特集 2006.12/vol.9-No.9

インターネットの現在、広告のこれから

ウェブの現状が企業に問うもの

 ヤフー・ジャパンのようにマスメディアに匹敵するサイトが存在する一方、ミクシィに代表されるSNSやブログなど、消費者がつくるCGM(注1)が台頭している。広告・企業活動の視点から今の状況をどうとらえるべきか。ネットレイティングスの代表取締役社長で、チーフアナリストでもある萩原雅之氏に聞いた。

注1)CGM:Consumer Generated Media。インターネットなどで消費者同士がつくっていくメディア。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、ブログ、口コミサイト、Q&Aコミュニティーなどがある。

―インターネット広告とこれまでの広告の違いを、どう見ていますか。
 まず、既存メディアとネットでは、プラットフォームも仕組みもプレーヤーもすべて違うということですね。ネット広告は、大きな広告会社だからといって必ずしも有利ではないところがあります。
 なぜなら、新聞、テレビ、雑誌など従来の広告メディアは有限だったんです。だから、その枠を押さえているところがコントロールできる。調整をする役回りのところが1番強かったと思うのです。ネットの場合は、メディアも自由に作れるし、プレーヤーも多い。そういう意味では、ほんとに変わったと思いますね。

――中でも、ヤフー・ジャパンの媒体力は圧倒的ですね。
 最近のウェブには2つの特徴があると思います。1つは、ウェブのマスメディア化です。もう1つは、無数のマイメディア、ナノメディアが登場し、ロングテール(注2)で言えばテールの部分に対して情報を届けられるようになり、全体のパワーとしてはマスを上回る人たちにリーチするようになったことです。
 ウェブのマスメディア化を文字通り体現しているのが、ヤフー・ジャパンです。例えば、トップページのバナーは、家庭ユーザーだけで1500万人にリーチ、6000万インプレッションほど表示されるケースが多い。
 アメリカでは、AOL、MSNなど有力なポータルがシェア20%から25%で並んでいる。ところが、日本ではヤフー・ジャパンが頭ひとつ抜け出た巨大なメディアに育っている。それが、日本のインターネットの1つの特色だと思います。

注2)ロングテール:従来のマスセールスの場合、20%の商品や顧客が売り上げの80%を占めると言われていた。これを「20:80の法則」というが、インターネットによって従来売れなかった80%のテール(しっぽ)の部分も大きな収益源になるという考え方。

ウェブ月間利用者数の推移


検証しやすい効果指標

――日本のインターネット広告の効果指標については、どう思いますか。
 従来のメディアは場所売り、時間売りでした。それがインターネット広告では、表示回数保証、クリック保証、成果保証(注3)になってきた。効果が得られるかどうかのリスクを媒体側が負うようになってきたというのが、インターネット広告の特徴です。バナー広告は、回数保証ですからマス広告に比べても投下量とその反応を検証しやすい。クリック保証、成果保証は、従来の定義からするとそれが広告かと問われたら微妙ですが、費用とそれが生み出す売り上げや粗利益が計算できるわけですから、広告主が魅力を感じるのは当然です。広告主からの効果指標への要求はますます厳しくなると思います。

――実際、今、どのくらいのインターネット広告が出稿されているのでしょうか。
 10月から「アドレレバンス」というバナー広告の出稿状況がわかるリポートを発行していますが、今年9月の1か月間にインターネット上でバナー広告を出稿した広告主は1254社、実施された広告キャンペーンは3004件、使用されたバナー素材数は6453個に上ります。
 「アドレレバンス」は、バナー広告に関しては競合社の広告活動をほぼリアルタイムで把握できますし、バナー広告全体の動向も把握できます。
 しかし、検索連動型広告にはまだ、だれもが使える統計データがないんですね。個々のブラウザに検索されたキーワードにマッチした広告が表示されるわけですから、検索連動型広告を提供しているプラットフォームにしか利用状況はわからないし、利用している企業も自社のデータしかわからない。成功例、失敗例ふくめたさまざまなケースが公開、共有されることを期待しています。

――その検索連動型広告が出てきてから、広告の考え方が特にネットの世界で変わってきたように思うのですが。
 従来のマス広告は、リーチ、フリークエンシー、ターゲットを基本にしていましたが、それとまるで違う特定の関心にピンポイントで情報を届けるというロジックで動いているのが検索連動型広告です。広告主のすそ野も格段に広がりました。一方、ページの内容を自動解析して、そのページに関連した広告を表示してくれるグーグルのアドセンスに参加することで、あらゆる企業サイト、個人サイトが広告媒体になるという変化も起こっています。

注3)表示回数保証、クリック保証、成果保証:インターネット広告の課金方式には、一定回数の広告の表示(インプレッション)を保証する表示回数保証型、広告のリンクが一定回数クリックされるまで広告掲載を行うクリック保証型、購入や資料請求など広告によって実際に成果が生じた場合のみ報酬を受け取る成果保証型がある。

