特集 2007.6/vol.10-No.3

今こそ、広告で語れ!


 広告制作の第一線で活躍するクリエイターは、今の広告をどう見ているのだろうか。アートディレクターの副田高行氏は、シャープの液晶テレビ「アクオス」に立ち上がりからかかわってきた。広告と商品は、今どのような関係にあるのだろうか。


――副田さんとシャープのかかわりというのは?
 仲畑貴志さんの事務所でアートディレクターとしてかかわってからですから、もう20年近くになりますね。シャープの宣伝部と直接仕事をさせていただくようになったのは1995年に独立して少したってからですから、10年になりますね。
 アクオスの仕事は、99年にコピーライターの一倉宏と組んでスタートしました。宣伝部の担当者の方から直接頼まれた仕事で、液晶テレビというのはシャープの社運をかけた商品じゃないですか。その広告の制作をお願いしますと言われたら、よし頑張ろうという気になりますよね。

――「世界名画シリーズ」は、2006年1月から始められていますが、最新作は「モナ・リザ編」ですね。

 これは最近のぼくの新聞広告の中では、意味のある新聞広告の一つだと思っています。なぜこれが生まれたかというと、テレビCMは30秒ですが、それでもテレビで伝えられる情報量は限られているからです。
 「モナ・リザ編」はシリーズ第5弾ですが、これまで新聞広告はやってきませんでした。でも、以前、ゴッホの「夜のカフェテラス」をやった時に残念だと思ったことがあったんです。ゴッホの描いたカフェテラスは120年たった今も、街並みも含めてほぼそのまま現存しています。1888年にゴッホが絵を描いた位置に看板も立っていて、キャンバスを置いた位置までわかる。そこにカメラを置いて、吉永小百合さんにも行ってもらって撮影して、テレビコマーシャルとポスターをやっても、「へえ、そうですか」ぐらいの反応なんですね。中には、セットだと思ったという人もいる。あまりにもったいないなあ、と思ったんです。

――商品ではなく、テレビCMについて新聞広告で詳しく解説している?
 純粋なアクオスの商品広告というより、広告のテーマをより掘り下げることに新聞広告を使っているんですね。新聞の特性を生かして、より深くこのテレビCMについて知りたい人に読んでもらおうということです。そういう役割の広告は、多分、今までなかった。新聞広告の媒体特性を生かした新しい方向の一つだと思うんです。

名画の謎を新聞広告で詳しく

――「モナ・リザ編」の新聞広告は、絵の背景がメーンのビジュアルになっていますね。
紙面 3月24日

 モナ・リザは本当にいたのかとか、レオナルド・ダ・ヴィンチの自画像ではないかとか、「モナ・リザ」は謎の多い名画です。絵の背景もその一つで、水平線と地平線がずれていたり、よくよく調べていくと、ダ・ヴィンチが生まれ育ったイタリアの4か所の風景をコラージュして作ったものなんです。
 それで新聞広告は、この背景の謎に特化したものだったら、興味を持って読んでもらえるんじゃないかと考えたんですね。キャッチフレーズも、新聞広告は「名画の謎は、背景にも隠されていました。」と、テレビやポスターのキャッチフレーズとは変えている。

――テレビとポスターは、同じ考え方で作った?
 実は、これは左右14メートルのジオラマを作って撮影したものです。テレビCMだと背景は一瞬映るだけなんです。ポスターでは背景だけのものも作っているんですが、ポスターは、やはり印象です。ポスターにいっぱい字を入れても、立ち止まって読む人は少ない。だったら、ポスターはテレビとの連動で美しさを表現して、逆に新聞は読んでもらえるから、我々が今回意図した「モナ・リザの謎」を解説していった。このことを知りたい人に読んでもらって、「なるほどね」と思ってもらおうということなんです。しかも、「フルスペックハイビジョンのアクオスでごらんになれば、名画に秘められていた謎の世界を、すみずみまでお楽しみいただけるでしょう」と、商品広告にもなっている。

――例えば、「この謎の答えは、ウェブへ」ということは考えなかったのでしょうか。
 そうすると、ウェブへ行っちゃうでしょう(笑)。というか、ぼくは新聞広告がインターネットの扉になってしまうような使い方は、非常にもったいないと思うし、嫌いなんです。ウェブを見ないと解答がわからないというのは、新聞広告の実力というか、役割を自ら否定していることだと思うんですよ。
 「詳しくはウェブへ」というやり方は、仕組みとしては成立するけれど、それが企業にとって長い目で見た時に本当にプラスなのか、非常に疑問だと思うんですね。

