IT弁護士の法律ノート 2007.7・8/vol.10-No.4・5

ネットワーク・ストレージサービスをめぐる新判例
 裁判所が過度に技巧的な法解釈に走ったため、思わぬ弊害発生のおそれを招くことがあります。本年5月25日に東京地裁で言い渡された著作権関係の判決が、その典型例です。
 判決の事案は、ユーザーが、自己の所有するCDの楽曲をパソコンで圧縮ファイル化してネット上のサーバにアップロードしておき、自己の携帯電話にダウンロードして再生するためのストレージサービス事業に関するものです。
 判決は、アップロードによる複製、ダウンロードによる通信の行為主体が、ユーザーではなくサービス提供事業者であって、「ユーザーは複製のための操作の端緒となる関与」をしたにとどまると判示しました。
 たしかに、このサービスが悪用され、不正コピー流通の温床となるのではないかという権利者側の懸念は、それなりに理解できます。
 問題は判決の論理です。判決は、本件サービスでは「本件サーバへの複製行為が不可避的」で、こうした「中心的役割を果たす本件サーバ」は、サービスを提供する事業者が「所有し、その支配下に設置して管理」し、サービスの仕様等も事業者側のシステム設計で決定されていることなどを、主たる理由としています。
 ところで、今日では大手の電話会社やプロバイダーなどの電気通信事業者が、多様な情報通信サービスを提供しています。なかでもウェブ開設用レンタルサーバスペース提供サービス、ブログ開設サービス、IP電話サービスなどでは、当該電気通信事業者のサーバがサービス提供のための中心的役割を果たしています。その他の点を含め、この判決が示した前記理由は、こうした情報通信サービス全般にも当てはまる特徴を、単に網羅しただけのものにすぎません。
 そのため、判決の論理に従えば、本件サービスだけでなく、こうした既存の正当な情報通信サービス全般でも、行為主体はユーザーではなく電気通信事業者であることになりかねません。
 その結果、サービスを利用するユーザーは、通信行為の主体でない以上、「通信の秘密」の保護が受けられないという非常識な結果を招きます。また、こうしたサービスを乱用したユーザーが不正コピーを流通させても、当該ユーザーに行為主体としての責任を負わせることが困難になり、かえって著作権保護に反します。
 今回の判決は、最高裁判決が示した「カラオケ法理」に依拠したものとみる余地もあります。
 この法理は、著作権料を支払わない悪質カラオケ店主の責任を追及するために、著作権侵害に対する管理支配と利益帰属があれば、侵害行為の主体と認められるというものでした。しかし、その本来の趣旨は、金儲けを目的に著作権侵害行為を意図的に支配している者は、侵害主体と同視されてもやむをえないというものです。こうした「例外的取り扱い」につき、今回の判決が十分に要件を絞り込むことなく適用を拡張した結果、極論すれば自ら所有・管理する電気通信設備を単に使用しているというだけで、正規のサービス全般に適用され、前述の弊害が生じるおそれを招きました。既存の正当な情報通信サービスに悪影響を与えないよう、今後における上級審での十分な審理が待たれます。
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