栞ちゃん 2008.4/vol.11-No.1

Vol.10  FULL MOON

どうにも忘れがたい満月、というものがあります。

それは、大学を卒業したばかりの春。

私は、入社が決まっていた大阪のアパレル会社の
社員研修合宿に参加していました。
その最終日、いよいよ明日が入社式・・・という夕暮れのことです。

じつは就職活動では、広告を作る仕事がしたくて
代理店を志望したのですが、あっさりと全滅してしまいまして。
たったひとつ頂けたのが、アパレル会社の内定でした。
それを合図に就活は止めたものの、気持ちの方はますますヒートアップ。
大学四年の後半は、広告の学校を複数受講しながら
広告をもっとよく知りたい気持ちを抱えて、悶々と日々を過ごしていました。

そんな私は、すでに卒業しちゃって、社員研修に参加して初めて、
やっと、気がついたのです。
広告がやりたいくせに、このまま会社に入っても、役に立てることなんて何もない。
迷惑をかける前に(すでに迷惑なんだけど)、辞退しなきゃ。今しかない。

「すみません、あの・・・」
おそるおそる採用担当の方に打ち明けてみたら、当然、ものすごく怒られました。
「おまえが広告やりたいかどうかなんて、知らないよ!顔も見たくない!帰れ!」

まさか「帰りの新幹線の切符・・・」とも言い出せず、
脱兎のごとく研修先を飛び出し、新大阪駅へ。

東京行き新幹線が静かに動き出したときは、あたりは夕闇のなか。
ちょっと泣きそうなのと、妙な高揚感とが入り混じった、
不思議な気持ちで車窓に目をやると、
高い場所に、冴えた銀色の満月が浮かんでいました。

それは心にひんやりとここちよく、やけにまぶしかった。

なんにも無くなっちゃったけれど、今ここには全部がある。
そんな瞬間に見た満月を、私は今でもときどき思い出すのです。

満月好きな(?)私にとって月といえば、魅力的な一冊が思い浮かびます。
「FULL MOON/新潮社」。NASAが保存していた、アポロ計画の
膨大な未公開写真の中から、厳選した129点を時系列にまとめた写真集。
圧倒的な月の素顔や、宇宙や、地球の美しさに、
発売当時、会社の人たちとワクワクして見入ったことを覚えています。

国井美果(文)
ライトパブリシテイ コピーライター
本誌デザイン
帆足英里子(デザイン)

ライトパブリシテイ アートディレクター
中島古英(写真)
ライトパブリシテイ フォトグラファー


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