特集 2007.7・8/vol.10-No.4・5

仮想世界「セカンドライフ」入門


 この4月に出版された『ウェブ仮想社会「セカンドライフ」』の著者・浅枝大志氏は、初めてセカンドライフに出会った時に「ワクワクした」という。そして、自分より上の世代がインターネットに出会ったときのワクワク感は同じ感覚だったのだろうと推測する。企業はセカンドライフとどう向き合うべきか。若き経営者に聞いた。


──『ウェブ仮想社会「セカンドライフ」』という本を出版されましたが。
ウェブ仮想社会
「セカンドライフ」

ネットビジネスの新大陸
浅枝大志 著(アスキー刊)
 本を出してよかったと思うのは、仕事の話が早くなったことですね。本が出るまでは、「セカンドライフって何ですか」という問い合わせが一番多かったんです。そういう方に限って説明が終わると、「ありがとう。よくわかりました」と言って帰っていっちゃうんです(笑)。今は、この本に書いてあることを前提に話ができるようになりましたね。

──浅枝さんをセカンドライフに引きつけたものは?
 リアルタイムのコミュニケーションができる「バーチャルワールド」だという点です。ウェブのチャットもそうですけど、リアルタイムコミュニケーションだけなら、別にセカンドライフでなくてもできます。3Dのメディアは何がおもしろいかというと、動きを伴ったコミュニケーションができることです。現実の世界では、目を見て話す、手でジェスチャーする、笑う、うなずく、相づちを打つとかあるわけですが、それは今までのウェブではできなかったことなんです。

──インターネットのオンラインゲームでもチャットのできるものはありますね。
 ただ、それはあくまで「ゲーム」なんですね。例えば、勇者がいて、戦士がいて、魔法使いがいて、初めて成り立つものです。
 ウェブの掲示板に何か書き込むときは、だれもが自分として、自分自身の思ったことを書きます。何か意見を言うのは、勇者や魔法使いとしてではなく自分ですよね。
 セカンドライフというのは、自分のキャラクターである「アバター」が中で歩きまわって、ほかの人と会話をする。アバターは、まさに自分の分身なんです。そのアバターの裏には、必ず実際にパソコンの前に座っている人がいるんですね。
 アバターは別に自分に似せる必要はないですが、ぼくのアバターを見た人はみんな、ぼくとして認識する。メールアドレスと同じで、その人とつながっているものとして認識されるから、その人と同じ扱いをするわけですね。だから、メールアドレスの進化形として、デジタルの世界を歩きまわることができる端末が登場した、と言ってもいいかもしれません。

メルティングドッツの設立

──メルティングドッツは、そのセカンドライフのビジネスのプロジェクトデザインやコンテンツ制作、コンサルティングを手がける会社ということですが、設立の理由は?
 実は、ぼくはずっとアメリカに住んでいて、ソニーや任天堂をアメリカの企業だと思っていたぐらいの人間なんです。日本に来てビジネスに興味を持ってから思ったのは、最近、日本からグローバル企業が出ていないということです。それを誰かの下で実現するよりも、自分自身で実現したほうが楽しそうだと思ったことがまずあります。それには世界に出やすいインターネットを使って、日本が強いアニメやゲーム、コンテンツビジネスに特化したビジネスにしようと思ったんですね。会社を設立したのは昨年11月です。

深い体験をさせるメディア

──現段階でセカンドライフに企業が参入するメリットは何ですか。
 参入自体が話題になることですね。今は確かに参入するだけでニュースバリューがあります。メディアに取り上げられれば、その時は人も来ます。でも、その後、企業が何もせずに放置するだけだったら、そういう仕事にはあまりかかわりたくないと思っています。次も行きたくなる仕掛けが大事なんです。
 それから、セカンドライフの本来の価値は、従来のマスメディアやウェブとは別のところにあると思っています。

