特集 2008.4/vol.11-No.1

企業広告は進化する
口コミのメカニズムを解明する
 消費者が変わる中で、より有効なマーケティングコミュニケーションのあり方を探る試みも行われている。口コミ発生のメカニズムからそれに取り組んでいるのが、電通関西支社の森岡慎司氏だ。WOM(口コミ)マーケティングの現状と、研究から見えてきた口コミを起こす法則について聞いた。

――WOMマーケティングは、今どういう状況にあるのでしょうか。
 WOMマーケティングも最近は認知が高まってきたと思いますね。私たちの部署は、口コミのメカニズムの解明というところに焦点をあてて研究しているのですが、「CGM」「WOM」という言葉も、2年前は説明しなければわかってもらえませんでした。そのころと比べると、ずいぶん状況は変わってきています。

――「スポンサー付きブログ」の問題というのは、相変わらずあるのでしょうか。

 アメリカは数年前から正常化に向けて積極的に取り組んでいますね。理由は非常に単純で、メール広告がスタートしたばかりのころにスパムメールが横行して、メール広告の芽を摘んでしまったという反省があるからです。次に出てきたWOMをつぶしてはいけないというので、広告主やサービスを提供する会社が集まって04年に設立したのが、WOMMA(ウォンマ:Word of Mouth Marketing Association)という協会です。
 すでにWOMマーケティングを実施する際の倫理規定やガイドラインも設けています。例えば、子どもがかかわる口コミプログラムの禁止や、男性なのに女性のふりをしてブログに商品について書くことの禁止、報酬をもらって書いている場合はオープンにするなどのルールが決められています。
 ただ、有力企業がWOMMAを脱退したり、加盟社が倫理規定を破ったりと少し雲行きが怪しくなってきています。また、ステルスマーケティングやアンダーグラウンドマーケティング(注)などと呼ばれる口コミ手法もしばしば行われていますね。

(注)WOMマーケティングを利用した手法の一つで、口コミによる宣伝効果をねらい、企業名を明かさず、第三者を装って街中やブログなどで商品やサービスを好意的に紹介する手法を言う。必ずしも違法ではないが、倫理的な問題が指摘されている。

――日本の場合はどうなのでしょう。
 日本でも「スポンサー付きブログ」は盛んです。ブログやSNSでカリスマ的な影響力を持っている人たちを「アルファブロガー」「インフルエンサー」と呼びますが、そういう人たちに情報やサンプルを渡して、記事を書いてもらうことを期待する方法です。このサービスをシステム化して、個人ブログを持っている人たちにあらかじめ会員登録してもらい、送られてきた商品情報の記事を自分のブログに書いて申告すれば掲載料を払うというところもあります。
 レストランや映画試写会のブログを書いていた女子大生のサイトが、NHKの「ニュースウォッチ9」に取り上げられた後、“炎上”したケースが06年末にありましたが、日本ではまだ業界全体でオーソライズされたルールができていないんですね。

スポンサー付きブログの効果

――電通は「スポンサー付きブログ」にどのように対応しているのですか。
 内々でWOMマーケティングのガイドラインを設けていて、インセンティブを消費者に与える場合はオープンにすることを原則にしています。タレントがブログで何かを推奨していれば、お金をもらっているかもしれないと推測できる。これは規制しなくていいと思うのですが、紛らわしいのは一般の消費者だけれど影響力のある人たちに金銭的インセンティブを渡して書かせることです。

――そういうブログの効果は、実際あるものなのでしょうか。

 結論から言うと、残念ながら「スポンサー付きブログ」単体では、口コミを広げるという意味ではほとんど効果がないことがわかってきていますね。
 電通では、インターネット上の口コミ情報をリアルタイムで分析する「電通バズリサーチVer.2.0(R)」を 06年12月から稼働して、企業にも提供しているのですが、これを使うと「スポンサー付きブログ」に効果があるかどうかが見えてきます。
 問題は、企業がいつ「スポンサー付きブログ」を実施したかを知ることですが、例えば、先ほどの掲載料がもらえるサービスに会員登録しておけば、そういう情報は入手できます。それをもとにネット上の書き込み件数の推移をバズリサーチで追っていくと、当然ブログの執筆依頼が始まった直後は書き込みは上がりますが、そのすぐ後に急落するんですね。
 口コミが実際に広がっていけば書き込み件数の山は落ちないはずですが、「スポンサー付きブログ」では、そうはならないのです。ただ、書き込まれたブログを見ている人はいるわけで、その人も何らかの影響を受けているはずですが、そこはまだ解明できていません。

