特集

2008.9/vol.11-No.6


環境技術をどう伝えるか

 電気自動車、エコ住宅、電球形蛍光ランプ……環境技術を駆使した商品が世の中に登場し始めている。CO2削減は社会全体で取り組むべき課題だが、それ自体は消費者に直接的な利益をもたらすものではない。環境技術商品の普及のためには何が必要なのか。コミュニケーションの方向性を、広告だけではなく開発のあり方からも探ってみた。

電気自動車の時代へ「i MiEV」

 次世代電気自動車の発売が目前に迫っている。来年、09年の国内市場投入を目指しているのが三菱自動車だ。しかし、水素ステーション網が必要な燃料電池車ほどではないにしろ、高速充電器の設置やコストの問題など、本格的な普及には社会的理解を深める必要もある。そのコミュニケーション戦略を中心に三菱自動車商品戦略本部の堀敬介広告部長に聞いた。

――「i MiEV(アイ ミーブ)」は量産化を前提にした電気自動車ですが、その特徴は?

 機会があったらぜひ、乗ってみてください。加速のよさには驚きますよ。当たり前ですが、家電製品はスイッチを入れるとすぐ動きます。それと同じで、電気自動車のモーターも最初から最大トルクを発揮するのです。アクセルを踏んだらそのままスーッと加速する。「i MiEV」は軽自動車「i(アイ)」をベースにした車ですが、そのターボ車よりも加速はいいですね。
 また、普通はオートマチック車でも多少の変速ショックがあるのですが、電気自動車はそれがまったくないのです。だから、滑るような感じで走る。乗り物酔いもほとんどありません。
 それから電池が床下に敷き詰めてありますから、重心が低く、車体のロール、横揺れが少ないんです。パイロンスラロームといって円錐形のパイロンを置いたコースで走行テストをやるのですが、そのタイムも当然ガソリン車よりも速いですね。

i MiEV
――そういう電気自動車が、発売一歩手前まで来た理由は何でしょうか。

充電口  当社は電気自動車に70年代から取り組んでいて、技術的な問題はクリアしていました。実用化の一番大きなネックは電池の問題だったんです。ところが最近、リチウムイオン電池が出てきて、それが飛躍的な進歩を遂げたということに尽きます。
 「i MiEV」も、昨年まではフル充電で航続距離は130キロメートルだったのですが、現在は160キロメートルまで伸びています。遠出をしないで日常走る距離は1日平均40キロメートルと言われていますから、実用的には十分な航続距離に達していると思います。
 充電は家庭用電源でも行え、100Vで14時間、200Vで7時間でできます。家庭の100Vで使う場合も、2、3割は電気が残っている状態で充電するのがほとんどでしょうから、夜充電すれば実用上は問題ないと思っています。
 しかも、ガソリン代に比べ、同じ距離を走行するための電気代は、昼間電力で3分の1、夜間電力では9分の1です。

電気自動車に対する理解から

――従来のガソリン車に比べて性能が飛躍的に向上した電気自動車を、どのように広告しようと考えているのでしょうか。

 「i MiEV」は法人向けは09年、一般向けは10年の発売を予定していますから、少し時間があります。今は性能に踏み込む前に、電気自動車がなぜ環境にいい車なのかというところから知ってもらう段階だと思っています。
 電気自動車は走行時のCO2排出量はゼロです。もちろん、火力発電の場合は電気を作る過程でCO2が出ますが、風力や太陽光発電など自然のエネルギーを使う場合はまったくのゼロ・エミッション・ビークルになるわけです。「i MiEV」のCO2排出量は、現在の火力発電量を考慮しても同クラスのガソリン車のわずか3割程度です。
 これまで「環境にいい車はハイブリッド」というイメージが定着していましたが、電気自動車の持つポテンシャルの高さを、まず理解してもらうことが大事だと思っています。と言っても、ハイブリッド車と競合するということではなく、電気自動車に対する理解と三菱自動車が環境に本当に配慮した自動車作りをしていることを知ってもらうことが目的です。