──どういうことですか。
 今のウェブの価値は、ページビューを基本に測られています。しかし、それがマーケティング上のメリットに結びつかないなら、100万ページビューだろうと1億ページビューだろうと、別に意味のない数字です。特に最近は、そのページの記事を見て何人がブログに書くか、それが広まって購買に結びつくか、ぐらいまで計算してプランニングすることが求められています。逆に言えば、30人のブロガーに記事を書かせられれば、100万ページビューなくてもいいわけです。
 でも、今のウェブでブログを書いてもらうには、ページビューを稼いで、その中の何パーセントに書いてもらうという方法しかないんですね。それを超える可能性のあるメディアとして、セカンドライフが注目されているのだと思います。

──ブロガーの興味を引く要素がセカンドライフにはある?
 多くの人に見せるのは、マスメディアでいいし、ウェブでいいんです。特に企業にとってのセカンドライフの最大の特徴は、ユーザーに「深い体験をさせられる」点だと思っています。今はメディアも多様化し、コンテンツの数も増えてきています。そのコンテンツ提供者がいちばん欲しているのは、実は人々の時間を奪うことです。1日24時間しかない中で、人々はメディアを選択する。今は、深い体験をさせないと、人々の時間は奪えないんですね。
 そういう意味で、ウェブを見るだけとか、動画を見るだけより、セカンドライフのような自分がそこに積極的にかかわっていくコンテンツが、これから必要になる。今はまだ、突拍子もないことに聞こえるかもしれませんが、マスメディアで告知して、セカンドライフの中で深い体験をさせることが、将来は一つのパターンになると思います。例えば、ウェブに来てもらって15秒、30秒のテレビCM以上の時間を使わせようという宣伝手法が増えていますが、滞在時間はせいぜい2、3分でしょう。もちろん、作り方にもよりますが、セカンドライフの滞在時間は、それよりはるかに長いんですね。企業はどちらを選ぶべきかということです。

ビジネスが先行する日本

──日本では、セカンドライフは個人より企業の関心が先行していると言われていますが。
 アメリカのセカンドライフは、企業主導でも何でもなくてユーザー主導です。ユーザーが50万人ぐらいになったときに、セカンドライフに興味を持つ企業が出てきた。ユーザーが50万人いたら、PR効果はあります。それがうまくいって他の企業もいろいろやり始め、一般の人たちもセカンドライフに興味を持つという流れが出てきたんですね。日本はそのアメリカの状況を見て、企業が先に関心を持ったということだと思います。だから、まずは情報収集ということで、セカンドライフでは日本のビジネスマンのユーザーが増えたんですね。
 企業の人たちがセカンドライフに関心を抱くのは、ある意味当然だと思います。つまり、「わかる人」が多いからではないでしょうか。ウェブは10年でお年寄りが使うまでに発展した。携帯電話の普及はもっと爆発的だった。そういう状況を今の30代から50代の人たちは見てきています。
 セカンドライフを見たときに、ウェブや携帯電話と同じ流れを感じたとしても、何の不思議もないですよね。特にウェブ担当者で、最先端にいる人間だったらなおさら可能性を感じているはずです。ウェブビジネスに長年携わってきた担当者で決裁権がある人間だったら、当然「まずは参入して試してみよう」という決断を下す。それが、ビジネスユーザーが最近あふれている原因だと思いますね。

リアルタイム性を生かす

──企業はセカンドライフをどう活用すべきですか。
 まず、ウェブとは違うということですね。ウェブはページなんです。リンクをクリックしたら次のページに行くという意味では紙の延長です。もちろん、そういうウェブに適したものはあって、セカンドライフにすべて置き換わるとは思っていません。検索性の高いものや読み物は、むしろウェブの方が向いている。
 セカンドライフに向いているものは、まず、体験が重要なものです。だから、これまで参入事例で多いのは車です。GM、BMW、メルセデスベンツ、トヨタ、日産、マツダといった会社がすでに参入しています。それから、人と人とが出会う空間はウェブでは表現できない。そういう二次元のウェブではできないことが実現できるツールだと考えることが大事なんです。
 ところが、世の中にはセカンドライフで物を売ってもうけようと参入してくる人があまりにも多いんです。

