Creativeが生まれる場所 2008.1・2/vol.10-No.10・11

モノ作りの“気持ち”を伝えるドキュメント広告
秋葉裕介 氏(写真右) 小澤裕介 氏(写真左)
秋葉:92年多摩美術大学卒業、同年電通入社。ネスレ日本、NTT東日本、日立製作所などの広告を手がける。読売広告大賞選考委員特別賞、日本雑誌広告賞金賞など受賞。
小澤:93年都立大学卒業、電通中部支社を経て、東京本社。日立製作所、マクドナルド、西武グループなど担当。朝日広告賞、毎日広告賞、消費者のためになった広告賞、ACC賞など受賞。
 映画監督の故黒澤明氏をメーンビジュアルにした広告を皮切りに、2005年から始まった日立製作所の企業広告キャンペーン「つくろう。」。2007年に新たな制作チームが、このキャンペーンを引き継ぎ、これまでとは違うドキュメント性を重視した企業広告シリーズを展開している。
 新たな「つくろう。」キャンペーンの表現とこれからについて、アートディレクターの秋葉氏、コピーライターの小澤氏の両氏に話を聞いた。


――「つくろう。」キャンペーンを途中から引き継いだということですが。
秋葉
 僕らが携わったのは、「地雷除去編」からです。同じ社内のスタッフですが、これまでの広告は、いろいろな賞をもらっていることもあり、それを引き継ぐのは正直プレッシャーもありました。それに負けないものを、という意識は当然ありましたね。しかも、最初のテーマが地雷除去という重いものだったので、かなり苦労しました。
小澤 シリーズを引き継いで、しかも自分たちなりの表現も模索していかなければいけない。1回目の「地雷除去編」では、提案までに数か月の制作期間があったのですが、その長い期間を通じて、ようやく広告の方向性が見えてきましたね。

「つくろう。」という器

――これまでの広告から引き継いだ部分と新しく見えてきた方向性とは何だったのですか。
秋葉
 まず、引き継いだもので言えば「つくろう。」という枠組みです。これまで僕たちも、「地雷除去」「技能の伝承」「環境」など、さまざまなテーマを扱ってきました。一見バラバラに見えますが、すべては「つくろう。」に通じているんですね。というのもモノ作りをしている日立グループにとって、この言葉は会社そのものだからです。どんなテーマも当てはまる大きな器だと思うんです。
小澤 「つくろう。」という言葉は、日立グループの人たちがもともと持っていた、作ることへの喜びや情熱をもう一度取り戻そうという意図で作られた言葉です。広く世の中一般に向けた言葉であると同時に、30万人の日立グループのメンバーに向けた言葉でもある。そう考えると、「つくろう。」というコピーは、モノ作りに携わる日立グループのあらゆる取り組みと360度接点を見いだせる言葉です。
 日立という企業は本当にあらゆるものを作っています。少し聞きかじっただけでは理解できない、かなり専門性の高い技術や製品も多くあります。毎回テーマごとに、「つくろう。」で成立するか検証するのですが、環境問題でも、熟練技能者育成でも、結局はこの「つくろう。」に帰結するんですね。


ドキュメント性の追求

――今回のシリーズに加えられた新しい方向性とは、どういうものですか。
秋葉
 一言で言えば、ドキュメンタリー性ということです。作り手や受け手のマインドにフォーカスしたものを表現しようということなんです。このシリーズでは、日立の行っている事業や製品などさまざまなテーマを扱う。だから、テーマによっては、どうしてもモノ寄りで説明中心になってしまうことがあるのですが、それを一歩踏み込んで、作り手の気持ち、受け手側の気持ちを表現したものにしたかったんですね。
小澤 「つくろう。」という言葉は企業の意思を一人称で明快に伝える言葉です。ですから、何をつくっているかということより、「どんな思いでつくっているか」を毎回伝えたいという気持ちが、僕らの中にはありますね。テーマによって具体的な製品を見せることもあれば、見せないこともあるのですが、製品を知ってもらうことや理解してもらうことが目的ではなくて、その製品を作っている気持ちを伝えることが企業広告の場合は大事だと思うんですね。

――「技能の伝承編」は他の広告とは色合いが違いますね。
秋葉
 昨年11月に行われた技能五輪国際大会を意識した広告です。どちらかと言うとベクトルがインナー向きなので、カメラマンを代えてニュアンスを変えていますが、マインドに寄ったものという意味では同じです。この広告を作るために、僕たちは日立社内のモノ作りに携わる人たちを取材させてもらったのですが、日立という企業は本当にモノ作りに情熱を持って、地道にコツコツと仕事を積み重ねていく人たちの集まりだということを実感しましたね。
小澤 この広告に関して言えば、そういう地道に頑張っている作り手への応援歌になるべきなんじゃないかと思ったんですね。

息の長いシリーズに

――「環境編」は、子どもたちがビジュアルになっていて、ほのぼのとした気分になりますね。
小澤
 これを環境広告ととらえると、確かに違和感があるかもしれませんね。「つくろう。」という言葉は、意思を表すと同時に未来形の言葉です。だから、「これだけ削減を達成しました」というような単なる現在の成果を報告するのではなくて、「環境編」でも未来に向けた企業の意思を表現したかったんですね。子どもたちをビジュアルにしたのも、そういう意図があります。

――「つくろう。」流の環境広告ということでしょうか。
秋葉
 この広告では、日立の環境に対する取り組みを等身大で表現できないかと思ったんです。さっきのドキュメンタリー性と関係するのですが、実際にモノ作りに取り組んでいる日立の人たちを取材すると、人をビックリさせるような小手先の表現はこの会社には似合わない。そういう意味でも、「つくろう。」という言葉は、モノ作りに関連するさまざまな事柄とフィットする深みのある言葉なんです。僕たちも、広告をやればやるほど、それがわかってきました。
小澤 だから僕らも、すごく特別な広告を作ろうとしていないし、当たり前のことを過剰演出することなく、まじめに作っていきたいんですね。企業広告も、毎回格好をつけ過ぎると、おそらくシリーズ自体が疲れてくると思うんです。過剰な演出をひかえることで、逆に伝わる真実もあると思うのです。
 そういう表現のスタンスが、ここにきて、できつつあるのではないかと思っています。明快なメッセージを同じ顔つきの広告で続けることが、社会へのメッセージとして一番の説得力がある。そういう息の長いキャンペーンにしたいですね。


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