――「i MiEV」を使った広告を07年6月からスタートしていますね。

 テレビCMとしては「宣言編」「風車編」「ランナー編」と、これまで3本をオンエアしていますが、この広告がむずかしいのは、発売日程が明確に決まった通常の新車発売広告とは違うことです。
 昨年6月の段階では、実は「i MiEV」を市販することは確定していませんでした。しかし、電池技術が急速に進歩して航続距離も伸び、十分な実用性が出てきた。ビジネスとしてもいけるという判断があったのです。
 この広告にはもう一つの意図があります。それは、行政を含めて電気自動車が普及できるインフラをみんなで考えてほしいということです。電気自動車に対する理解を深めてもらうという広告の目的には、そういう意図もあります。
 確かに「i MiEV」は家庭用電源で充電できますが、街中でバッテリーが切れる心配もある。ショッピングセンターやコンビニ、高速道路のサービスエリア、コインパーキングなどに急速充電器が整備されれば、安心して乗ってもらえます。高速充電器を使えば30分で80%の充電ができるんですね。また、そのインフラは、「i MiEV」だけでなく、これから出てくる電気自動車のインフラにもなります。もう一つは、車両価格の問題です。国や自治体の補助もありますが、リチウムイオン電池はまだ非常に値段が高いですからガソリン車並みというわけにはいかないんですね。
 今展開している広告は、そういう社会的な理解を求める広報的な役割も担っています。

7月6日 朝刊
――「i MiEV」の価格は、どのくらいになるのでしょうか。

 まだ、まったく未定ですね。ただ、ユーザー調査ではガソリン車の1.5倍程度なら買うという人が多いですね。

――「i MiEV」の実用試験を全国の電力会社と提携して行っていますが、それもインフラ整備の一環ですか。

 電力会社とコラボレーションしながら電気自動車を開発していこうということです。現在オンエアしている「ランナー編」のテレビCMには、東京電力の人に出演していただいています。また、神奈川県警のパトカー、環境省の公用車としても試験導入してもらっています。そういう官民の協力関係を今広げているところですね。

地球環境と向き合う車作り

――今年7月の新聞広告は、テレビCMとは役割が違う?

 これは、テレビCMを一歩進めて、日本だけでなく世界も視野に入れて我々の車作りを表明した宣言です。信頼回復と収益改善に取り組み、会社としてはこれまで非常に苦しい時期を耐えてきました。再生計画の下に、この3年間で何とか黒字化も達成しました。この新聞広告は、まず、これからの3年間もまたがんばろうという社員をはじめとするインナーへのメッセージであり、同時に、これまで三菱自動車を支えてくれたお客様や株主に対しての約束、我々の決意の表明です。
 それが、この新聞広告で発表した「Drive@ earth(ドライブ・アット・アース)」という三菱自動車の新しい企業コミュニケーションワードです。地球環境に対してこれからの車はしっかり向き合って、地球と共生していかなければいけない。そういう気持ちをストレートにわかりやすく伝えられる言葉を社員からも公募しました。“Drive on the earth”が英語的表現ですが、インターネットの世界では、@の後ろはドメイン名を表します。地球をドメインに走る、あるいは生きていくという決意を込めて、今後、三菱自動車がグローバルに使っていくスローガンです。

自動車が変わる第一歩に

――クリーンディーゼルエンジンの開発も進んでいますね。今後は、電気自動車との2本立てで行くのでしょうか。

高速走行試験 ええ。ディーゼルはもともとCO2の排出量がガソリン車と比べて圧倒的に少ない。しかも、燃料の軽油はガソリンよりも安価です。問題は窒素酸化物と黒煙でした。クリーンディーゼルエンジンはそれを解決したんですね。来年には、まずヨーロッパでそのエンジンを搭載した大型SUVを発売します。09年から国内では窒素酸化物と黒煙を規制した「ポスト新長期規制」が始まりますが、世界で最も厳しいと言われるこの基準をもちろんクリアしています。
 電気自動車も、「i MiEV」はシングルモーターでリアの車輪を駆動する方式ですが、車輪それぞれにモーターを内蔵させる4輪駆動のインホイールモーターも07年の東京モーターショーに出展したコンセプトカー「i MiEV SPORT」に搭載し、走る喜びを付加した電気自動車の可能性を追求しています。
 地球環境のためは当然ですが、ガソリンの安定供給には限界がある。「i MiEV」が一般向けに発売される2010年が、自動車が変わる第一歩になると思います。


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