特集 2007.12/vol.10-No.9

広告賞から見たクリエイティブの今
 今、広告はどういう方向に向かっているのだろうか。現在の広告の姿をクリエイティブの側面からとらえているのが広告賞だろう。日本のクリエイターの広告賞である東京コピーライターズクラブのTCC賞、東京アートディレクターズクラブのADC賞、さらにはカンヌ、クリオ、ワンショーといった国際的な広告賞にもスポットを当て、広告の今を探ってみた。
コピーという視点から見た広告
 東京コピーライターズクラブ(TCC)は、東京を中心に日本全国で活躍するコピーライターの団体だ。毎年4月に前年度の広告の中から優秀作品を選出し、その制作者をTCC賞受賞者として発表している。そのTCC賞の審査委員長を3年連続で務めているのが、仲畑貴志氏だ。「コピーで選ぶ」を審査の指針にする仲畑氏は、今の広告状況をどう見ているのだろうか。

――今年4月にTCCの会長に就任され、TCC賞の審査委員長も今回で3年連続でされていますね。
 口は悪いし、全然僕の柄じゃないけど、しょうがないんですよ。TCCの会長も、審査委員長も、会員が選ぶシステムだから、指名されたらやらざるを得ないんです。

――会員が選ぶシステムというのは?
 TCCの会員は800人強いますが、全員立候補を前提に、全員投票で上から30人なり40人なりを審査委員とする方式です。審査委員長も同様で、全員が1人にだけ投票して決めるという制度になっています。
 実は来年度から、この制度をちょっと変えようと思っているんですね。会員の中から毎回無差別に150人を選んで審査委員をやってもらう。で、受賞に関しては例年のように選ばれた審査委員が決めるようにしたんです。今まで選ばれていた審査委員はほぼ決まった人たちだったけど、誰もが数年に1回、審査委員になってもらうことでコピーに対する違う評価も出てくると思うんですね。

コピーで選ぶTCC賞

――仲畑さんは、この3年間、「コピーで選ぶ」をTCC賞の選考基準にされていますね。
 審査委員長である僕としてはこういう指針でやります、ということなんです。僕がなぜコピーにこだわっているかというと、以前のTCC賞では、特にコピーに注目しなくても結果的にいいコピーの広告が選ばれていたんです。それが、だんだんテレビCM主導に広告がなってきて、そうもいかなくなってきたんですね。テレビCMのファクターは、コピーに限らず、タレントや音楽など複数あるじゃないですか。いろんなもので効果を得ようという工夫はもちろんいいことなんだけど、コピー以外のところでその広告が評価され、票が入って賞を取ったとしたら、果たしてそれはコピーライターズクラブの賞としてふさわしいのか。コピーライターの仕事とは関係ないんじゃないの、ということなんです。
 テレビCMの賞としてはACC(全日本CM放送連盟)賞がある。それと選考基準が同じでは、TCC年鑑もACC年鑑も掲載される広告は同じものになっちゃうんですよ。僕らコピーライターなんだから、テレビCMとしての完成度より、むしろコピーの完成度で選ぶべきだ。そこに意味があるということを3年前から僕は主張しているんですね。
 実際かつてコピーがないのにTCC賞に入った広告があったんです。広告がまだ幼かった時代はそれでも良かったんでしょうけど、ここまで広告が成熟したら、広告全体の評価ではなくてコピーのことだけを見て評価してもいいと思うんですね。全体としては効果ある広告でも、コピーのレベルが低かったら票が入らないということになれば一番いいんですけどね。まだ、TCC賞はその過渡期ですね。

――最近は、アートディレクターがクリエイティブディレクターになっているという話も聞きますが。
 今でもコピーライターがクリエイティブディレクターになっていることが多いんじゃないかな。アートディレクターの仕事は目に見えやすいから、確かにそう見えることもあるけど、広告の骨格を作っているのは、クリエイティブディレクターであるコピーライターだと思いますね。もちろんアートディレクターが広告の骨格を作ることもあるけれど、広告全体の構成とか仕切り仕事が中心ですよね。

