AD FILES 2007.7・8/vol.10-No.4・5

演劇を通じた教育再生を広く伝えるメッセージ広告
 「いじめる側といじめられる側とそれを傍観する子供たちが共に体験し考える機会を設けて、その『心の闇』に光を当てることはできないか。」─5月11日の読売新聞朝刊に、見開き二連版の横幅いっぱいにレイアウトされた「いじめのない世界へ。」という強いキャッチフレーズがひときわ目を引く劇団四季の広告が掲載された。25万4千人の子供たちをオリジナルミュージカル「ユタと不思議な仲間たち」に無料招待するプロジェクトを通じて、社会全体でいじめ問題に取り組むことの大切さを真摯に訴えたメッセージ性の強い広告だ。

「社会総がかり」の取り組み

 冒頭のフレーズは広告のボディーコピーの書き出しだが、安倍内閣の教育再生会議の委員を務める劇団四季代表の浅利慶太氏の強い思いを表現したものだ。
 読売新聞に二連版広告を出稿した理由について、執行役員 広宣ネットグループ長の吉田智誉樹氏は、「いじめ問題に真正面から取り組もうというご協賛社の祈りや、この作品を制作した私たちの思いを、多くの人に理解してもらいたいと思いました」と語る。
 劇団四季は1964年から毎年、日本生命の「ニッセイ名作劇場(※)」に協力しており、子供たちに「生きることのすばらしさ」を教えるさまざまなミュージカルを公演している。
 今回の「ユタと不思議な仲間たち」は、「ニッセイ名作劇場」として全国から20万4千人の小学6年生を招待するほか、より多くの子供に観劇してもらおうと、三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、トヨタ自動車、三井不動産、JR東日本、京セラのサポートを得て、さらに5万人を無料招待するビッグプロジェクトとなっている。
 「100の議論をするよりも、子供たちに観劇の感動を共有してもらうことが『心の闇』を照らすことにつながると考えました。演劇を通じて人の心に感動を与えることを生業とする我々だからこそできる『社会貢献活動』として、とても大切な仕事だと思っています」
 広告の右下には、教育再生会議の第一次報告にも掲げられている「社会総がかりで教育再生の実現に取り組む」という理念を象徴するかのように、協賛企業名が大きく記載されている。
 「教育環境の悪化に対して何かしたいという思いで始めたこのプロジェクトですが、日本を代表する企業にサポートをお願いしたところ、一も二もなく趣旨に共鳴していただきました。多くの子供たちがこの公演を無料で見られるのは、協賛企業の支えがあるからです。今回の見開き広告には、そういう無償の行為に対する主催者からのお礼という意味も込められています」

※ニッセイ名作劇場:財団法人ニッセイ文化振興財団が主催し、日本生命の協賛により、優れた舞台芸術を通じて児童の心を豊かにはぐくむことを願い、1964年から小学生を学校単位で招待しているミュージカル公演。

社会の一員としてできること

 メッセージが強く伝わる広告を作るために、あえて虚飾を排し、シンプルにまっすぐ読者に届く表現を心がけたという。また、通常の告知であればチケットの購入方法や料金、公演日程などを盛り込むが、今回の広告には一切入れていない。
 「いわゆる『広告』の表現方法にこだわらず、素直な言葉で語ろうと考えました。決して格好のいい広告ではないかもしれませんが、体裁を気にするような内容ではないし、そういうストレートな姿勢がこの広告のインパクトを強くしていると思います」
 広告掲載後の反響は大きく、「いじめ問題」に直面している保護者や学校関係者から、「自分の子供は見ることができるのか」などの問い合わせが多数寄せられたという。また、見逃せないのが、俳優やスタッフのモチベーションを高めるというインナーへの好影響だ。
 「いい舞台を作るために、特に俳優たちは毎日厳しい稽古を続けています。そうした苦労の一つ一つが大きな社会貢献活動に直接結びついていることを、改めて認識させてくれたのが、今回の広告だったと思います。また、演劇という仕事は直接お客様と触れ合うことができます。とても幸せでやりがいのある仕事だと思いますね」
 劇団四季が上演作品を決める際には、ただ楽しいだけでなく、作品の根底に「生きることの喜び」という大きなテーマが流れていることが基準になるという。
 「すぐれた作品を数多く上演することが、私たちの社会の一員としての義務だと思っています。また社会と触れ合い、そのために何ができるかを常に考えていきたいと思います」
 来年、創立55周年を迎える劇団四季。その歴史の中でひたすら貫いてきた志は、「ユタと不思議な仲間たち」を観劇する多くの子供たちにも、きっと深く伝わることだろう。


(増田)
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