特集 2008.4/vol.11-No.1

企業広告は進化する
企業の根源的な価値を伝える広告
 世の中に向けた情報発信によって、企業内部を活性化することを意識した企業広告を、クリエイターはどのような発想で作っているのだろうか。企業広告を数多く手がけるコピーライターの岩崎俊一氏に聞いた。


 ──岩崎さんはこれまで数々の企業広告を作られていますが、やはり商品を売るための広告とは考え方が違いますか。
 違うと思います。商品広告は、その商品を売るために、ほんとに、さまざま、あの手この手を考えなければいけない。確かに、どうやったらこの商品がヒットするかを考える面白さはありますが、誤解をおそれずに言えば目先のこととも言える。企業広告は、企業の根源的な価値を考えていくので、常に腹のすわった「腑に落ちる」仕事をしなければいけない。

 ──企業の根源的な価値というのは?
 当たり前の話ですが、企業は世の中の役に立つために存在しているわけです。人間社会を幸せにするために存在しているということです。製薬会社であれ、食品会社であれ、文具メーカーであれ、究極の目標は人間が、社会が幸せになることであり、それぞれ役割分担している。やっていることが違うだけで、「人の役に立つ」ということではみな同じです。
 それぞれの分野でやらなければいけないことは違うけれど、みな同じ目標に向かっていることに変わりはない。どの会社にも、自分たちの会社が社会のためにやらなければならないことがあり、世の中から期待されていることがある。そう考えていけば、企業広告を作ることは実は非常にシンプルです。企業によってまったく違うことをやっているわけではないんですね。

 ──B to B企業の場合も考え方は同じですか。
 B to B、B to Cという区別も、僕はしていません。B to Bの企業広告の場合は、当然、消費者ではなく相手企業を動かして契約に結びつける一助になることが求められます。しかし、企業の中の人たちも、またその相手先企業の人たちも同じ人間です。B to B企業の人たちがその分野では専門家だといっても、企業広告が人の心のひだに触れなければならないのは同じです。B to B企業の広告だから、その手法や言い方を変えるというやり方を、僕は信用しませんね。

言葉が心を一つにまとめる

 ──企業広告のターゲットについては、どう考えていますか。
 消費者に向けてか、社内の人に向けてのどちらかという質問だとしたら、もろともですよね。同じ人間というベースに立てば、企業広告のターゲットはすべての人になる。
 僕がコピーライターということもあるのかもしれませんが、企業広告を考えるときは、まず「言葉」から考え始めます。世の中の人が「そこに期待してみようじゃないか」と思い、従業員の人たちも「こういう気持ちでものをつくっていけばいいんだ」と思える、そういう言葉を見つけることから始めます。その言葉が出たあとに、新聞広告やテレビCMの企画を膨らませていきます。
 クライアントが僕らに期待しているのもそこだと思います。言葉には、さまざまな人の心を一つにまとめる力がある。言葉が本当にかけがえのない力になると信じているからクライアントは僕らに依頼してくるのだと思うし、僕らもそう信じて広告を作っています。

 ──まず、企業広告のスローガンから考えるということですか。
 スローガン、キャッチフレーズ、最近はタグラインと言ったりしますが、普通はそこから考え始めます。まず自分たちの会社が目指すべき方向は何だろうか、ここで世の中に言わなければならないことは何だろうか。その切り口を一番鮮やかに見せる部分が、スローガンだと思いますね。

会社を戦う集団に

 ──岩崎さんの作られたトンボ鉛筆の広告で言えば、「トンボが動いている。人が、何かを生み出している。」がスローガンに当たる?
 そうです。ただ、その言葉に行き着く前に当然のことながら、いま文具が置かれている状況を踏まえて、文具メーカーの根源的な価値はどこにあるのかを考えます。
 文具はITの波に押されて、やや影のうすいものになりがちですが、トンボ鉛筆のトップはなんとか自分たちの会社を活性化したいと思っている。企業のブランディングをもう一回やり直したいという相談を受けて会社を訪問したのですが、驚きました。社内の空気というか、雰囲気が優しいんですよ。ものすごくのんびりしていたんですね。
 厳しい今の世の中で、こんないい人たちばかりでいいんだろうかとちょっと心配になるぐらいだったんです。それで、ケンカするわけではないのですが、今の時代に対応するためにはファイティングポーズをきちんと取った集団にならないといけないと思ったんですね。
 そのとき一番大事な武器になるのは誇りです。自分たちはすごく大事な仕事をやっている、社会にとって大切な使命を担っているという誇りを持つことがパワーになる。文房具というのは、人間にしかできないクリエイティブな作業をするときに絶対にそばになくてはならないものです。
 僕たちも年間で鉛筆をどれだけ消費するかわかりません。原稿用紙と鉛筆で仕事をしているという実感を日ごろから持っています。そういう実感から生まれた言葉と言えるかもしれません。
 この場合の企業広告の重要な役割は、「あなたたち社員はこんなに重要な仕事をやっているんだ」ということを世間注視の中で言うことです。内々でそのことをどれだけ言われるより、世の中の人が見ているという晴れがましい状況の中で、自分たちの使命が語られる。その方が圧倒的に喜びは増すわけです。人前でほめられたら誰だってうれしい。そうすることによって、トンボ鉛筆の社員の人たちも誇りを持って戦える集団になれると思ったんですね。