複数の要因がかみ合って

――特にここ数年、シャープのブランドイメージが変わってきたという印象がありますが。
 シャープが20型の液晶テレビを世界で初めて販売したのが1999年だったのですが、そのころは、「液晶テレビといったら、どのブランドを思い浮かべますか」というイメージ調査で、液晶テレビを作っていないメーカーの方が、シャープより上だったりしたんです。それが昨年、家電メーカーのイメージ調査でトップになるようになった。それには宣伝の担当者が長年変わっていないことをはじめ、さまざまな要因が重なったからだと思います。アクオスという社運をかけた商品に女優の吉永小百合さんをずっと起用してきたこともあるし、プロダクトデザインを喜多俊之さんが担当したこともある。特に、吉永さんは、高齢者層が持っていた従来のシャープのイメージを払拭するのに非常に寄与したと思います。そこに広告クリエイターとして、ぼくと一倉が加わったということです。
 だから、何かうまくいくときは、要因は一つじゃないと思うんです。いろいろなファクターが全部うまくかみ合って、そうなるんですね。


商品を通した企業広告

――アクオスの広告というのは、商品広告なのですか。
 ぼく自身は、企業広告という意識で作っています。 だから、カタログのように商品の細かいスペックを入れることはないし、吉永さんをメッセンジャーガールのように使うことは絶対避けている。ブランド感がある、王道の表現を心がけているつもりです。
 一般に「企業広告」「商品広告」と分けた言い方をしますが、ぼく自身は、基本的に優れた商品広告は優れた企業広告になると思っています。特に区別していないんですね。だから、アクオスの広告は商品広告を通した企業広告ということなんです。

――商品がからまない企業広告というのは?
 そういう企業広告を作ったことは、ないかもしれないですね。いわゆる企業広告のための広告表現は、あんまり好きじゃないんですよ。典型的な企業広告は、社名ロゴを置き換えたらどの会社にでもあてはまるものが多いんですよ。それは、広告として本当には機能しないと思うんですね。

――広告として機能するデザインというのはあるのですか。
 これはぼくの持論なんだけれど、広告クリエイターは広告作家ではないんだから個性は要らないと思っているんです。そのとき、そのときに、一番届くデザインを考えればいい。それが美しさなら、可能な限りぼくは美しいデザインを追求するし、それが言葉だとしたら、それを生かす最大の努力をする。そのときに一番求められている、到達する力の強い表現を探すということですね。

届く広告になっているか

――そういう副田さんから見て、最近の広告はどうですか。
 世の中の広告を見ていると、一方的に説明している広告だらけという気がしますね。新聞広告もテレビCMもそうですが、「新発売」と言って、ただ商品の機能を説明している広告が多過ぎる。それが生み出した価値や世界観を広告にしていなくて、表層的な説明に終始している。それならカタログで十分だと思いますね。
 高額商品なら、なおさらです。例えば、車は試乗して購入する商品ですから、広告で詳しい説明はそんなに必要ないと実は思っているんです。
 広告というのは、人々とコミュニケーションできる、読んでもらえる場です。カタログに載っているような商品説明があって、そこにただタレントがいて、というような広告では、人は読む気が全然起こらないということを、声を大にしていいたい。説明するなら説明を読んでもらえる工夫がなくてはいけない。それがクリエイティブなんです。
 でも、一方で広告だけにその責任を負わせるのは、酷な状況もありますね。

“過剰”から抜け出すために

――商品自体の問題もある?
 世の中につまらない広告が多いのは、つまらない商品が多いせいも、もちろんある。だから、多分、商品も、それを作っている会社の数も過剰なんですよ。
 コンビニには、売れるものしか並べられていないでしょう。あんなの絶対に良くないですよ。だって、消費者が地道に育てる商品ってあるはずなのに、コンビニではムリなんですよ。10人いたら9人好きなものしか並んでいない。一人が好きなものは排除されてしまう。だから、飲料なんか10本新商品を出して1本当たればいいみたいなことを言われている。
 やはり、この国は異常に過剰だと思いますね。もっと企業は渾身の力を込めて、「これでどうだ」という商品を出すべきなんです。広告は企業の手紙だから、企業にそういう熱い思いがなかったら、熱い手紙なんて書けないんですね。
 シャープがどうしてうまくいったかと言えば、液晶一筋に20年間こだわってやってきたことが、ようやく日の目を見たからです。だから、これは偶然ではなく必然なんだと思う。
 結局、商品と広告は関連している。全部つながっているんですよ。今の“過剰”から抜け出すためには、「これまでにない商品を作るんだ」という発想が必要なんだと思う。意味のある商品を作れば、消費者も共感するし、売る力のある広告も作れるのだと思います。
 とにかく、ちゃんとしたもので生活が豊かになるのが基本で、人々の暮らしが幸せになるのが、ぼくの中では目標だから。そのための商品だし、広告だと思うんですよ。

Takayuki Soeda
1950年福岡県生まれ。東京育ち。68年東京都立工芸高校デザイン科卒。スタンダード通信社、サン・アド、仲畑広告制作所を経て、現在副田デザイン制作所主宰。作品に、トヨタ「ECOPROJECT」、サントリー「ウイスキー飲もう気分」、ANA「LIVE/中国/ANA」、シャープ「アクオス」など。


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