアフターサービスまで一貫して行うようにしました。この結果、お客様の声がすぐフィードバックされるようになりました。
 いくつか立て続けに打った施策がマンション需要の回復する時期と重なり、業界全体以上に「パークハウス」が伸びたということなんです。

パークハウス竣工件数
「三菱地所住まいのギャラリー」パークハウス・ヒストリーから作成

“当たり前”をシステム化する

――施工の途中経過をお客様に報告する「チェックアイズ」という制度も導入していますね。

 欠陥住宅が社会問題として取りざたされた後、設計段階と施工段階の2回にわたり、国土交通省登録の評価機関が一定の基準をもとに住まいの性能を評価する「住宅性能表示制度」が2000年に施行され、この時期に当社では「チェックアイズ」を始めました。
 「住宅性能表示」は、あくまで最低限のチェックポイントにすぎません。例えば、耐震性が高ポイントであるためには、窓を極力少なく、小さくしたほうがいいわけで、評点が高いことが必ずしも快適な住まいにはつながらない面もあります。
 「チェックアイズ」は既存の評価項目も含め独自基準の1000に及ぶチェック項目を整備し、それに基づき自分たちで現場を確認、施工の途中経過をお客様に報告するシステムです。また、竣工後の建物のチェックを継続する体制も同時に作りました。
 実は、こうしたチェックのほとんどは、従来から当たり前のこととして内部でやっていたものです。ただ、根が技術屋ですから、あまり声高に言わなかった。それで、商品企画部が中心になって、当たり前だと思ってやっていることを全部出してくれと言ってまとめたものが「チェックアイズ」のほとんどの項目です。要は、内部でこれまでやってきたことを、きちんとお客様に情報公開したものが「チェックアイズ」です。

――その当たり前のことというのは……。

 例えば、杭穴の全数計測ということもやっています。杭の穴を掘ったときに、それが垂直で径が一定になっているか超音波探査します。掘った穴のいくつかを検査する方法もあるのですが、目で確認できない、建物を支える重要なことなので、我々は全部やります。
 それから、コンクリートは水が多いほど施工がしやすいのですが、後でひびが入りやすい。だから、水とセメントの比率もきちんとチェックします。でも、そういうことは当たり前のこととして、お客様には伝えていなかった。「チェックアイズ」とネーミングし、システム化することによって、「黙して語らず」がカッコいいという社内の意識を変えたかったということもあります。
 もう一つ、「チェックアイズ」と同様の考えでシステム化したのが、「カスタムアイズ」です。これは専門のインテリアコーディネーターがお客さまの要望を聞いて、マンション住戸内部の設えを変更するサービスです。
 実は「パークハウス」は、第1号の赤坂パークハウスの時から、内部の変更に柔軟に応じてきた歴史があります。マンションを売る時に、個別対応のウエートが大きいのも「パークハウス」の特色だと思います。
 本来、集合住宅は、画一的に大量生産するほうがより低価格で提供できるのですが、「パークハウス」は生産効率からいったら、まったく逆をやってきました。それは、おそらく三菱地所が丸の内の大家というか、“ビル屋”から始まったことが大きな理由かもしれません。
 ビル屋というのは空間だけ提供して、テナントが代われば中は全部造り替えるのが普通です。それが、マンションの内部の変更に柔軟に応じてきた要因になっていると思います。純粋な集合住宅としての生産効率を重視するより、お客様の要求に応じようという姿勢が初期からありました。

――そういう売り方が、逆に、時代に合ってきたような気もしますが。

 それで、これも「パークハウス」の強みととらえ、数年前から「カスタムアイズ」という制度として整えたということです。その導入物件第1号が「パークハウス代々木公園アーバンス」(05年12月竣工)です。

――無印良品とのコラボレーションも手がけていますね。

 昨年秋に着工した「パークハウス 木々 津田沼前原」がそれですね。異業種とのコラボは以前から取り組んでいます。生活雑貨やティールームを手がける「Afternoon Tea」(サザビーリーグ)とも10年くらい前から提携していて、内装に限らず、間取りや外装のアドバイザーとしても参加していただいています。

2008年10月23日 朝刊
2008年10月23日 朝刊
パークハウス代々木公園アーバンス面
「カスタムアイズ」によって造られた「パークハウス代々木公園アーバンス」

「住まいに喜びと感動を」

――そうした改革の努力が、2000年以降の「パークハウス」の好調につながった?

