特集

2008.11/vol.11-No.8


本を売るための視点

特集主義に徹して好調を続けるCREA

 文藝春秋が発行する唯一の女性誌CREA(クレア)が、ここ数か月完売を続けている。その編集長を務めているのが井上敬子氏だ。インターネットの普及で苦戦する雑誌の中で、読者に支持される雑誌はどのように作られているのだろうか。

――井上編集長がCREAにかかわるようになったのは、いつからですか。

 編集長になったのは05年4月からですが、スタッフとしては、97年からですね。CREA自体は1989年の創刊で、今年の12月号で20年目に入ります。

――雑誌はこの10年売れ行きが落ちていると言われていますが、CREAは好調ですね。

 中には元気な雑誌もあるということでしょうが、雑誌全体の売れ行きが落ちているのは、やはりインターネットの影響が大きいと思います。
 もう一つは、雑誌業界自身の問題で、もうかりそうな雑誌があると、みんなそっちの方向に行ってしまって、結果的に同じような雑誌が多くなってしまっている。自分で自分の首を絞めているところもあると思いますね。

「欲張り女」をターゲットに

――ネットと差別化した雑誌作りというのは、意識されているのでしょうか。

 人には物質的な欲求と精神的な欲求とがあると思うのですが、物質的な欲求を満たすためだけだったら、最近はネットで済んでしまうところがあります。それこそ検索すればモノの情報は膨大に出てきますし、すぐに買うこともできる。
 これまでの女性誌の多くは、ファッションやグッズの紹介が中心で、そういう物質的な欲求に応えるものが多かったと思うのです。その一方で、数は少ないですが、婦人公論や日経ウーマンなど精神的な欲求を満たすための女性誌もある。いずれにしても、そのどちらかに偏っていたと思うんです。
 その両方の欲求に応えたいというのが、CREAの編集方針です。「『欲張り女』が美しい!」というのが、キャッチコピーなのですが、物質的欲求と精神的欲求の両方の欲求を満たすという意味での「欲張り」です。
 創刊のときのキャッチコピーは「美しき野次馬たちへ」というもので、知的好奇心旺盛な女性に向けて創刊したのですが、当初は、政治や性の問題を取り扱ったり、どちらかというと精神的な面に力点が置かれていました。読者の評価も高く、部数も出ていたのですが、今後を見すえて、10年前に判型やCREAのロゴも変え、今の編集方針に変えたんです。物質的な欲求にも応える情報を提供するようになったことで、広告とも結びつきやすくなりました。
 この10年はキャッチコピーを特に設けていなかったのですが、創刊20年目を機に改めてターゲットを言葉にして明確に設定しようということで「欲張り女」のキャッチコピーをつくったのです。
 ですから、美容やファッションも取り上げれば、映画も、旅行も、結婚も、妊娠・出産も、仕事も取り上げる。人生自体に貪欲な女性に向けて、女性のライフスタイルに関するさまざまな情報を提供する雑誌がCREAです。

保存版を目指した誌面

――CREAは、どういう層をターゲットにしているのでしょうか。

 一応30歳前後をメーンのターゲットに設定しているのですが、特集によって年齢はかなり下にブレることもあれば、上にブレることもあります。ただ、なるべくCREAのターゲット像である「欲張り女」からずれないようには意識して作っています。

――CREAの特徴は、その特集にあると言われていますね。毎号100ページを超える特集を組んでいる。

 そうですね。ただ、ここ数年、似たような特集をやることが多くてマンネリになってきたという反省もあって、昨年から新しい特集にチャレンジしています。「バッグ」「おけいこ」「贈り物」も昨年初めて特集を組んだのですが、読者にも好意的に受け止められ、誌面も活性化したと思います。

――特集中心に雑誌を作られている理由というのは?

