特集

2009.1・2/vol.11-No.10・11


これからの広告コミュニケーション

 消費者のメディア接触行動や購買行動の変化に対応するように、広告が変わり始めている。厳しい経営環境の中で、マーケティング活動にも効果と効率が一層求められるようになった。
 いい広告を作ればモノが売れた時代から、消費者を動かす最適な広告コミュニケーションを考える時代へ。
 広告の力と信頼を取り戻す動きを追った。

ベストな解答を企業に提示する

 コピーライターの仲畑貴志氏が、電通との共同出資で新会社「株式会社ナカハタ」を設立したのは08年8月。プランニングブティックをスローガンにする会社だが、メンバーは、仲畑氏を含め、実績のある4人のコピーライターという一風変わった陣容だ。広告環境が大きく変わる中で目指しているものは何か。一石を投じる新たな一歩を踏み出した仲畑氏に聞いた。

――広告が大きく変わり始めたと言われていますが。

 今ちょっと経済がこんなだから、余計そんな話になるけど、ウェブが出てきたからと言って、広告は、そんなにドラスティックに変わらないですよ。というのは、広告は人の心を奪う作業でしょう。人は、同じところで泣き、同じところで笑うわけで、そこが変わらない限り、広告も変わらない。
 もちろん、少しずつですが、メディアの栄枯盛衰はあります。でも、ウェブ関係の本でさえ、出版した時にはみんな新聞で広告している。それがウェブだけで完結しないのは、全部のメディアが必要だからです。ウェブができたからラジオ番組の表現が変わるなんてことはあり得ないし、各メディアには、それぞれの機能があり、それぞれの効果があることは変わらないんですよ。

これからの新聞広告の役割

――新聞広告でいうと、それはどういう点ですか。

 マス媒体でやる広告はみんなが見る。お父さんの会社の広告が評判だったら、家族だってうれしいし、逆に「お父さんの会社の広告、サイテー」だったら、落ち込むじゃないですか。そういうモラルアップの役割はマス広告が得意なんです。特に新聞広告は、インナーに対する影響を無視できない。社長訓示や会社の方針を社内文書で伝えてもなかなか浸透しないけど、新聞広告で言っていると、世の中にも言っているわけだから、受け止め方が違うんですね。

――新聞の影響力については、どう思いますか。

 ありますよ。ただ、大きな反響が得られるかは中身次第というところもあるんです。僕も新聞で「仲畑流万能川柳」というコーナーをやっているんですが、それほど大きくないスペースなのに月1万通来るんです。ネットのブログが注目されていますが、今でも新聞コラムとのクオリティーの差というのは歴然とあるわけじゃないですか。それに磨きをかけるのも、これから新聞が進むべき方向の一つだと思いますね。

――最近は、そういうブログを広告に利用するということも増えていますね。

 確かに、今は口コミやブログを利用するという手法が広告ではやっています。でも、そういったものには個人の思いやつぶやきがあって、みんながその個人に信頼を置いて価値を見いだすわけです。だから、広告として利用しようとすると、とたんに、もう価値が低下するんです。これまでの広告も仕組みはバレてきたけれども、その上で広告に情報価値や人を引きつけるさまざまな価値を付け加えて、何とか乗り切ってきたんです。だから、新しい手法がダメになっても、また、必ず次が生まれる。そういう歴史だから、広告っていうのは。

