Creativeが生まれる場所

2009.3/vol.11-No.12


メジャー同士の掛け算 新聞とテレビだけで“事件”を〈 読売新聞×協賛7社 〉

シンガタ クリエイティブディレクター 佐々木 宏氏

1977年電通入社。クリエーティブ局長クリエーティブディレクターを経て、2003年7月「シンガタ」設立。サントリー「BOSS」 、ソフトバンク全キャンペーン、ANA「ニューヨークへ、行こう。」、江崎グリコ「25年後の磯野家」、トヨタ自動車「ECO-PROJECT」、JR東海「そうだ 京都 行こう。」などを担当。カンヌ国際広告祭 金賞、TCC賞、ADC賞、ACC賞の各グランプリほか受賞多数。

 読売新聞の正月広告に、箱根駅伝のテレビCMと連動させたユニークな連合広告が掲載された。正月の国民的イベントである箱根駅伝のテレビCMでは、昨年の広告界を席巻したソフトバンクモバイルのキャラクター「白戸家」を使い新聞広告へ誘導。元旦と3日朝刊には、「広告に、事件を。」のスローガンの下、今や国民的アイドル(?)になっている白戸家のお父さん犬、カイ君が各広告に登場した。
 このインパクトのあるコラボレーションを企画したのが、ソフトバンクモバイルなど数々のキャンペーンを成功させてきたクリエイティブディレクター、シンガタの佐々木宏氏だ。

──今回の企画は、いろいろな意味でチャレンジだったと思いますが。

 もう二十数年前の話ですけど、僕も6年間、電通の新聞雑誌局に籍を置いていました。それが縁で、新聞広告を面白くしたいから協力してほしいという話を時折いただきます。今回も、電通で読売新聞を担当している新聞局と営業局の2人が「新聞広告を元気にしたい」と話を持ってきたのがきっかけです。
 最初の打ち合わせの後、仕事が忙しくなって、1か月後くらいにまた会って、その時は僕も本音で言わせてもらったんです。例えば、まず新聞広告を広告するなら新聞だけで考えるのではなく、やっぱりテレビを使わなければダメなんじゃないのとか。それも、深夜の時間帯ではなく、紅白歌合戦とか箱根駅伝とかでやらなくてはインパクトがない。それから、地味なタレントじゃなく、木村拓哉くらいの大物がどの広告にも出ているとか、ソフトバンクモバイルの白戸家のお父さん犬を出すくらいの挑戦的なことをしないとメジャー感が出ないし注目されない、「読売新聞が面白い新聞広告やってるね」ということにならない、というようなことを言ったんです。もちろん、紅白歌合戦にCMは100%あり得ないし、箱根駅伝のCM枠を押さえることも難しい。つまり、実現不可能なことをあえて言ったつもりだったんです。
 ところが、「白い犬、いいですね」と。それからの担当2人のガンバリと読売新聞の全面的な協力もあって、無理なことを言ったつもりが実現に向かって動き出しちゃったんですね。

いくつもの壁を乗り越え

──佐々木さん自身は、実現は不可能だと思っていた?

 多少のもくろみがあったことは確かです。例えば、読売新聞とソフトバンクモバイル、両方のテレビCMを電通の澤本嘉光君が作っていることもありました。それで、澤本君が別の打ち合わせで来た時に、アイデアを話してみたんです。彼も今抱えている仕事で手いっぱいなのに、「けっこういいですね」と乗り気になってくれた。それから、ソフトバンクモバイルも、急激な景気悪化の中で広告出稿を少し控えている状況があり、孫正義社長にもキャラクターの使用を快諾していただけた。そういうように、少しずつ前には進んでいったのですが、それでもやっぱりこの企画は無理だったか〜ということが途中で何回もありました。