 それぞれの号が保存版になればということです。雑誌というと読み捨てられるイメージがありますが、CREAの場合は10年前の号も取っておいてくれる読者がかなりいます。「特集主義」というのは創刊以来の方針でもあるんですが、ネットとの差別化という意味も最近は持ち始めたと思っています。

――しかし、毎号100ページの特集を作るのは大変な作業ではないですか。

 結構疲弊しますね(笑)。しかも、最近はこれまでやったことのない特集にチャレンジしていますからなおさらです。これだけボリュームのある特集は、ほかの女性誌ではあまりやらないと思いますが。

――先ほど特集によって読者がブレると言われましたが。

 例えば一昨年までは年に1回、猫特集、犬特集があったんです。非常に人気のある特集だったのですが、読者層が小学生から高齢の方まで非常に幅広くなってしまうんですね。そういう特集号は部数は出るのですが、「欲張り女」というターゲットからは離れてしまう。ですから、今年から読者がブレる人気のある特集については、CREA本誌から外して、ムックの臨時増刊号で出そうということにしたんです。その方が雑誌としてのイメージがわかりやすくなると思っています。

――「欲張り女」にふさわしい特集というのは?

 精神的充足感を求める「欲張り女」という意味では、最近では、9月号の読書特集がそうですね。発売1週間で完売になってしまいました。
 最初は歌手の福山雅治さんを表紙に使った効果もあったかと思ったのですが、読者からのはがきを見ると、読書特集だから買った人たちや、東野圭吾さん、宮部みゆきさん、桜庭一樹さん、伊坂幸太郎さんといった作家が載っているから買った人たちが非常に多かったんです。文芸の出版社だからということもあって、普段はあまりメディアに出ない作家の人たちがインタビューや対談に出てくれた。それが、ここまで売れた理由の一つだと思います。活字離れと言われていますが、読まれている本は本当に読まれている。“この作家の本は出たら必ず買う”という人たちが相当のボリュームでいることも実感した特集でしたね。
 「贈り物バイブル」の特集も、昨年、今年と連続して完売しています。好みがわかっている彼や夫ならそれほど悩みませんが、例えば、転勤する上司で自分のお父さんぐらいの世代の人へのプレゼントや、自分のセンスが問われる仕事先へのちょっとした手土産は、結構頭を悩ますという人が多いんですね。また、贈答にまつわる作法やマナー、ちょっとした贈り物のコツをまとめたブックインブックを付けたことも、好評の要因だったと思います。

11月号「30代で母になる」 10月号「これさえあれば、肌は必ずきれいになる」 9月号「読書の快楽!」

編集姿勢が情報の信頼を生む

――単なるモノの情報提供ではないところに雑誌の存在価値がある?

 ネットとの差別化で言えば、その情報の信頼性もあると思います。最近はネットの情報にもきちんと編集されているものはありますが、やはり信頼性に欠けるところがあります。
 例えば、CREAには創刊以来続いている「コスメチャット」というコーナーがあります。美容ジャーナリストの司会で、読者が化粧品の新製品を試して本音で語り合う覆面座談会を20年間毎月続けています。厳しい評価や辛口の意見も出てきますが、それがCREAのコスメ情報の信頼につながっている。そういう編集姿勢は今後も大切にしていきたいですね。
 最近は、タイアップ広告が多くなっていますが、その商品を紹介するときにも、読者にそっぽを向かれる切り口と向かれない切り口がある。そこで接点を見つけてタイアップ広告をつくるのが理想だと思います。
 もう一つは、たくさんある情報の中から、自分に合った商品を選ぶための情報を提供することも雑誌の役割だと思います。今年で3回目になるのですが、美容特集のときに、自分に合った色のファンデーションがどのブランドの何番かがわかる「肌色チャート」を付けている。これは特許ものだと思っているんですが(笑)、色のチェックに大変な手間ひまがかかるんですね。200以上のファンデーションを実際に肌につけて100の肌色に分類している。読者が欲している情報を労を惜しまず提供することも、雑誌の価値につながるのです。
 だから入稿日が近づくと、編集部員はなかなか帰れない日が続くことも多いですけどね(笑)。

過去1年のCREAの特集

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