特集

2008.10/vol.11-No.7


北京オリンピックとJOCパートナーの取り組み

 8月8日から24日の17日間にわたって行われた北京オリンピック。この世界規模のスポーツ大会は、企業にとって絶好のマーケティングチャンスにもなっている。選手強化とオリンピックムーブメント推進の目的で行っているJOC(日本オリンピック委員会)のマーケティング活動を今回のオリンピックで各協賛企業はどう生かしたのだろうか。

オフィシャルパートナーの意義

 現在のオリンピックは企業の協賛で支えられている。基本的な協賛メリットとしては、JOCマークや呼称、選手肖像の使用権といった無形の権利で作られているのが、JOCのオフィシャルパートナーシッププログラムだ。今回の北京オリンピックで企業は、それをどう活用したのか。電通スポーツ事業局の山本知幸氏に聞いた。

JOC
――北京オリンピックを振り返って、いかがでしたか。

 率直に言って、立ち上がりのチベット問題で一時は不安になりましたが、大会自体はIOC(国際オリンピック委員会)のロゲ会長が言っていたように「特別な大会」で、開会式もそうですが、あれだけお金と人をかけて行う大会というのは今後なかなか現れないと思います。また、日本選手も金メダルは10個まではいきませんでしたが、柔道の内柴正人選手から始まって、最後の方では上野由岐子選手が活躍したソフトボールの金メダルもあった。全体的に見るとテレビ視聴率が前回のアテネと比べても高かったことから言っても、結果的には非常に注目されたオリンピックだったのではないでしょうか。

――今回からJOCジャパンハウスも一般公開したということですが。

 ジャパンハウスというのは、オリンピック期間中のJOC現地本部施設です。これまではオリンピックや報道関係者のみが入れたのですが、今回は施設の規模を拡大して、一般の人も入れるようにしたものです。
 オリンピックの現地観戦では、意外と日本人選手の動向がわからないんですね。それで、今回は日本に近い北京で開催されるということもあり、一般開放されました。メダルを獲得したばかりの選手へのインタビューやトークショーを行った会場には、JOCパートナーのボードも掲示されました。読売新聞のブースには、連日、オリンピックの記事が張り出され、盛況でしたね。ジャパンハウスの中で日本の協賛企業がPR活動できるのも今回が初めてでした。

二つの制度改革

――JOCオフィシャルパートナーの制度ですが、前回のアテネと変わった点は何ですか。

 一つは選手の肖像権制度が変わったこと、もう一つはプログラムに各競技団体が制度として組み込まれたことです。

――選手の肖像権を国のオリンピック委員会が持っているというのは、日本の特色ですね。

 JOCは、現在の「オフィシャルパートナーシッププログラム」をスタートさせる前、「がんばれ!ニッポン」キャンペーンの時から選手の肖像権セールスをメーンにしています。諸外国のオリンピック委員会のマーケティングとの最も大きな違いはこの点で、選手の肖像権を組織的にマーケティングに活用しているのは今でも日本だけです。  前回のアテネオリンピックまでは、各競技団体に所属する選手の肖像権をJOCが一括管理する方式だったのですが、05年以降は、人気・実績・知名度の高いアスリートの肖像権をJOCが各競技団体から委託してもらう形に変わったんですね。
 以前の一括管理する方式には、各競技団体が主催する大会に出場する選手がすべて含まれていました。競技人口の多い団体では何十万人もの選手が登録している。しかし、オフィシャルパートナーが実際に使うのは知名度のある選手です。それは実際的でないだろうということで、国際大会で入賞以上を狙えるJOCの強化指定選手クラスの選手の肖像権を各競技団体から委託してもらうことにしたんですね。これが「パートナーアスリート」で約200人います。さらにその中で非常に知名度や人気度が高い選手を「シンボルアスリート」と呼び、年によって人数は変わりますが、これが10人前後いる。各競技団体には選手の肖像権を委託してもらう代わりに、その対価も明確にした。また、JOCもアスリートと契約書を交わして、肖像権を委託された上でパートナー企業と契約をするという形に変わったんですね。
 もちろん、選手はパートナーアスリートやシンボルアスリートにならないという選択も当然できます。ただ、パートナー企業の協賛金は、各競技団体が次世代の選手を育成する資金にもなる。その辺をどう考えるかは今後の課題ですね。

――各競技団体が制度に組み込まれたというのは?