トップの意志を伝える

 ──企業が長く存続したり、規模が拡大するにつれ、創業時の志が希薄になると言われますが、ミツカンのスローガン「やがて、いのちに変わるもの。」が生まれた時のいきさつを話してください。
 ミツカンは創業200年になんなんとする会社でした。はんぱじゃないですよね。
 折からの健康意識の高まりの中で、「お酢のミツカン」には順風が吹いていたはずです。でも、業績好調な時だからこそ、トップは不安を持ち、いまこそ足場をもう一度固める時だと考えた。
 この広告をつくる前から、数年がかりで、新しいビジョンづくりを、広告代理店のスタッフと進めていた。食品づくりの根底の心がまえから、安心安全の体制づくりまで、トップ自らが全国行脚して支社を説いてまわられたと聞いています。
 トップのお話を聞いて思ったのは、社内改革をただならぬ覚悟でやられていることです。それなら、言葉も思いっきりフルスイングしようと思った。それが、「やがて、いのちに変わるもの。」というスローガンです。
 13本の案を作ったのですが、僕としても一番採用してもらいたいと思っていたコピーがこれです。食品会社はふつう、万が一のことがあったらどうするんだということで、 「いのち」という言葉を回避してきたのですね。その言葉を入れたコピーを選ばれたのですから、いかにその時の覚悟がなみなみならぬものであったかがわかります。

組織の覚悟を愚直に伝える

 ──昨年10月に民営化した日本郵政グループの広告も岩崎さんの仕事ですね。
 この仕事でも、やっぱり経営トップの方の発言がとても重要な意味を持っていたわけです。
 その中で、くり返し言われていたのが、「誰一人見捨てることのない民営化」という言葉です。
 びっくりしましたね。こんな思いきったことを言われるんだと。ものすごく重い言葉。生半可な覚悟では言えない言葉だととても強い印象を持った。
 郵政民営化に対する世の中の反対理由は、弱者が切り捨てられるということです。JRの民営化のときにも地方路線の切り捨てが問題になりましたが、郵政民営化のときも効率優先で過疎の村が切り捨てられるということがマスコミでも報じられていた。しかし、郵政トップは「誰一人見捨てない」とはっきり言っている。事前のヒアリングで側近の人たちも、そのことを明言している。そうしたら迷うことは何もないわけで、そこから言葉を作ろうと思ったんですね。
 考えてみたら、日本は今まで経済優先、効率優先、大都市優先で発展してきた。強いものに与するという流れで近代社会が作られてきた。でも、ここのところに来て、高齢化や少子化など必然的な要請もあって、実際、昔よりははるかに日本の社会は成熟してきている。だから、「ひとり」を無視しない文化の土壌ができつつあると思ったんですね。
 以前の日本でそんなことを言ってもウソや建前と受け取られてしまったと思うのですが、今の日本なら、「ひとりを愛せる日本へ。」という言葉が成立すると思ったんです。逆に言えば、ここまで広告ではっきり言ったら、企業もその発言に責任を持たなければならなくなるということですが。

 ──世の中に対する宣言であると同時に、組織内部に対するトップの覚悟の表明にもなる?
 民営化したての社員24万人の大組織ですから、内部をまとめることの方が大変だと思うのです。「誰一人見捨てない民営化」なんてできないと思っている人も当然中にはいるかもしれません。「ひとりを愛せる日本へ。」という言葉には、それを覚悟の上で、でも愚直に、照れずに言い続けようよ、という気持ちも込められています。

 ──それが広告を通して、どこまで伝わるかですが。
 世の中にはいろいろな人たちがいます。広告を読まずに素通りしてしまう人も当然います。でも、その中でも、日本郵政グループの覚悟をわかってくれる人たちはいると思うんですね。そういう人たちと一人でも多く出会えるようにという気持ちで、僕は広告を作っています。
 同時に、24万人いる内部の人たちに対しても、自分たちの会社の考えに共鳴してくれる人たちが一人でも多くなるようにと思って言葉を作っています。それが人間として共感できる言葉であれば、世の中の人も従業員の人たちも同じところに集まれると思うんですね。

ボディーコピーの重要性

 ──レクサスの「微笑むプレミアム。」は、ボディーコピーから書いたと聞いていますが。
 普通はスローガンを最初に作りますが、レクサスはボディーコピーが先でした。このときは、レクサスに対する関係者の想いがさまざまにあふれ、一つの言葉に集約するのが難しい状態でした。みんなが思っていることをまとめるかたちで先にボディーコピーを書いたんですね。
 レクサスは、ドイツの高級車を凌駕するという目標を掲げ、日本が初めて世界に向かって発表するプレミアムカーであり、日本人の誇りがこの車にはあふれている、ということがベースにある。また、威厳を押し出すドイツのプレミアムに比べ、レクサスには日本ならではの美意識に裏打ちされた奥ゆかしさ、やさしさがある。それが、レクサスの魅力であるというあたりをボディーコピーに込めて書いた。その文章がトヨタの担当者も含めたスタッフの気持ちを一つにしたんですね。これが自分たちの責任であり使命であり未来なんだ、常にここから出発して、ここへ帰ってくればいいんだということが、このボディーコピーの中に入っている。「微笑むプレミアム。」というスローガンだけでは、多分それがわからない。
 このレクサスの場合に限らず、僕は企業広告にとってボディーコピーは極めて重要だと思っています。

