From Overseas - NewYork 2007.11/vol.10-No.8

襟を正させるには、まず身内から
 米国において、軍、特に陸軍(US Army)は大きな広告主であり、実際に彼らの宣伝活動を目にする機会は多い。タイムズスクエアの一等地にオフィスを持ち、頭上の電光ビルボードにプロモーションビデオを流す彼らは、年間2億ドルという米連邦政府組織の中では最大の広告予算を持ち、昨年11月からは「Army Strong」と題したキャンペーンを行っている。扱いはマッキャンワールドグループで、通常の広告主同様に宣伝活動を行うが、その方法はメディアへの広告露出にとどまらず、NASCARレース参戦チームとしての活動(Army Racing Team)やNFLなどの大きな試合でのイベント活動(空挺部隊によるパラシュート降下)など、日本では考えられないような、非常にオープンなプロモーションで大きな注目を集めている。
 しかし、9月10日付でNYタイムズに掲載された意見広告は、この大広告主とその最高司令官たる米国大統領の逆鱗に触れることとなった。問題となった広告は、イラク駐留多国籍軍の司令官である米軍ペトレイアス将軍個人を攻撃するもので、「ペトレイアス将軍、もしくはベトレイ・アス(我々を裏切る)将軍?」と題し、リベラル系政治団体であるムーブオンから出稿されたものである。ブッシュ大統領は「これは米軍全体への攻撃であり、最低の行為だ」と不快感をあらわにし、米上院でもムーブオンへの非難決議案が提出され、圧倒的賛成多数で可決されるに至った。
 ここまでならば、まだ意見広告への単なるバッシングで済んだのだが、この広告掲載に絡み、9月23日付のNYタイムズにて、同社コラムニストのホイト氏がなんと自社の広告局を強く非難する社説を掲載した。内容は、ムーブオンは本来支払うべき広告料金の半額以下で掲載しており、その値引き分は同団体への「寄付」に当たるのではないか、という過激なものである。この社説について事前に掲載を知らされていなかった広告局側は、当然大騒ぎとなった。
 ホイト氏によると、同広告は日幅を1週間ほどに設定する代わりに値引きされていたはずが、当初の希望通り、下院公聴会にてペトレイアス将軍がイラク戦争の現状についての証言を行う10日に合わせて掲載されており、それならば日付指定の料金を適用するべきだと訴えている。さらに、掲載された月曜日は広告需要が最も高い曜日であり、内規によれば料金の値引きは行われないことになっているはずだとも付け加えていた。
 これに対しNYタイムズ広報担当者は記者会見で、「営業担当の料金設定のミスだった」と誤りを認め、また内容についても「不適切な個人攻撃だった」と述べて、自社からの追及内容について事実上謝罪を行った。ちなみにムーブオンは、「純粋な見積もりのミスだと理解しており、値引きは広告内容と関係ないと思う」とNYタイムズ広告局をかばう姿勢を見せ、また、その値引きは適切な交渉の結果だったとしながらも、差額を支払うと表明している。
 米陸軍のプロモーションといい、頻繁な意見広告の掲載といい、米国のメディアは日本と比べて「広告の主張する内容」には比較的寛容である。しかし、さすがに身内からの告発・非難は日常的にあるものではない。問題となった料金値引きについては、もしかしたら「独占掲載」などの他の条件がついていたのかもしれないが、内容の審査・確認および適切な料金設定が非常に重要であることを思い知らせる事件となった。さらに、たとえ身内であり社の収入を担う部署であっても、不正には断固たる立場を取る新聞編集の強い姿勢も明らかとなった。
 日本だったらどうだろう。恐らく社内でのみ問題提起され、わざわざ紙面で公表し、広く読者に問いを投げかけることはないのではないだろうか。

9月10日付 NYタイムズ紙 9月23日付 NYタイムズ紙

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