栞ちゃん 2008.1・2/vol.10-No.10・11

栞ちゃん
Vol.8  ノラや。

大好きだった祖母は、ずっと猫と暮らしていました。

夜、寝ている時には、布団のお腹のあたりに子猫が2匹乗っかって
同じリズムで寝息をたてていたのが、かわいかった。

猫は好きですか?

猫は、よく寝るから寝子だ。
内田百けん※は「ノラや/中公文庫」という随筆の中で、そう記しています。
「や」の一文字に、ノラを愛する百けん※先生の気持ちが、ギュッと凝縮されてますね。

百けん※先生は、ふとしたことから野良猫を家で飼いはじめ、
ノラという名をつけ、それはもう可愛がっていましたが、
ある日突然、ノラは失踪してしまいます。

それからというもの、日夜ノラの安否を想い、泣き暮らす日々。

70を過ぎた、いつもは辛口の御大が、
仕事もとんと手につかず、狼狽しきって、くる日もくる日も涙を流す。
その姿は、哀しみと共に可笑しみも感じさせるのですが、
私にはそれどころじゃなかった。
一緒に泣けてしまった。
ほんとは犬派なんだけど。
3歳のとき近所のデカ猫に顔を引っ掻かれた痕がまだあるけど。
その喪失感を考えるだけで、もう胸が張り裂けそう。
やっぱりノラでなきゃ駄目なんだという想いの、細密な描写が、とても切ないのです。

ところで、猫といえば。
数年前、N.Y.のアルゴンキン・ホテルに泊まったとき。
明け方で無人のフロントのカウンターに
大きい真っ白な猫がデンと居て、一瞬びっくりしたことがあります。
なにやら支配人のような風格があって。
調べによると、マチルダという名の、何代目かの看板猫なのだとか。
初代のオーナーに気に入られた野良猫が、初代マチルダだそうです。
ノラや、と呼ばれていたかどうかは、わかりません。

※「けん」は門構えに月

国井美果(文)
ライトパブリシテイ コピーライター
本誌デザイン
帆足英里子(デザイン・写真)

ライトパブリシテイ アートディレクター


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