 ──それは、なぜですか。
 言葉も、スローガン1本ではものすごくひ弱なんです。スローガンは1行ですから、人によって受け取り方が違ってくる。企業の思いのすべてをその1行のコピーに託すのはあまりにも過酷だということです。だから、それをより正確に、具体的に伝えるためにボディーコピー作りが極めて重要な作業になるんです。
 当然ですが、僕は、プレゼンテーションのときは、スローガンやキャッチフレーズだけでなくボディーコピーまで書いて、それを声に出して読むようにしています。ボディーコピーが最高、最強の企画書になるからです。どんな精緻な企画書よりも、ボディーコピーほど企画書にふさわしいものはないと思っているんですね。なぜかというと、どんなにすばらしい企画書も世の中に出ることはないからです。一方、ボディーコピーは必ず広告としてそのまま世の中に出る。企画の意図を、そのまま人々に伝えられる文章なんですね。ですから、僕はボディーコピーに力を注ぎます。
 読んでいて腑に落ちる文章にするということです。読んでいる人にとって、そうだよな、そうだよなと相づちを打ちながら読み進められる文章ほど気持ちのいいものはありません。そのためには、むずかしい言葉をいっさい使わず、順序立てて書いていく。ボディーコピーに読む快感があることが、一つのコツだと思っています。

商品広告も企業広告的発想で

 ──最近は企業広告的な商品広告もありますね。
 広告にユーモアは不可欠だとは思っていますが、最近、殊に、目先のおもしろさを追いかける商品広告より、商品の本質価値を探す広告のほうが燃える(笑)。
 商品広告というより技術広告なのですが、最近手がけたソニーの「Creator's DNA」というシリーズがあります。ソニーのカメラ部門のブランディングを目的とした広告です。僕らの世代にはソニーの商品は特別なイメージがありました。その財産を、もう一回取り戻したいという気持ちで始めたものです。
 ソニーの技術者は非常に優秀なだけではなく、ちょっと感動的なくらい社内でもリスペクトされている。少年の心と飽くなき探求心を持っている人たちの集団なんですね。それがDNAとして組織に受け継がれている。日ごろの商品広告は、どうしても口当たりのいいように軽く広告を作っていかなければいけないので、その技術にどれだけエネルギーを注入しているか世の中の人にわかってもらえていない。それが技術者にとっては本当に悔しい。その思いを一回思いっきり吐き出してみたいということでスタートしたのです。
 レンズの話、色の再現や画像のブレの話、デザインと持ちやすさに関する話など、とにかく技術に関する話を、僕ら素人が読んでも「なるほど」と腑に落ちるように語っていこうというシリーズなんです。
 こういう広告は内実がきちんとしていないとできません。それが可能なのは、ソニーに分厚い技術があるからです。
 世の中を見ると、そういう技術を持っているのにコミュニケーション下手というか、何にもやらない企業が結構あるんですね。確かにお金のかかる話ですが、本当に宝の持ち腐れだと思うんです。

企業の大事なことを語る媒体

 ──ソニーの技術広告は、新聞広告で展開していますが。
 新聞は媒体費が高いのでみんな二の足を踏むのですが、今の世の中できちんとしたことを語る媒体は新聞しかないと思っています。テレビの朝のワイドショーを見ていても、ほとんど新聞記事を引き合いに出してコメントしている。週刊誌にしかできない、いじわるなものの見方も好きですが、世の中全体を俯瞰してきちんとものを言っている媒体というのは、新聞以外にない。だからこそ、企業にとって大事なことを世の中に提示するなら、この国では新聞が最も有効だと、クライアントの方にも言っています。
 それから、僕が新聞広告を愛する理由は、僕の書くボディーコピーが長いこともありますね(笑)。唯一長い文章を読んでもらえる媒体が新聞なんです。きちんと読んでくれる人が一番いる媒体であることが、新聞の最大の価値だと思っています。だから、新聞に出すときにはデザイナーに、できるだけボディーコピーを大きくしてくれ、とよく言いますね。
 逆もまた真なりで、新聞のポスター的な使い方、文字が主体の媒体だからこそ写真が生きるということもありますが、紙面を大胆に使いながら、ちゃんと言いたいことを言うのが、新聞の特徴を最も生かした使い方だと思います。

 ──最後に、企業広告を作る上で大事なことは?
 会社内部の都合を優先しない。そして、クリエイターと一緒になって作ることだと思いますね。どんな企業でも、世の中を幸せにするために存在する。その企業がやっていること、やるべきことを志を持って語ることが企業広告だからです。




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