CURRENT REPORT 2008.4/vol.11-No.1

人に優しい運転を呼びかけ事故の大幅削減目指す
 今、首都高速道路では年間1万2000件以上の事故が発生している。平均すると実に40分に1件の割合で発生している計算だ。事故を原因とする渋滞総延長距離は年間で2万5000kmにも及び、東京・ニューヨーク間の往復距離にも匹敵するという。その上、事故渋滞により発生するCO2からは環境への負荷も懸念される。
 このように我々が意識しないうちに失っている膨大な損失をコミュニケーションの力で取り戻し、首都高を、ひいては東京をより快適な空間にしようという「東京スマートドライバー計画」が現在進行中だ。
 そこで、首都高速道路株式会社西東京管理局 調査・環境グループの池田博久氏に首都高における事故の実態と削減への取り組みについて話を聞いた。


首都高速道路株式会社 西東京管理局 調査・環境グループ 池田 博久氏 ――事故が発生しやすい状況は
 多くの方はスピードの出しすぎで急カーブを曲がりきれず、側壁に激突といった状況を想像されるのではないかと思いますが、そうした道路施設への接触は全体の2割程度です。
 実に年間件数のおおよそ半数が追突事故なのです。渋滞の最後尾でぶつかってしまう、あるいは止まったり動いたりしているうちに接触してしまうといった類のもので、多くの場合は車間距離が不十分であったり脇見運転によるものです。実際、首都高で事故が最も発生している場所は料金所なんです。

――事故削減への取り組みは

 標識を設置して渋滞への注意を喚起する、あるいは区画線を引くことで料金所や分岐・合流での自動車の流れを誘導するなど、ハード面での交通安全対策は以前より行ってきましたが、それだけではどうしても限界があります。
 事故原因の大半はドライバー同士のコミュニケーションのすれ違いや不注意にあります。運転の技術や経験は人それぞれですが、スマートに走行するコツを共有し、他人を気遣い思いやりを持った運転を心がけたら事故はさらに減らすことができるのではないでしょうか。こうした人の気持ちに訴えかけることで首都高の事故を削減しようという試みが「東京スマートドライバー計画」です。

――具体的な内容を教えてください

 放送作家でラジオパーソナリティーとしても活躍中の小山薫堂さんを発起人に、各界著名人の協力を得て、首都高での安全で楽しいドライブを実現するために、事故防止や渋滞回避のテクニック、知られざる首都高カルチャーなどをWebやラジオを中心としたメディアで発信しています。
 さらには、この取り組みに賛同いただいた企業と組んでプロジェクトにちなんだ商品を用意しています。例えば、ソニーミュージックからは首都高を楽しく走れる音楽をテーマに、コンピレーションCD「TOKYO SMART MUSIC」をリリースし、旅館、ホテル予約サイトの一休.comでは、部屋から首都高を望むことができるシティホテルでの宿泊特典プラン「東京スマートドライバーステイ」を用意しています。そのほか、ネクタイやクッキーなども発売しました。
 一見、何の脈絡もないようですが、商品や企業を通じて多くの接点を用意して「首都高の事故削減」という課題への気づきを促し、社会全体で解決しようという雰囲気を作り上げることが目的です。
 今後3年間で3000件の事故削減を目標としていますが、安全への取り組みに共感するドライバーをひとりでも多く増やし、東京のよりよい未来を考えるきっかけづくりとしたいですね。

――これまでの成果は

 プロジェクトのスタートは昨年の8月ですが、2007年度はこれまでのところ、事故が約650件減っています。もちろんハード面の対策もあってのことですが、最も事故が発生していた用賀本線料金所で100件減っているように、料金所での事故が減っているという点は効果があったのではないかと思っています。
 また、従来の交通安全キャンペーンといえば当局の取り締まりにより事故を減らそうという考え方でしたが、今回、首都高とは直接関係のない企業とともに、広く社会全体で解決すべき課題としてこの問題に取り組み、キャンペーンの新たなスキームを構築した点、それによって首都高自体を知ってもらう機会ができたという点で大きな成果と言えます。

――今後はどのような展開を

 この4月からはJ-WAVEでの提供番組も始まりますが、情報を発信するだけではなく、ドライバーとのコミュニケーションにより、ドライビングに関する知識をシェアしたり、スマートな運転をしている身近な人をほめるといった実際のアクションにつながる場も作っていきます。
 もちろん、引き続きプロジェクトに賛同いただけるメディアや企業との連携を拡大し、キャンペーンのシンボルであるピンクのチェッカーフラッグを街に浸透させていきます。チェッカーフラッグは本来ゴールのサインですが、私たちにとってのゴールは速度を競うのではなく、安全に目的地にたどり着くことですので、やさしさを想起させるピンクにしています。
 これを目にしたドライバーが「スマートな運転」を心がけてもらえるようになるといいですね。
(梅木)

※ 東京スマートドライバー http://www.smartdriver.jp/

取材メモ
 首都高はその立地条件ゆえに線形は単純ではなく、快適な走行空間を実現するには工学的なアプローチだけでは制約がある。
 そこで路面や壁面にデザインを施すことで首都高の走行をわかりやすく、楽しくする試みが行われている。そのひとつがドット状の模様を路面に敷いて、ドライバーに坂道やカーブといった道路状況の変化を自然に認知させるというもので、現在、大宮線の一部で供用されている。
 「下り坂では走行方向に連続して並べたドットの間隔をつめていくことで、視覚的に速度感が増してスピードが出ていることがわかります。カーブではドットを手前から徐々に曲げることで、カーブがあることを認識させるのです」と池田氏。
 このほかにも、東京最大級の構造物である首都高の緑化計画や走行時の振動を利用した発電プロジェクトなどユニークな取り組みが進行している。詳しくは、SHUTOKO未来創造ラボ(http://www.shutoko-lab.jp/)へ。
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