──テレビCMと新聞広告を組み合わせた企画に、読売新聞のほか7社が参加していますね。

 企画自体は、ソフトバンクモバイルの白い犬が他社の新聞広告に登場するという構造です。箱根駅伝の放送内でオンエアされたテレビCMはあくまで読売新聞のCMで、実際に出稿された各社の新聞広告が1シーン出てきて、「元旦(今朝)の読売新聞をご覧下さい。」と、新聞広告に誘導する。
 実際は、箱根駅伝往路の1月2日は新聞休刊日ですから、年末に新聞広告、1月1日にテレビCMのティーザー広告を打ち、元旦の新聞広告も翌日も必ず見るテレビ別刷りに掲載しました。
 テレビCMで「今日の朝刊をご覧ください」というのはよく使われる手法ですし、キャンペーンでテレビCMと連動した新聞広告が出稿されるのは、以前は珍しいことではありませんでした。今回の企画は、やや古く見えている「新聞とテレビの組み合わせ」が、今でも効き目がある手法なんだということを広告主に見直してもらえたらということがまずありました。
 もう一つは、メジャータレントが出ると新聞広告がいかに面白くなるか実感してほしかったということがあります。今回はその役回りを白戸家のお父さん犬、カイ君に期待しました。
 ある企業のマスコットキャラクターを他企業の広告に使用するのは一見タブーのように思われるかもしれませんが、そのキャラクターのベースがしっかりしていれば「あり」だと思うんです。ディズニーランドのキャラクターをいろいろな企業が広告で起用していますが、それと同じことじゃないかと。

12/29
12月29日 朝刊
12月29日 朝刊
TVCM
テレビCM
──「広告に、事件を。」というスローガンには、どんな意味が込められているのですか。

 新聞は基本的に事件を伝えるメディアです。でも、テレビCMのように動くわけでもなければ、音が出るわけでもない。だから、ユーモアでもデザイン的な美しさでも、今言ったメジャータレントでもいいのですが、そこに事件性がないと新聞広告は注目されるものにならないと思うんですね。新聞広告のライバルは、「新聞記事」というのが、個人的スローガンで。

元旦テレビ別刷り
<35面>
1月1日 別刷り(第2部) <35面>
トレンドマイクロ
<36面>
<36面>
セキュリティ篇
テレビCM「セキュリティ」篇
アスミック・エース「ザ・ムーン」
<37面>
<37面>
セキュリティ篇
テレビCM「映画」篇
ANA
<38面>
<38面>
海外旅行篇
テレビCM「海外旅行」篇
箱根駅伝 往路

“広告メディア”新聞の価値

──新聞広告からウェブへという展開は考えなかった?

 今回は、意地でも新聞とテレビだけでやりたかった。最近は何でもウェブだとなりがちですが、それで世の中に広告が本当に認知されているかを広告主にも考えてほしかったんです。
 インターネットにつながった携帯電話やパソコンが新しいメディアとして期待されている一方で、新聞や雑誌はオールドメディアと言われている。古い、新しいで言えば、それは事実だと思うし、ウェブを利用した新しいコミュニケーションが活況を呈しているのも事実です。
 しかし、ウェブ広告は補足的にチョイチョイと少しくらいやったからといって即効果があるものではないんですね。バナー広告を打ってアクセス数が10万件になった、100万件を超えたと言っても、それはテレビの影響だったり、タレントの力に負う部分が大きかったりすることが多い。ウェブが次なる広告メディアの主人公になるにはもうちょっと時間がかかると思っているんです。
 もちろん、ウェブの勢いは誰にも止められないと思います。僕自身、個人的にも仕事でもよく利用しています。最近は特にYouTubeがすごいメディアになってきたと思っていて、例えば、「あの映画に使われていたあの曲なんだっけ」という時に、映画のタイトルを入れて検索すると見事にその曲が出てきて、実際に聞いて確認できるし、とにかくいろいろ便利なんてものじゃない。
 しかし、僕が言いたいのは、それと広告メディアとしての価値は別だということです。
 特に新聞は、リーチや社会に対する影響力はテレビと双璧なのに過小評価されているところがある。最近は、新聞が読まれなくなったと言われていますが、1000万部発行されていて、リビングのど真ん中にある新聞が大きな影響力を持ったメディアであることは変わらない事実です。ところが今は、ウェブだ、クロスメディアだと言われる中で、新聞が実態以上にネガティブに捉えられている気がしてならないんですね。
 もちろん、クロスメディアという考え方自体は間違いではないと思いますが、僕はこのクロスメディアという言葉をなんとも好きになれない。一見新鮮だけれど、「なんじゃ、それは」と思ってしまう。昔で言うメディアミックスにウェブが加わってクロスメディアという言い方になって、かっこつけてるだけじゃんと(笑)。