バズリサーチとは

――バズリサーチは、どういうサイトを検索対象にしているのでしょうか。
 ブログや掲示板など20サイトが対象です。ただ、「mixi」などログインの必要なSNSは入っていません。SNS以外のCGMの主要サイトはほとんど入っていると思います。最大の特色は、「2ちゃんねる」も検索対象にしていることです。

――「2ちゃんねる」の影響は大きいですか。

 「2ちゃんねる」にネガティブなイメージを持っている人も多いと思いますが、真面目な板(スレッド)は非常に真面目なんですね。不真面目なものはものすごく不真面目ですが、全体としてはそれほど多くない。また、「2ちゃんねる」を加えないと、検索結果にあまり意味がない商品も結構あるのです。
 例えば、「ゲーム」の書き込み件数を「2ちゃんねる」とブログで比較すると、65%は「2ちゃんねる」で占められている。ですから、少なくとも「ゲーム」の場合は、ブログだけ見ていてもあまり意味がないということです。「ビール」の場合は、ブログの書き込みが8割ぐらいになりますが。

バズリサーチの検索対象となっている17のブログと「2ちゃんねる」の書き込み件数比(2008年4月7日〜13日の合計)

――肯定的な書き込みなのか、否定的な書き込みなのかも判断できる?

 ポジティブ、中立、ネガティブに分けて抽出できます。あくまでアルゴリズムで推定しているだけなので、複数のキーワードで比較したり、同一キーワードを期間を変えて比較する場合に有効な機能だと思いますね。また、言葉遣いから推計して男女比も出るようになっています。
 それから、ネットの書き込みがリアルタイムで見られることにもこだわりました。今は店頭のPOSだけでなく、原料調達から在庫、配送まで、サプライチェーンのほとんどがIT化されていますが、広告だけがIT化されていなかったからです。ただ、リアルタイムと言っても、結果が反映されるのは実際は1、2時間後です。サーバー上では約5分おきにデータを更新していますが、インデックスの処理などで多少のタイムラグが生じます。エントリーされた時間は秒単位まで表示されます。

――どういう使い方を想定しているのですか。

 本来的には、マーケティングに役立てようということです。例えば、新商品の開発や商品の改良、広告活動の評価といったことです。
 もう一つ、バズリサーチ開発の大きな背景としては、私たちの局の秋山隆平が提唱したAISAS理論の最後のS(Share)を測定する装置を作りたかったことがあります。情報共有、口コミを観測する装置を作りたかったということです。
 実際に稼働させてみてわかったのは、バズリサーチは、人の全身を調べるCTスキャンに近い役割を果たせるのではないかということです。
 今までのマーケティング活動の評価はサンプリングという手法で行われてきました。例えば、首都圏のテレビの視聴率は600世帯のデータが基本です。体の一部を調べて、それを全体の動向だと見なしていたのです。06年12月にバズリサーチが稼働してから収集した書き込みは20億件を超えていますが、ネットがリアルの映し鏡だとしたら、この詳細なデータを使ってマスに対する新たなアプローチができるのではないかと思っています。


自発的に書きたくなる環境作り


――口コミの特徴をどうとらえていますか。
 マーケティングコミュニケーション手段として、従来は広告とPRがありました。広告は企業発なので、金を出せばかなり自由に情報をコントロールできますし、当然、そこにはポジティブな情報しか出しません。PRは中立メディアが企業情報を独自の視点で取り上げるわけですが、企業側に非がない限り、ネガティブなことは書かれません。企業にとってネガティブな情報が基本的に出ないことが共通しています。ところが、消費者発の口コミが厄介なのは、企業がコントロールできないだけでなく、ネガティブな情報も混じっていることです。それが口コミの大きな特徴ですね。

――そういう口コミに、どうアプローチしようとしているのでしょうか。

 先ほど言ったようにインセンティブ型のプロモーションは、どうもうまくいかないことがわかってきました。そうだとするなら、消費者が自発的に書きたくなる環境をどう作っていくかのほうが重要だと思っています。そういうコミュニケーション方法を今、模索しているところです。
 実際うまくいったキャンペーンを後追いで調べると、なるほどと納得できるものはあります。ただ、それが私たちの会社で手がけたものでない限り、事前に仕組まれたものなのか、偶発的に起こったものなのかわかりません。
 しかし、バズリサーチなどを利用して成功事例を後追いで読み解いたり、そこから生まれた仮説を調査で検証することでいくつか法則は見えてきています。

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