──セカンドライフで企業がもうけようとしても、もうからない?
 先行投資として割り切って考えるべきでしょう。今すぐ費用対効果を求めて参入しても、失敗する可能性は高いですね。何もしなくても、維持費だけで年間100万円はなくなっていきますし、コンテンツ制作費もかかります。ただし、最初からグローバルを目指せば、将来的にはもうかる可能性はあると思います。ただ、現状では、月50万円もうかっても企業としては全然うれしくないですよね。だから違う目的で使うほうがベターだと思うんです。つまり、リアルタイムコミュニケーションを活用した企画に使うということです。


──リアルタイムコミュニケーションというのは、具体的にはどういうことですか。
 「メルティングドッツ島」という島をぼくの会社で作っているのですが、ここでは、リアルタイムでユーザーの声が拾えるんです。出版した本を読んでくれた読者が会いにきてくれて、直接話も聞けるんです。


──「読みました」なんて言われたら、感動しそうですね。
 メールで感想が送られてくる以上のうれしさがありますね。それだけではなく、「そこはどうなの。これはどうなんですか」と、その場で話が聞ける。
 それから、ネットショップで「24時間以内にメールで返信いたします」というのがよくありますね。でも、リアルな店舗で「24時間以内に対応いたします」とやったら、お客さんは怒って帰りますよね。試着したい時に店員がいない。赤い色があるのか、Lサイズがあるのか聞きたいのに、店員が24時間以内に戻りますと張り紙がしてあったら、怒りますよね。実はネットショップは、そういう商売をやっているんですね。

──逆に言えば、セカンドライフは人がずっとついていなければいけない?
 ネットショップでもメールを送って3分以内に返事が返ってきたら、非常に信用されると思うんですね。今のネットショップは、ある意味、手を抜いているところがある。そうではなくて、常にネット上に対応するスタッフがいる空間、その人と生で会話ができる空間がセカンドライフなんです。

──リアル店舗とほとんど同じということですか。
 ユーザーがどこにいても、たとえば海外にいてもリアルタイムで会うことができる点は違いますね。ぼくの本の感想を北海道の読者と話し合うこともできるわけです。

コミュニティーを作る

──企業の島にリピーターを増やす方法ですが。
 ぼくらが今、提案しているのは、コミュニティーを作ることです。メルティングドッツ島の目的の一つも、実はそれです。ぼくらは、メルティングドッツ島を公園にしようと考えました。メルティングドッツ島にいても、誰も「出て行け」とは言わない。島の所有者であるぼくらが言わないから、誰も言う権利がないんですね。だから、ユーザーが自分たちの場所、もしくは公園のようなパブリックなスペースと考え始めている。

──しかし、企業の島が魅力的なら行くかもしれない?
 そこが自分が楽しめる「ディズニーランド」かどうかは、1回行けばわかる。1回行ってそうじゃなかったら、二度と行きませんよね。それがゴーストタウンを作っているんです。企業の空間は特にそうで、1回行くだけの人がほとんどなんですね。

──リピートに成功している企業というのはあるのですか。
 GMの「ポンティアック」は、企業とユーザーの事務局を融合させた空間を作って成功しています。ユーザー主導のショップで車に関連した商品を売っているんですね。

──日本の企業では?
 それはぼくらがいいものを作るしかないですね(笑)。日本でも10ぐらいいい事例が出てくれば、状況は変わると思いますね。その時は、ぼくらは制作をやめてコンサルティングに専念していきたいと考えています。


Hiroshi Asaeda

 1983年生まれ。青山学院大学経営学部卒。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士課程修了。
株式会社メルティングドッツ代表取締役。同社は「セカンドライフ」をはじめとしたバーチャルワールドのサービス企画開発企業。3Dインターネット時代の到来を見据え、企業のバーチャル空間コンサルティングを手がける。



セカンドライフとは何か
デジタルハリウッド大学 大学院教授 セカンドライフ研究室 室長 三淵啓自 氏→


SoftBank×SAMSUNG島
ソフトバンク モバイル マーケティング・コミュニケーション統括部 宣伝部Webコミュニケーション課 課長 野中耕治 氏→
 
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