 三菱地所は総合デベロッパーとして上位に数えられる会社ですが、マンション事業はそれほどでもありませんでした。改革の実行で供給戸数でも首都圏で1位になる年も出てきて、マンション事業も軌道に乗ってきたということだと思います。それで、07年頃からブランド戦略にそろそろ取り組むべきだという機運が出てきたのです。

――ブランドといっても、マンションは少し特殊な商品だと思いますが。

 確かにマンションは、プロダクトブランドという意味では限りなく弱い商品ですね。プレイス(立地)、プライス(価格)、プラン(間取り)の「三つのP」がマンションの基本だといわれますが、実際はプレイスとプライスで商品価値の8割から9割が決まってしまいます。つまり、同じものは二つとない商品です。だからマンションブランドは、コーポレートブランドに近いものだと思うのです。
 そういう意味では「パークハウス」は、常に三菱地所のマンションであるというとらえ方をされてきました。三菱地所の特色である技術屋魂やビル屋気質が「パークハウス」のブランド価値として“なんとなく”浸透していたと思うのです。しかし、せっかくブランド戦略を考えるなら、その先に行くべきだと考えたんですね。

――「その先」というのは?

 これまで「マンションは骨格が大事だ」と強調してきましたが、そうしたものをベースに持ちながら、事業としてはその先に行きたいということです。住まいの本質には買ったときの喜びやうれしさ、外観の美しい建物を目にしたときの感動もあると思うのです。

――「住まいに喜びと感動を」は今年40周年を迎える「パークハウス」ブランドのタグラインですが、そういう意味がある?

 実は、「パークハウス」としてブランドロゴやタグラインを作ったのは初めてなのですが、「40周年だから」ということではありません。あくまで、マンション事業の今後を見すえた結果であり、三菱地所グループ全体のブランド強化と並行しての作業でした。
 三菱地所グループのブランドスローガンは「人を、想う力。街を、想う力。」です。さまざまな空間やサービスに求められる本質的な価値を追求し続ける我々の使命と志を言葉にしたものですが、これを受けて作った「パークハウス」のタグラインが、「住まいに喜びと感動を」です。 
 建物の骨格の確かさはマンション造りのベースです。それは、これまでの「パークハウス」でしっかり築いてきました。それを当然のこととしてお客様に信頼してもらった上で、今後は喜びや感動を呼ぶマンションを提供したいと考えています。
 そこでは、デザインがより重要になってくると思っています。ただ、それは流行やデコレーションではない本質的なデザインです。環境と調和し、使い勝手もいい。住み続けても飽きがこない。そういうデザインであるべきだと思います。

3月18日 朝刊
3月18日 朝刊 ブランドロゴ
新たに制定された「パークハウス」ブランドロゴとタグライン

物件を通じてブランド構築

――それを今後どうコミュニケートしていくのでしょうか。

 昨年約10年ぶりにパークハウスのテレビコマーシャルを作成し、流し始めましたが、現在のところマンションの場合は、個別の物件を通じてブランドの告知も強めていくほうが現実的な気はします。やはり、個々の物件の広告はかなりの量に達していますから。
 「住まいに喜びと感動を」という住まいの本質的な価値の追求を目標に、個々の物件の魅力を現場で出し、その上でマンションブランド「パークハウス」自体の広告で後押しすれば、それがマンションにとって最高のブランド構築になるのではないかと考えています。

「パークハウス楠郷臺」
コアウォール免震構造で樹齢600年の大楠の保存を図った「パークハウス楠郷臺」(東京都文京区本郷)

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