コミュニティーと広告

――ミクシィのようなコミュニティーサイトを、広告媒体としてどう理解したらいいのでしょうか。
 ミクシィは2.0企業の代表と言われていますが、実は彼らのビジネスモデル自体は、従来型だと思います。利用者は、10代、20代が中心ですから、そういう層にきちんとリーチできる、無駄打ちのないメディアだということで今は評価されている。ターゲットがはっきりしたメディアに広告を持ってくるという意味では、雑誌と同じなんです。
 その一方で、コミュニティーの口コミの力は大きい。例えば、ミクシィの自発的なコミュニティーは100万ぐらいあるのですが、特定の企業、ブランド、商品のコミュニティーが数多く存在します。そこに企業は関与はしていないのですが、広告的な役割を担っている部分があるんですね。
 ある化粧品の商品名で検索したことがあるのですが、過去1週間分の日記で410件、コミュニティーで82件出てくる。商品名ズバリのコミュニティーもありますし、「もてたい女のコミュニティー」といった中に、商品名が出てくるものもある。
 当然、82のコミュニティーには、「いい女になりたい」といったニーズ、シーズ系のスレッド(話題)から、広告で起用されているタレントのスレッドまでいろいろありますが、最も多いのは個別の化粧品の関する評判や感想などの情報交換です。購買に与える影響が非常に大きいことは容易に想像できます。
 メジャーな商品だけではありません。例えば「紙パックの紅茶大好き」というコミュニティーには5000人以上が登録している。広告やPRに直結するようなものが埋もれているんですね。
 そういう意味でミクシィは本当におもしろいと思うんです。リーチターゲット型の従来の広告モデルではできなかったことをやれる場になっているということです。

CGMサイトの利用状況


マーケティングへの活用

――広告の枠だけで、ネットのコミュニティーをとらえない方がいい?
 CGMの中で、自分の企業のことがどう語られるかというのは、広告の話にとどまらず、マーケティング全般に関係することだと思います。
 これまでの広告マンやマーケターは、媒体プランによってリーチを最大化することが要求されてきました。そこまでが自分たちの仕事と認識されていたからです。今は、広告や情報を送り出したあと、ユーザーがどう反応しているかもフォローといけない時代になってきています。だから、CGMに関心が持たれているんですね。

――インターネットが普及してから、購入プロセスが変わったと、よく言われますが。
 今は商品に興味を持ったら、ネット検索をして比較・検討しますし、実際買ったあとも、ブログや口コミサイトに書き込んで、その情報を消費者間で共有することも当たり前になっていますね。
 ただ、CGMと言っても、実はいろいろなタイプがあります。「価格コム」「アットコスメ」「フォートラベル」などのように最初から口コミサイトとしてつくられたところは、データが整理されていて、だれでも使える。
 それから、「教えてgoo」や「Yahoo!知恵袋」のようなQ&Aコミュニティーも、最近、利用者数が増えています。例えば、洗濯機は10年に1度くらいしか買い換えないですから、新製品についてはほとんど知らないのが普通だと思います。ただ、なんとなく広告で最近ドラム型がはやっている程度しかわからないですから、買おうとなるとゼロから勉強しないといけない。昔はカタログだったんですが、Q&Aコミュニティーを見ると、「ドラム式って洗った服が縮まないですか」というような実際に使った人にしか答えられないような質問と、それに対する回答が山のように出ている。同じドラム式洗濯機の説明が、企業が提供するQ&Aとコミュニティーでは明らかに違うんですね。ネットの利用に慣れた今の消費者は、そういうことをわかってしまっている。しかも、こうしたコミュニティーには企業はほとんど関与しようがない。だから、突き詰めると、もう誠実な商品を出すしかないということになる。
 80年代の企業は、いかに一流企業であるかを追求してきました。「一流」「信頼できる」が、いい企業のイメージだったんです。それが90年代になると「好かれる企業」、好感度が重視されてきた。さらに、2000年代に入ってからは誠実度になっている。その要因は、間違いなくインターネットの普及であり、最近のCGMの台頭です。それで、もし、間違いが起こったら、とにかく迅速に対応する。「ウェブ2.0の世界では商品は永遠にベータ版(注4)」と言われますが、そういうことが実際に起こっていると思うんです。

注4)ベータ版:製品化直前のものを関係者やユーザーに配布し、使い勝手や機能などを評価してもらうソフトウェアの開発途上版のこと。

企業活動全体に影響が

――ブログについては、どう考えていますか。
 ブログがマーケティング的な視点から注目されるようになったのは、検索できるようになってからです。5分前に書かれたことも、今は検索できる。RSSリーダー(注5)に自分の会社や商品のキーワードを登録しておけば、ブログでどのぐらい書かれているか自動的に収集できるようにもなっています。
 我々の会社でも、実はニュースリリースの反響を見るのにブログの検索を活用しています。ニュースサイトでリリースが取り上げられると、それがブログに引用される。数年前までは、取り上げてくれそうなサイトを実際に見に行ってたんですね。
 今は、ブログ検索やRSSリーダーでアッという間にわかるようになった。しかも、ニュースサイトが取り上げてくれる記事より、引用して書かれたブログの方がはるかにおもしろいんですね。我々も気づかなかったような分析をしているブログもある。企業にとってもすごい情報源だと思うんです。
 私はマーケットリサーチの仕事を二十数年やってきているのですが、こうした状況は、この分野にも変革を迫っています。マーケットリサーチは、企業が消費者のことを知る手段が少なかったからこそ成り立っていたところがあります。でも、今は、率直な消費者の行動や意見がSNSやブログに出ているわけですから、その分析を行うことも必要になっているのです。
 今は、ヤフー・ジャパンのような巨大サイトもあれば、月間の利用者が100万人を超える企業サイトや消費者が本音で語れる場もある。ネットが広告にとどまらず、企業活動全体に大きな影響を与え始めていると思います。

注5)RSSリーダー:ブログやニュースの最新記事(更新情報)を自動収集しチェックできるソフトウェア。
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