全体の仕掛けをコピーで受ける

――2007年のTCCグランプリですが、福里真一さんのサントリーの缶コーヒーBOSSのテレビCM「宇宙人ジョーンズ」が受賞しましたね。宇宙人の視点から日本の現状をコミカルに描いた作品ですが。
 グランプリの「宇宙人ジョーンズ」はテレビCMですが、やっぱりコピーがちゃんと存在していますね。「このろくでもない、すばらしき世界。」という、ちょっとシニカルなコピーが効いています。缶コーヒーは、もちろん好みはありますが、中身はどのメーカーも大差はないわけで、だったら、BOSSそのものに「私」という人格があった方が、飲むイメージを増幅してくれる。そういう目的でBOSSの人格がこの広告によって付けられているわけです。僕らが缶コーヒーを飲む時は、ただ飲んでいるのではなく、共感する表現によって作られたイメージを飲んでいるということなんですね。だから、この広告をおもしろがる人はBOSSを飲むだろうという仕掛けです。

――評価の決め手は?
 コピーライターズクラブとしては「このろくでもない、すばらしき世界。」という最後のコピーですね。ACCなら全体の仕掛けでしょうけど、宇宙人ジョーンズが人間にまぎれて地球を調査中という設定があって、それをこのコピーで受けているということなんです。もちろん、広告としては両方の響き合いです。このコピーだけでそれが成立しているわけじゃない。

TCCグランプリ
コピー:福里真一
サントリー BOSS
宇宙人ジョーンズ・登場
30秒
男A:宇宙人がさ、人間にまぎれて普通に生活してるって話を知ってる?
男B:いや。
男A:地球の調査してんだって。しかも、映画観て人間に化けたらしくて、
トミー・リー・ジョーンズそっくりなんだって。
男A・B:ははははは。
ごちそうさま。
宇宙人ジョーンズ:この惑星の住人は、どこかぬけている。
ただ…
この惑星の夜明けは、美しい。
S:このろくでもない、
すばらしき世界。
NA:缶コーヒーのBOSS。

いいコピーはどこでもできる

――TCC賞の秋山晶さんの作品も違った意味で広告の王道だと思うのですが。
 20年以上続いているシリーズですから、最初の戦略が良かったんですね。一般の人たちだけでなく、クリエイターの中にもキユーピーファンがいるわけで、ここまで打ち続けたボディーブローが効いたということですよね。それとクオリティーの維持に対する評価です。

TCC賞
コピー:秋山 晶
キユーピーマヨネーズ
カボチャ
30秒
NA:地上38階のマンションを出て、地下鉄に乗り、63階のオフィスに行く。
NA+S:都市のサプリメントは野菜です。
NA:キユーピーマヨネーズ

――秋山晶さんは、キユーピーを40年やられている。
 クリエイターとクライアントのハッピーな出会いのいい例でしょうね。プレゼンで毎回、クリエイターを変えていると、こういうわけにはいかない。
 それから、「奈良新聞」の新聞広告で西島知宏くんがTCC賞を取ったのは、すごくうれしかったですね。要するに、いいコピーは東京や地方という場所に関係なくてできるということが証明されてますよね。

――西島さんの作品は新聞広告ですが、最近のTCC賞には残念ながら新聞広告が少ないですよね。
 そうですね。僕なんかはどちらかというと新聞で育っているから、やっぱり新聞15段というのは一番うれしいですけどね。ただ、最近の新聞広告はテレビ型になって来てますよ。

