Creativeが生まれる場所 2007.9/vol.10-No.6

“笑い”を手段にメッセージを届ける
山崎:1986年日本大学芸術学部卒業。同年電通に入社。TCCグランプリ、ACC金賞、2002年クリエイター・オブ・ザ・イヤーなど受賞多数。
直川:1995年東京大学法学部卒業。同年電通に入社。日本コカ・コーラ、関西電気保安協会などの広告を手がける。ACC CM FESTIVALでラジオ部門グランプリを受賞。
 大日本除虫菊(キンチョウ)の広告には“笑い”がちりばめられている。俳優の大滝秀治と岸部一徳が出演するテレビCMの世界観を新聞連載小説形式で描いた『父子水』『夏にきた、春』『ふらふら』の3部作もおかし味を醸し出していたが、インパクトという点でそれ以上だったのが今年5月30日、女優の藤原紀香の結婚披露宴当日に掲載された新聞広告だ。一連の広告についてクリエーティブディレクターの山崎、コピーライターの直川、両氏に話を聞いた。

──今回の広告ですが、藤原紀香さんへの祝辞の形をとっていますね。
山崎 キンチョウさんとテレビCMの打ち合わせをしていたときだったと思いますが、藤原紀香さんの結婚披露宴に合わせて、新聞広告を出稿したいという話があったんです。
直川 最初は2003年から始めた新聞小説形式の連載広告をやろうという話も出ました。ただいつも、テレビから派生してグラフィックを考えるものですから『父子水』のように物語風のCMに見えていれば話を考えるのもそれほど難しいことではないのですが、今回の藤原紀香さんと大友康平さんのCMからストーリーのある世界観を引き出すのは難しいだろうということになって……。
山崎 「どうしましょうか」となったときに、披露宴の当日にお祝い原稿みたいなものを出したらどうでしょうと、思いつきで提案したんです。それに対してクライアントの宣伝部長さんが「それおもしろいんじゃないか」とその場で判断してくれたんです。キンチョウさんの場合は、専務と宣伝部長の2人と直接やりとりすることが多く、決定が早いんです。そのスピード感は昔からありましたね。

――お祝いの言葉は社長名で出されていますね。
直川 宣伝部長さんのご尽力で実現しました。
山崎 企業に人格を持たせようとする広告はいろいろありますが、社長の名前が出るとやっぱりインパクトが違いますよね。

成功事例を積み重ねる

――先ほども話題に上がった小説形式の新聞広告『父子水』『夏にきた、春』『ふらふら』ですが。
直川 当初、雑誌広告の企画として小説をプレゼンしました。それに対してキンチョウの宣伝部長さんから小説だったら、新聞小説の形がいいと言われたんです。
 後から考えてみると全2段というのは、5回連載しても10段なんですよね。全10段の広告では、意外とぺらっとめくって終わりということもある。それを考えると、連載小説ですから、この広告を楽しみに探してくれる人もいます。10段1回よりも2段5回の方が広告ののべ滞留時間が長いんですね。最近きづきました(笑)。
山崎 本当に行き当たりばったりなんです(笑)。コピーはすべて直川に任せたんですけど、彼が『ベストセラー小説の書き方』みたいな本を読んでいるのを見たときはものすごく不安になりましたね(笑)。
 まあ、それはともかく、細かい設定をいちいち言語化しなくても伝わる、しっかりとした世界観があったのがよかったと思います。直川も楽しんで一気に書き上げていましたね。

――『父子水』では文章に商品広告のフレーズが多く入っていたと思うのですが、次第に少なくなっていきますね。
直川 バレましたか(笑)。
山崎 あくまで一般論ですけど、広告が話題になって成功すればクライアントさんのハードルも下がってくる。キンチョウさんの仕事はおもしろCMを作ってきたぼくらのチームの先輩である堀井博次や石井達矢の時代からですが、ぼくらの出すアイデアは振り切ったものが多いですから、最初はやっぱりちゅうちょされるんです。でも、それが広告として機能することがわかれば、次からは少しハードルが下がる。そうして少しずつ成功事例を作って、信頼関係を1センチずつ積み上げていくことで、自分たちのやりたいと思ったことができる環境を作るようにしています。

紙面

消費者のガードを下げる

――ところで、この広告のターゲットですが。
山崎 う〜ん……ないですね。
直川 多少はあるじゃないですか(笑)。
山崎 もちろん、購買者ということになると「主婦層」になりますが。キンチョウさんの商品はどこの家庭でも使う殺虫剤です。広告は、子供から年配の方まで、みんなに楽しんでもらえたらいい。子供は殺虫剤を買いませんけど、彼らがおもしろいと思ってくれれば、キンチョウという会社のファンになって、キンチョールというブランドを覚えてくれる。そして彼らが大人になったときに、ターゲットになるわけですよね。そういう意味でもあまりセグメントはしていないわけです。
 広告は、クライアントから見たら、いかに効率よくメッセージを届けるかが大切だと思うんですね。そういう意味では新聞のようなリーチのある媒体というのは魅力的ですよね。

――「子供やおばちゃんに受けなかったらダメ」という広告の発想は、堀井さんから影響を受けていますか。
山崎 そうですね。堀井や石井が作り上げてきた基本原則みたいなものは継承しています。アウトプットの表現は時代に合わせて変えていかなくてはいけませんが、“笑い”という部分は引き継いでいますね。

――広告を作るうえで、やはり“笑い”はキーワードになるのでしょうか。
山崎 消費者は広告を見たくないという前提で発想しているんですね。“笑い”はその拒否のガードを下げるひとつの有効な手段になるんです。読者は「また広告か」と思っているのに、想定外の愚かなヤツが目の前に現れたら脱力して笑ってしまいますよね。そのすきに、こちらの届けたいメッセージを届ける。
 ただ、いつも言い続けていることですが、笑わせることが目的ではないんです。メッセージを届けることが目的で、“笑い”を手段にしているだけなんですね。
直川 あと、“笑い”は基本的に言葉でできているものですから、ぼくらがコントロールできるものなんです。美しい映像とか美しい音楽をだれかに頼むと、その出来上がりを待つことになる。そこに一抹の不安があるんです。“笑い”であれば、自分で生産して管理できますが、例えば美しい映像をやるとなると自分たちではちょっと作り切れない。ですからきれいな映像の広告を作らなければいけないときは、クライアントの前では「やりますよ」といっても「ほんまにできるかな」と思ってしまうんです(笑)。

重要なのは企画の核

――最後に新聞広告を作る上で大切にしていることはありますか。
山崎 新聞広告はこうあるべきだという固定観念みたいなものが勝って、それが「新聞は効かないんじゃないか」という考えを生み出していると思います。笑わせるという意味ではなく、要は中身さえおもしろければいいわけです。企画の核があって、その核さえおもしろければ、あとはいろいろなメディアでそれを広げていける。今はともすれば、メディアの使い方や仕掛けなどに走りがちですよね。だけど仕掛けは仕掛けでしかない。そこから発想すると必ずうまくいかないんです。
 重要なのは、広告の制作は作る側が楽しむことです。極端に言えばそれをいかに“私物化”しているかということなんだと思いますね。

紙面

もどる