なぜ、電通と組んだのか

――そういう広告状況の中で、電通と共同で仲畑さんが新会社を作った。その理由というのは何ですか。

 シンプルに言うと、市場環境や企業だけでなく電通も変わってきたからです。
 まず、電通の機構が変わった。広告会社の中心は、メディアと営業で、クリエイティブはそのサポート機関というポジションだったんです。ところが、最近はクリエイティブの売り上げが雑誌だけでなく、新聞の扱い高も超すようになって、期待値が上がってきた。クリエイティブを価値ある商品として位置づけ、本部に格上げしたんですね。要するに、電通のクリエイティブに対する認識が変わった。それが、共同出資で会社を作った一つ目の大きな理由です。
 もう一つは、これまでスタッフの助けはありましたが、基本的には僕一人で戦ってきたんですよ。メディアも、営業も、マーケティングのサポートもなしに一人でやってきた。
 これまでは自分の直感と表現だけで何とか乗り切って、その結果も幸いうまく行った。でも、それだけでは十分ではない状況が出てきた。もう少し深く企業の情報を持って考えたい。
 電通というのはさすがスケールメリットを持っている。いい人材がいる。そういう人たちの持っているスキルと情報の協力があれば、答えに至るまでがショートカットできるし、広告を通しての“けんか”もやりやすくなる。例えば、広告表現の整合性を検証するにも、マーケターや営業の異論に触れることができるんです。

――異論というのは、どういうことですか。

 一人でやっていた時も、自分で作った広告について、その目的やターゲット、広告表現の正当性などあらゆる角度から、どんな違う見方が成り立つか自己検証していたんです。なぜこの広告表現がいいか、またその表現に対する異論に対してちゃんと答えられるかと。でも、それはどこまで行っても自分一人の判断なんですよ。
 今度の会社では、初めから目の前に異論を言う人たちがいる。ターゲットにしろ、商品のポジショニングにしろ、いろいろな分野に人がいて、僕が何か言うと、ものすごいスピードで異論を返してきてくれる。そういうよさがあるんです。
 もう一つ付け加えると、最近は広告が企業の中でも宣伝部など一部署の仕事ではなくなった。誰もが納得しないと成立しなくなっているんです。それを説得するためにも、マーケティングの力だったり、いろんな視点と発想が必要になってきたということもあります。

その企業にとっていいことを

――具体的には、どのようなやり方を考えていますか。

 今まではオリエンテーションを受けて、いきなり広告表現を考える作業に入っていけたけれど、それだと埒が明かない状況が出てきたんですよ。いいコピーを書くだけでは、商品が動かない状況になってきた。
 以前は、いいコピーを書けば、それで商品が売れたんです。今はその前に、「その企業にとっていいこととは何か」を考え尽くしたところから出発しないと、根本的な解決にならなくなっているんです。

――その結果、ベストの判断が広告ではないこともあり得るということですか。

 そうですね、たとえばチラシだけで十分勝てるとすれば、そういう提案をするでしょう。最初は、なかなか理解されないかもしれないけれど、この会社を、そういう戦略も含めた企画まで踏み込めるような「考えを売る会社」にしたいんですね。
 商品の色の修正をお願いすることもありました。これまでも、広告屋が商品開発にかかわることはやってきたんですが、その企業にプラスすることをどんどん提案したいのです。

――広告クリエイターが商品開発にかかわるようになった理由はどこにあるのでしょう。

 今はどこの企業も長期計画が成り立たなくなっています。朝令暮改はあたりまえで、常に市場の変化に合わせて考えていかなければいけない時代になった。消費者目線の広告屋が商品開発にも携わるようになったのは、そういう理由がありますね。
 この会社も、クライアントにとっていいことは何かから考えて、その結果が商品開発なら、それを提案することもあります。また商品のライフサイクルも、クライアントが「20年売りたい」と言ったら、「それならココを改善しましょう」ということも当然出てくる。
 これまでの広告で、なぜ、そういう長期にわたる提案ができにくかったかと言うと、1年ごとの競合だったからです。広告キャンペーンも1クール、3か月という短い期間を基本にしていた。だから、この会社では先につながる提案もしていきたいと思っているんです。
 これまで仲畑広告制作所を30年近くやってきましたが、いったんプレゼンで勝ったら全部その後は20年、30年とやっていた。例えば、TOTOとは6人の社長と付き合わせてもらいました。でも、普通は1年やって競合でしょう。赤ちゃんを1年ごとに違う親が育てたらどんな子になっちゃうんだよ、ということなんです。


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