特集

2009.1・2/vol.11-No.10・11


これからの広告コミュニケーション

メディアの新たな生態系とマス広告の役割

 広告が変わろうとしている。その背景はどこにあるのだろうか。それを、マーケティングとメディアの生態系の変化としてとらえているのが、世界的なコンサルティング会社ブーズ・アンド・カンパニーの岸本義之氏だ。これからの時代の新聞広告の役割も併せて聞いた。

――今の広告が置かれている状況をどう見ていますか。

 昨今の世界的金融不況の波が広告に影響がないとは言えませんし、それが短期的に企業の広告費にも影響を与えることは確かです。しかし、もう少し長期的な視点で重要なのは、マーケティングと広告の構造的な変化を認識することだと思います。私はそれを「生態系レベルの変化」だと言っています。

メディアの生態系が変化した

――具体的にはどういうことですか。

 これまでのマーケティングとメディアの生態系は、40年以上前にテレビの普及とともに形成されたものです。テレビは、大勢に、かつ一方的に情報を見せるメディアです。テレビCMで見た情報を購買時点で想起することによって購買行動が起こる。それは、万人向けと言える商品が存在していた時代に形成された世界です。それが一世代以上も続いてきたわけで、現役で企業で働いている人たちは、こうした時代を生きてきたのです。

――時代は変わったと?

 消費者のメディア接触行動と購買行動が大きく変化したことは言うまでもないでしょう。ブロードバンドや携帯電話の普及で、オンラインビデオ、ブログ、SNS、ビデオゲームなど様々なメディアが登場し、消費者のメディア選択も多様化しています。新しく登場したメディアとマスメディアとの間で、消費者の24時間を奪い合うという状況が出てきています。さらに、自ら情報を収集して購買決定するという消費行動も明確になってきました。
 こうした消費者の変化にマーケティングも対応しようとしていますが、それに追いついていないのが現状だと思います。
 一方、これまで財務的な観点でとらえられてこなかったマーケティング支出に対するプレッシャーも高まり、効果と効率が求められるようになってきています。最近のマーケターが重視するのが、マーケティングの効果と効率の両面を統合した「マーケティングROI(Return On Investment)」という考え方です。そのマーケティング活動がどのくらいの効果があり、効率が上がったか、投資対効果を測定していこうというもので、アメリカでは以前から言われてきたことです。

消費者の購買心理段階に合わせて

――マーケティングROIの基準は何でしょうか。

 ROIの低い投資を減らし、高い分野に配分するのですが、その際に最近使われるようになったのが、「パーチェスファネル」という考えです。
 「パーチェスファネル」というのは、消費者の購買心理のプロセスをファネル、漏斗のような図形で示したもので、「アウェアネス(認知)」から始まって「ペネトレーション(関係性の浸透)」まで、下にいくほど消費者が漏れていく。ですから、コンサルタントは“漏れ分析”などと言ったりすることもあります。
 例えば、ターゲットを100とすると、「アウェアネス」が80ならば、この段階では20の漏れがあり、その次の「コンシダレーション(考慮)」の段階で70ならば10漏れているということになります。各段階でこの漏れが少ないほど、効率のいいマーケティングが行われているということになります。大企業のメジャーな商品の場合はアウェアネスは十分に高いものが多いですから、アウェアネスを5割増しして漏斗の天辺を厚くしたからといって、最終的に購買する消費者の数が5割増しになるかといったら、そうはならないわけです。強化しなくてはいけないのは、「コンシダレーション」の段階かもしれないし、「プレファレンス(選好)」の段階かもしれません。その段階に合わせてメディアを使い分けていかなくてはいけない。そのためには、消費者が購買行動を起こすまでの心理プロセスを研究する必要があるんですね。

図
――「AIDMA」の発展形のようにも見えますね。

 そうですね。しかし、AIDMAは食品や雑貨など購入頻度が高く、価格が安い日常品のようなものには当てはまると思いますが、すべての商品に当てはまるとは言えません。
 車を例に挙げると、普通の人が車を購入する時、買おうと思ってから実際に買うまでに2、3か月は時間を必要とします。「アウェアネス」の次に「ファミリアリティー(親近)」、その商品を身近な存在と感じるかどうか。それから「オピニオン(意見)」その車が良い車だと思うかどうか。「コンシダレーション」実際に買う候補にいれるかどうか。そして最後に、「インテント(意図)」を持って実際に車を買いに行くという流れがあると考えられます。
 保険や投資信託などの金融商品の場合も、消費者が購入を決定するまでのプロセスが異なります。この類の商品は理性的判断が重要ですから、購入者自身がその商品のことを理解していない段階では購買を躊躇するケースがあり、必要だと思ってから購入するまでに、何年もの時間を要することもあります。

図
――では、商品によって「パーチェスファネル」の各段階も違うわけですね。

 そうです。自社商品がどういう購入プロセスかは、それぞれ違うわけです。そのプロセスを知った上で、その商品の購入プロセスの、どの段階で消費者が漏れているかを考えなくてはいけないのです。
 それから、商品のステージによっても違う。まったくの新カテゴリーの場合、天辺のアウェアネスで漏れている可能性もあります。そういう場合は、アウェアネスを獲得するための広告を考えなくてはいけません。ところがアウェアネスはある程度あるけれど、その先の段階で大きな漏れが生じているのなら、そちらを補強した方が効率がいいわけです。
 それで、そのための効率のいいメディアは何なのか、メディア選択にもニュートラルな視点が求められるようになったのです。今後は「パーチェスファネル」の各段階で効果効率の高いメディアが選ばれていくと思います。

――これまでそうした議論にならなかった理由は?

 分かっていたけれど、これまでのメディアの生態系では、マス以外の媒体をどう組み合わせても力不足と思われていたからです。しかし、インターネットが登場してからは、媒体の組み合わせが効果的にできるようになった。これまでは広告のクリエイティビティーは、その媒体の中で、どのような表現をするかというところで語られていましたが、今後はどの媒体を選択するかというところでもクリエイティビティーが求められてくると思います。
 それから、「パーチェスファネル」は、顧客の「獲得」と「維持」の2層に大きく分かれます。下の「維持」の部分は、たまたま買ってくれた一見のお客さんを固定客にするプロセスですが、リレーションシップマーケティングもネットを使うことで最近は効果的にできるようになっています。


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