Creativeが生まれる場所 2007.11/vol.10-No.8

クーポン券のぬくもりで介護への理解を深める
麦田啓造 氏
1966年生まれ。広告制作会社、化粧品メーカー宣伝部を経て、1999年レオバーネット(現ビーコン コミュニケーションズ)入社。アテントのキャンペーンでは、ACC銀賞、広告電通賞、消費者のためになった広告賞金賞、ギャラクシー賞奨励賞などを受賞。
 「介護の日」の前日である9月24日、介護を必要とする高齢者用紙おむつ「アテント」の広告が全15段のスペースに出稿された。アテントは、2003年7月から2006年12月までのおよそ3年半、読売新聞の4段4分の1のスペースを使って、介護者の実際の声を掲載する「私のがんばらない介護生活」というシリーズ広告を出稿した。「がんばらない介護」という介護する側に立った視点が共感を呼び、毎回、多くの投書が寄せられた。一連の広告の考え方や背景について、ビーコン コミュニケーションズ、クリエイティブディレクターの麦田氏に話を聞いた。

3年半の長期連載

――アテントのシリーズ広告ですが、2003年から06年までのおよそ3年半と、随分長いものでしたね。
 03年から読売新聞での「私のがんばらない介護生活」キャンペーンは始まったのですが、実は、同じコンセプトで02年にその前身となるサービス告知のようなものを行っていたんです。「アテントは、介護者に対して精神的な負担を軽減する気遣いをしているブランドです」ということを訴求するための広告の一環として、02年の10月にテレビで、そして12月に、「がんばらない介護について書いて下さい」という新聞広告を掲載して、実際の介護者の声を募ったんです。
 その時には、シリーズ広告にする予定はなかったのですが、新聞広告に2000通もの介護者からの声が寄せられた。それを紹介していこうということで始まったのが、このシリーズ広告なんですね。

――「私のがんばらない介護」という考え方は、どこから出てきたのですか。
2006年 12月26日 夕刊
 その当時、もっとも強かったブランドは“リハビリ”をテーマとした商品で、寝たきりゼロを目指したものだったんです。
 しかし、介護についていろいろ勉強を重ねていくうちに、リハビリというのは、実際はかなり難しいことがわかってきたんです。例えば、高齢者の場合、悪くなった手足が元に戻ることは、現実的にはなかなか厳しい。右の手が悪くなったら、左の手でいろいろなことができることを学びましょうというのが実際の高齢者介護のリハビリなんですね。
 コンセプトを考えているときに、クライアントの方が医師の鎌田實先生の『がんばらない』(集英社)という本を見つけてこられたんです。「がんばらない」と介護と直接結びつけてはいなかったのですが、これがアテントの進むべき道じゃないかと思ったんです。
 ただ「がんばらない」という言葉は介護者が聞いたら、どのように受け取るだろうという懸念はありました。事前のグループインタビューでは確かに注目を集める言葉でしたが、アテント自体がネガティブにとらえられる可能性があると思ったんです。しかし、その真意が理解されれば介護で苦労している方を応援する広告になる。新聞広告はしっかり説明すれば誤解される心配はないですが、問題はテレビCMです。そこで、テレビCMでは「がんばらない介護」というキャッチフレーズをポジティブにとらえてもらえるようなストーリーを考えたんです。「がんばらない介護」という社会価値の形成をクライアントとの共通理念としてスタートしたキャンペーンなんです。

――今回の新聞広告はクーポン券をメーンビジュアルにしてますね。
 何か消費者に参加してもらう形はないかと考えてクーポン券というアイデアを使ったんです。ひとつひとつが介護者が「やってもらいたい」「手伝ってもらいたい」というものなんです。これを読んでもらって、ニコッとしてもらったり、切り取ってもらったりして、家族でコミュニケーションの道具として使ってもらい、介護者だけではなく周囲の人間にも、より「がんばらない介護」への理解を深めてもらおうと思ったんです。子どもの「肩たたき券」と同じ発想です。
 単純に楽しいと思うんです。介護の広告といったら、きれいごとばかりが目立つんですが、こういうユーモアがあったり、ちょっと泣かせる言葉があったり、全体的に温かいものは珍しいと思うんですよね。

――「私のがんばらない介護生活」の本も9月に出版されていますね。
 本の出版はずっと提案していたんです。クライアントもはじめからこの提案には賛成だったんですけど、なかなか形になりませんでした。そこで、最初はクライアントと自主制作して、それを介護施設などに配りました。その後、中央公論新社から出版できることになりました。
 これを出版したかったのは、介護者は当然なんですけど、介護とは関係のない人たちにも読んでもらって、介護の大変さを知ってもらいたかったからなんです。「がんばらない介護」というのは、周りの協力がないとできません。そのことを周囲に知ってもらいたかったんですね。

『私のがんばらない介護生活』(中央公論新社)

メジャー媒体の特性

――介護者の声を集めるなら、ネットでも同じようなことができたと思うのですが。
 このキャンペーンが始まった当初、介護している人の年齢というのは、40代半ばから70代の方なんですよね。
 現在では、この年代のインターネットの使用率は上がっているかもしれませんが、キャンペーンがスタートしたころは介護者の間でほとんどインターネットは使用されていなかったんです。ですから、ウェブを使ったコミュニケーションは成立しないだろうと考えました。  それと、新聞とウェブは媒体特性が明らかに違うと思うんです。新聞はやはりメジャーな媒体なので、自分の書いたものが多くの人に見てもらえるという前提がありますから、それがモチベーションになると思うんですね。一方、ネットというのは非常に特殊な媒体だと思っているんです。閉鎖されていないんですけど、何か閉塞感のあるメディアだという気がします。おそらく、ネットで介護者の声を募ったら愚痴大会みたいになるんじゃないかと思いますね。
 新聞というメジャーな媒体のフィルターを通すことで、愚痴大会にはならず、正直で前向きな意見が出てくるんじゃないかと思います。

ワンストップの新聞広告

――他のマスメディアと比較して、新聞をどのようにとらえていますか。
 15秒のテレビCMは1メッセージしか伝えられないのですが、実際に作る時は、言いたいことを全部入れてしまうか、「続きはウェブで」になりがちなんです。
 一方、新聞広告はワンストップなんですね。思わせぶりなキャッチフレーズを置いて、あとはボディーコピーを読ませる。これは新聞広告にしかできないことだと思うんですね。ある程度の文章量があっても読んでくれるのは新聞広告なんです。雑誌広告もキャッチフレーズだけで勝負しているものが多いですし、ポスターは特にそうですね。
 それから、新聞広告には「出会い」があると思うんです。テレビCMは3回、4回と繰り返し見せることによって記憶に残っていきますが、新聞広告との出会いは、その日、新聞を広げた時の1回きりです。そういう感動というか、強さを表現できるのも新聞広告の特徴だと思います。

9月24日 朝刊

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