マーケティングの新レシピ

2009.1・2/vol.11-No.10・11


今年の漢字はなんでしょうか?

 激動のまま、新しい年を迎えることとなった。昨年秋の金融危機からの経済不安は、消費から雇用に至るまで、想像以上のスピードで多方面にインパクトを与えた。
 日本漢字能力検定協会から12月に発表された「今年の漢字」は「変」であった。激動の2008年を象徴する一文字だったと思うが、今年になっても不安はやまない。
 この、「今年の漢字」というのは1995年に始まったのだが、ズラリと並べてみると、世相が見えてきて興味深い。
 ただ残念なことに、全体として決して明るいとはいえない。第1回が「震」であったことは、その後に続く激動を予見したかのように思える。
 そして、その背景を見ていくと日本や世界をとりまく構造的な問題も垣間見えてくるのではないだろうか。

連鎖する不安

 まず全体を覆うのは、不安の連鎖である。経済的なパニックから、食品の安全や環境問題にいたるまで、「どうなってしまうのだろう」という不安な気持ちが広がっている。
 11月号では「悩みや不安」を感じる人が増え続けている調査結果を紹介したが、こうして漢字を並べると「不安な時代」を生きていることを改めて実感する。
 こうした不安の原因には天災や病原菌など、どうしても避けがたいものもあった。
 しかし、問題だと思うのは、人為的な災いが目立ってきていることである。
 極めつけは一昨年の「偽」であろう。にんべんのついている漢字は二度目であるが、モラルの低下を実感した人が多かったのであろう。
 建設から食品、さらには年金問題にいたるまで「何が本物か」信じられなくなって、その心理が不安をさらに拡大させる。
 この連鎖を止めるには、どうすればいいのか? 単純ではあるが公機関や企業が、情報をオープンにして、将来の見通しを正直に語ることが唯一の道であろう。
 一方で、比較的明るいイメージの漢字は「金」「愛」などであろうか。他の年も含めて、起きた出来事を眺めると、比較的明るい話題はスポーツやイベント、皇室関連であることがわかる。
 つまり、こうしたニュースは国民の心理にも一定のプラス影響を与えているのであろう。
 日本人は経済や社会の不安の拡大に怯えながらも、スポーツ選手の活躍などで留飲を下げて、ストレスを解消している。ちょっと刹那的だが、そうした近年の世相が見えてくるようだ。

「ポジティブな漢字」を考える

 では、この漢字を見ながら、何かプラスに考えることはできないだろうか?
 ここでの発想はきわめてシンプルである。いままでの漢字を眺めながら「ポジティブな漢字」を考えたり、「ポジティブな意味合い」を探し出すのだ。それが日本人のニーズのはずである。
 たとえば、「偽」の反対は「真」である。由来のハッキリした食品は、信頼度を上げて人気を集めている。食品だけではない。情報公開を早めにおこなった企業は、その後の信頼回復が早いことは実証済みだ。「誠」も、また心に留めておくべき漢字である。
 「命」はどうだろうか。昨年は産科における問題も浮き彫りになった。命を落とされた方にはお気の毒であるが、そうした事件をきっかけに社会全体で医療の現状を見つめ直そうという空気も生まれてきた。「命を守る」というのは、医療関係だけではなく、実に多くの企業が担っている使命なのである。そこには、根源的な需要があるのではないだろうか。
 昨年は「倒」もまた増えた。しかし「倒」のあとには、「起」の機会もある。萎縮しないでアイデアを出し続ける姿勢のある企業には、きっと支持が集まるはずである。
 「帰」というのも、考えようによってはいい意味合いを持つ。経済が過去の水準になってしまうことはたしかに問題だ。けれども、経済成長の間に忘れてしまったものを取り戻そうという動きもある。
 景気が悪いと、会社員も早めに家に「帰る」ので、家庭で過ごす時間が長くなると言われる。そうした流れは、家族や地域社会との触れ合いの機会を増やすだろう。
 さて、08年の「変」はどうだろうか。
 「異変」が続いたという意味では、この字にはマイナスのベクトルが感じられる。しかし、「変」というのは、かならずしも悪い方向に行くとは限らない。
 金融危機に端を発した不況の根は深く思えるが、機会はどこかに眠っている。揮毫した清水寺の森貫主の言葉が印象的だ。
 「来年をよい年にするには、一人ひとりが変わっていくことが大切」
 時代が「変」である時にこそ、一人ひとりの主体性が強く求められる。変化の時代は知恵の使い時であることを心に刻んで、新年を走り出していきたいと思う。

「今年の世相」を表す漢字は…

  漢字 理由
1995年 阪神・淡路大震災発生。地下鉄サリン事件や金融機関等の崩壊による社会不安の拡大。
1996年 O157の集団食中毒の多発。税金や福祉を「食いもの」にした汚職事件の多発。BSEの発生。
1997年 企業の倒産や銀行の破綻。山一證券の廃業。サッカー日本代表がワールドカップ出場決定。
1998年 和歌山のカレー毒物混入事件、ダイオキシンや環境ホルモンなどが社会問題に。
1999年 20世紀末。東海村JCO臨界事故発生。世も末と実感。翌年への「末広がり」の期待を込めて。
2000年 シドニー五輪で、田村亮子、高橋尚子が金メダル。金大中と金正日による初の南北首脳会談。
2001年 アメリカ同時多発テロ事件発生。対テロ戦争。アメリカのアフガニスタン侵攻が始まる。
2002年 北朝鮮に拉致された日本人が帰国。日本経済がバブル期以前の水準に。リバイバルヒット。
2003年 イラク戦争の勃発。「虎の尾を踏む」ような自衛隊イラク派遣。タイガースがリーグ優勝。
2004年 新潟県中越地震発生。台風23号による被害。美浜原発の事故や三菱リコール隠し。
2005年 愛・地球博の開催。紀宮清子内親王と黒田慶樹氏が結婚。卓球の福原愛の中国での活躍。
2006年 悠仁親王の誕生。小中学生の自殺多発。臓器移植事件、医師不足など命の不安。
2007年 食品表示偽装が次々と表面化。年金記録問題の発覚。防衛省の汚職問題の発覚。
2008年 日本の首相交代。アメリカ大統領選で「change」を掲げたオバマ氏が勝利。世界的な金融情勢の変動。
財団法人 日本漢字能力検定協会(「理由」は同協会資料に基づき筆者作成)
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