TCC賞 コピー:西島知宏 奈良新聞

――コピーという視点から見てもテレビCMと新聞広告は違うわけですよね。
 新聞広告に限らずグラフィックのほうがコピーは評価しやすいですね。テレビはファクターが多いから広告全体に果たすコピーの役割というか、シェアは下がります。新聞広告は、コピーが変わったら全然違うものになる。ということは、新聞広告にとってコピーが重要だということです。もちろん、テレビCMでもこのコピーでないといけないという表現もあるので、一概には言えないことですが。

――テレビのコピーとグラフィックのコピーを同じ土俵で審査するのは難しい?
 それは難しい部分はありますよ。だけど、それ以上に問題だと思うのは、広告はたくさん露出したほうがどうしても評価されることです。だから、例えば大量の露出がある広告も、コピーを評価する場合は、それが一回しか流されなかったらと思って見る。あるいは、逆に、新聞の突き出し広告のように一回しか掲載されない小さな広告のコピーも大量に露出したと仮定して見る。審査がフェアであるために審査委員長として、最近、そういうことを言い出しているんですけどね。コピーそのものを評価するとしたら、そこまでいかないとダメだと思っているんです。広告を大量出稿できるビッグカンパニーが常に票を集めるのでは、コピーライターの力量に票を入れていることにならない。金に票を入れていることになるから、僕は気に食わないと言っているだけなんです。
 ただ、広告は当然そういうパワーゲームの側面も持っていますから、広告全体で見れば、それも含めての戦略でいいんです。広告量と表現のマッチングも制作者のセンスであり、もちろん重要なんですよ。要は、その広告のどこを見るかということですね。

コピーの尺度は十人十色

――先ほど、TCC賞はコピーで選ぶとおっしゃいましたが、いいコピーの基準というのはなんでしょうか。
 それは審査委員によって違うんじゃないですか。「コピーで選ぶ」というのも僕が主張しているだけで、強制しているわけではないんですね。コピーのジャッジに決まりはない。商品をうまく語っていることを大事にする人がいれば、時代感が一番重要だという人もいる。インパクトだという人もいれば、共感や実感で選ぶ人もいるわけでしょう。それはいろいろな尺度があると思うんですよ。
 審査委員の数だけその尺度があるというのは、必ずしも最高賞をとった作品にみんなが票を入れているわけじゃない、ということでもあるんです。たまたま得票数が多かっただけで、再投票したらまた変わることもある。
 審査って面白くて、一次審査では下位のほうだけどグランプリになるってよくあるんです。今はTCCの審査しかやってないけど、一時はADCから電通広告賞、新聞社の賞などいろんな審査員を同時にやっている時期があって、1年のうち2か月ぐらいは審査をやっていたことがあるから分かるんです。例えば、最終的に決まったベスト5を対象に再投票すれば順位は簡単に変わってきますよ。それまでベスト5以外に入っていた票が、ベスト5のどれかに上乗せされるわけだから。
 審査なんて、それぐらいのものですよ。また、それぐらいのほうが健全だと思うけどね。

――現在のコピー年鑑は、各審査委員がどの作品に投票したかわかるようになっていますね。ちなみに、仲畑さんはBOSSの「宇宙人ジョーンズ」には票を入れられていませんが。
 入れてないです。やっぱりコピーの役目で見ているんで、コピーとして、ちゃんと存在感と効果のある作品を僕は選んでいるつもりなんです。つまり、広告効果よりコピー効果で選んでいるということなんです。広告効果で選ぶなら、また別の選択になったと思いますね。
 TCC年鑑に審査委員の投票結果を入れているのは、数年前にはじめたもので、審査委員の審査をしようという発想なんです。つまらない広告にばかり票を入れている審査委員かどうかは、それを見て判断できる。その方がフェアな審査になると思うんですね。

次のページへ→



 アートディレクションと新しき良き時代の広告
サン・アド アートディレクター 葛西 薫氏→


 世界の広告賞に見る広告の潮流
電通 クリエーティブ・マネジメント局 情報開発部
プロジェクト・マネージャー兼クリエーティブ資料課長 丸茂 巧氏→
もどる