 各競技団体の大会にもJOCパートナーの協賛がつくような仕組みを作ったということです。まず、各競技団体が開催する大会のスポンサーシップ権をJOCに開放します。パートナー企業は、スポンサーシップ権を行使できる権利を合計8ポイント持っていて、そのポイントを使うことによって大会スポンサーになれるのです。例えば、ビーチバレーなら2ポイントというように、大会ごとにポイントが付けられているんですね。
 このポイントは、JOCパートナーの協賛金の中に含まれていて、各競技団体にはポイントに見合った対価が支払われる。各競技団体はその資金を大会や選手強化のための資金として使えるわけです。
 メニューの中には水泳や体操、バトミントンなど人気種目の大会もあれば、北京オリンピックでは注目されましたが、それまであまり注目されなかったフェンシングの大会の権利もあります。パートナー企業から見れば、これからの人気競技を見つける機会になりますし、各競技団体も大会のスポンサーを自力で見つけるのはなかなかむずかしいですから、両者にとってメリットがある。JOCパートナーからも、各競技団体からも評価された制度改革だったと思います。

明確になってきた協賛理由

――今回の北京オリンピックのJOCオフィシャルパートナーの数ですが。

 JOCの「オフィシャルパートナーシッププログラム」としては、冬のトリノと北京オリンピックがセットになっているのですが、最終的には28社になりました。前回のソルトレークシティー、アテネ大会は19社でした。一業種一社の条件があるにもかかわらず、かなり増えましたね。
 その要因は、前回のアテネオリンピックで日本選手が活躍して非常に盛り上がったということもありますが、99年の「オフィシャルパートナーシッププログラム」の導入で、オリンピック日本代表のマーケティング的な価値が浸透してきたこともあると思います。

――JOCパートナーの協賛理由は、どのようなものが多いのでしょうか。

 協賛する理由は各社それぞれだと思います。ただ、以前はぼんやりしたものだった協賛理由が、最近はかなり明確になってきた気がしますね。
 例えば、日清オイリオは、商品提供などを通じて代表選手団の健康管理を支援しました。また、卓球の福原愛選手の食事・栄養サポートを行うとともに、「Beautiful ENERGY アスリートと、日本の食卓を応援します」というスローガンを掲げて、中国語で「がんばれ」を意味する「加油!キャンペーン」を実施しました。
 松下電器(現・パナソニック)も、国内では生活家電の「ナショナル」ブランドでJOCパートナーになっています。「『からだ家電』で、健康ニッポン。」をスローガンに、空気清浄機や乗馬フィットネス機器「JOBA(ジョーバ)」などを柔道の谷亮子選手をはじめ、オリンピック出場選手などを起用して広告展開しました。これも、健康と結びつけたキャンペーンです。
 また、同社はこの10月の社名変更を発表していましたが、今大会でも「パナソニック」としてIOCのAV機器カテゴリーのTOPパートナーになっています。日本企業で唯一のTOPパートナーとして、過去最大となる機器を納入し、積極的なマーケティング活動を展開しましたね。

3月31日 朝刊 2007年 11月10日 大阪本社版朝刊 8月8日 朝刊

さまざまな協賛の形

――JOCとの共同事業という形も出てきたと聞いていますが。

 JOCパートナーとの共同事業は前回のアテネ、ソルトレークシティー大会から顕在化してきたのですが、その趣旨がオリンピックムーブメントを推進するものであったら、JOCも積極的にやっていこうという方針なんですね。
 保険会社のAIUは、JOCとの共同事業としてオリンピック日本代表を応援するコミュニティーサイト「がんばれ!ニッポン!プロジェクト」を立ち上げました。AIUは外資系企業ですが、日本でのオリンピックの価値を理解していると思いますね。JOCをサポートする形で応援サイトを立ち上げるという非常にうまいアプローチだったと思います。
 また、読売新聞も東京メトロ駅張り広告スペースで北京オリンピックの日本人選手の活躍を伝える紙面を連日掲示しましたが、これも新聞社の特徴を生かしたJOCとの共同事業だったと思います。
8月8日 朝刊  また、オリンピック日本代表を直接支援するという協賛の形は以前からあります。JALや全日空はオリンピック日本代表を、佐川急便は選手の荷物を運ぶことに非常にプライドを持っています。その最近の例として注目しているのが、総合人材サービスのインテリジェンスで、JOCと組んで選手が引退した後のセカンドキャリア形成に貢献したいということでJOCパートナーになっています。その試みはまだ具体的な形として表に出てきていませんが、大事な取り組みだと思います。
 こう見てくると、JOCパートナーのオリンピック日本代表とのかかわりも、さまざまであることがわかります。オフィシャルパートナーの権利を使ってキャンペーンを行い、それによって広告効果を上げたり、売り上げに結びつけるという部分ももちろんありますが、それだけでなく、CSRやスポーツを通した社会貢献という意味合いも含めてJOCパートナーになったり、キャンペーンを展開する企業が出てきた。 JOCパートナーの権利を立体的に使うようになったというのが、最近の傾向だと思いますね。
 オリンピック日本代表のオフィシャルスポンサーになることによって、企業に対する好意度や信用度が間違いなく上がることは、過去の大会後の調査でも確かめられています。ただ、他のスポーツ競技と違ってオリンピック会場には広告看板が一切出せないんですね。JOCパートナーの権利は、基本的には無形のものなんです。それをどう具体的なキャンペーンとして展開し、企業の財産とするかは、各企業の工夫にかかっていると思いますし、我々もJOCと共に努力を続けていこうと思っています。

8月26日 朝刊

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