CURRENT REPORT 2007.12/vol.10-No.9

得意分野に経営資源を集中させ世界の人々の健康に貢献する
 10月の田辺三菱製薬の発足、キリンホールディングスの協和発酵工業の買収など、ここにきて国内製薬業界再編の機運が再び高まってきている。その先駆けとなったのは、一昨年4月に山之内製薬と藤沢薬品工業(いずれも当時)が合併して発足したアステラス製薬だろう。同社は合併により単に売り上げ規模の拡大を目指すのではなく、「グローバル・カテゴリー・リーダー」という独自のビジネスモデルの構築を戦略に掲げて専門性の高い疾患領域へ経営資源を集中させ、競争が激化する日本市場での地歩を固めると同時に、今後も市場拡大が見込まれる米国をはじめとする海外市場にも積極的に展開している。
 同社の戦略と背景にある製薬業界の現状について、広報部長の石川弘氏に話を聞いた。


アステラス製薬株式会社 広報部長 石川 弘氏 ――製薬業界を取り巻く環境は大きく変わっていますね
 製薬業界でプレゼンスを保つには非常に困難な時代となっています。
 まず新薬が出にくくなっています。高血圧症や脂質異常症などの疾患に対する薬剤は一通り出そろい、これからは、従来の治療薬では満足度が低かった、さらには治療薬そのものが存在していないような領域についての新薬が求められています。
 また、臨床試験でも、より多くの症例を集めて安全性の検証を求められるようになっており、過去に比べると大規模な臨床試験が必要となってきています。発売後には市販後調査も行いますから、新薬一品目の研究開発には数百億円という非常に多額の投資を要するのです。
 その一方で世界的な医療費抑制の流れもあり、拡大傾向にあった医療費も2000年代には伸びも鈍化しています。特に日本では2年に1回の薬価改定で公定価格が引き下げられると共に、ジェネリック医薬品の使用促進などで市場は頭打ちになっています。数字でみると日本の薬剤費は90年代前半に世界の25%程度を占めていましたが、現在では10%程度まで縮小しているほどです。
 そういった状況ですので、研究開発の一層の強化と効率化が求められると同時に、グローバル市場への展開の必要性からM&Aによる業界の再編が進んでいるのです。

――では、アステラス製薬の戦略は?
 米国ファイザー製薬など、いわゆるメガファーマといわれるトップ企業は年間2兆円以上の売上を誇ります。対して我々はこれから1兆円に達しようかというところですので、研究開発の投資額にも大きな差があります。先ほど申し上げましたように、今後は治療満足度が低く薬剤の貢献が求められるアンメット・メディカル・ニーズの高い領域を対象とする市場が成長すると予想しています。そこで、アンメット・メディカル・ニーズが高く、高度の専門性が必要とされる複数の「カテゴリー(領域)」にて「グローバル」に付加価値の高い製品を提供することで競争優位を実現し、各々の領域で「リーダー」としてのポジションを確立するというビジネスモデルを我々は目指しているのです。
 弊社の発足は2005年ですが、合併前の山之内製薬は高血圧や糖尿病、それから泌尿器といった領域で、藤沢薬品は移植・免疫医療や感染症といった領域で大きな強みをもっていました。現在では医療用医薬品に特化し、炎症・免疫や泌尿器といった既にグローバルに強みを有する領域に、感染症、糖尿病、中枢・疼痛、癌を加えた6領域を重点研究領域として経営資源を集中させています。

――コミュニケーション活動についてはどのようにお考えですか
 私たちの経営理念は「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」ことです。この理念に込められた思いを明確に伝えるために「明日は変えられる。」というコミュニケーションスローガンを掲げました。このスローガンは、病気と闘うすべての人々と勇気・希望を共有する言葉であり、同時に「グローバル・カテゴリー・リーダー」として本当に求められる新薬を創ることに挑戦するアステラス社員一人ひとりの決意の言葉でもあります。広告でもこのメッセージを発信しているのですが、インフォームドコンセントなど医療の現場で医薬品の情報開示が着実に進んでいる現代では患者さんの薬剤選択の幅が大きく広がっています。こうした中、アステラスに対する認知を上げ、理解を深め、企業ブランドを確立することが重要と考えています。さらにこのような企業姿勢を広く社会にアピールすることを通した社内へのミラー効果も大変重要であると考えています。患者さんの明日を変えるために何をすべきなのかという社員一人ひとりの目的意識が高まり、会社で働くことの喜び、会社への誇りにもつながります。

――アステラスのこれからについてお聞かせ下さい
 これまでも新薬の開発を通じて医療に貢献してきましたが、いまだ治療法のない、あるいは十分ではない領域はまだまだ残されています。我々の使命はそういった満たされない医療ニーズの充足に挑戦し続け、一人でも多くの患者さんの明日を変えていくことだと考えています。

10月2日 朝刊


(梅木)
取材メモ
 読売新聞10月2日朝刊に掲載された15段カラーの企業広告は、アステラスレッドのバトンを握った赤ちゃんが印象的だ。
 赤いバトンには「明日がある」という喜びを患者一人ひとりに届け、一人でも多くの笑顔をつなぐという意味がこめられ、医薬品の提供を通じて患者の明日を変えていくという全社員の姿勢を表している。無限の可能性を持ち、日々成長し続ける赤ちゃんには、病気と闘うすべての人々の未来や希望、新しい人生のスタートを投影している。医薬品企業では似通ったものになりがちなメッセージも「企業側から一方的に発信するのではなく、患者さんや家族の視点からファクトを伝えることで、私たちの志をまずはその方たち、そして生活者の胸に届けたいですね」と石川氏。
 「明日は変えられる。」というこのメッセージとそこに込められた思いは、「Changing tomorrow」として米国、欧州、そしてアジアで活動するグループ子会社とも共有する予定という。
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