箱根駅伝 復路
江崎グリコ
1月3日 朝刊 <17面>
1月3日 朝刊 <17面>
ガム篇
テレビCM「ガム」篇
セキスイハイム
<18面>
<18面>
あたたかい家篇
テレビCM「あたたかい家」篇
ほっかほっか亭
<22面>
<22面>
お弁当篇
テレビCM「お弁当」篇
ソフトバンクモバイル
<23面>
<23面>

次の試みへの突破口に

──佐々木さん自身は、今回の企画をどう捉えていますか。

 根がへそ曲がりなこともあって、ウェブへの期待偏重の今の広告に対して、だったらテレビと新聞という昔からある組み合わせをリバイバルヒットさせてやろうという気持ちで作った企画です。しかも、「新鮮だね」と言われるような新聞とテレビを結びつけた新しい試みをしたかった。
 ただ、最初にも言ったように、こういう前例のない企画を進める中で、何度もこれは無理だという場面がありましたし、何か新しいことをやろうとすると、この業界にはそれを阻むたくさんの“しきたり”や、“縄張り意識”的なものがまだまだあることや、今どきは、どんな小さな表現上の試みでも必ずネガティブチェックの嵐に襲われることも改めて痛感しました。もちろん、広告業界にいる人間として、そういう個々の事情もわからなくはないのですが、そこを突破しないと新しいことは何も生まれないとも思い、読売新聞社さんとともに、ま、頑張りましたね。年末ぎりぎりまで、ちょっと考えられないぐらいのしんどい日々でした。
 協賛クライアントのみなさんと、新聞社、テレビ局などの協力があってということがあくまで前提ですが、最初からお互いの本音をズバズバ言い合うというざっくばらんな関係がなければ、成立しなかった企画だった気がします。
 新聞社とテレビ局の大物2組が、またタッグを組んで何かやれるといいですね。この企画が次の新しい取り組みのきっかけになればうれしいです。

テレビCMも新聞広告も見た人のうち、
6割が「テレビと新聞を行ったり来たりした」

読売新聞広告反響調査システム「AdVoice」で、 「広告に、事件を。」企画についての調査を行いました。

 自由回答より

  • ・白戸家の広告・CMは家族で盛り上がり、新聞・テレビに釘付けでした。(男性20代)
  • ・とても面白かった。考えた方に敬意を表したい。(男性50代)
  • ・箱根駅伝にも感動しましたが、明るい広告に気分が晴れやかになりました。(女性20代)
  • ・とにかく最初に見た時はびっくり。こんなことしていいんだと楽しく思いました。楽しいし、画期的な広告だと思いました。(女性20代)
  • ・カイ君を知っている人にはとても目立つ広告で、これはソフトバンクではないと気づいてから、あらためてまた楽しめました。同じキャラクターを使った、いろいろな格言のようなコピーがとても楽しく、インパクトがありました。(女性30代)
図

〈調査概要〉 調査対象者:アドボイスモニター=東京、千葉、神奈川、埼玉に居住する20歳以上の読売新聞購読者  調査方法:インターネット  調査日:2009年1月3日〜4日

もどる