特集 2006.11/vol.9-No.8

クリエイターにとっての新聞広告
“情報共有本能”に沿う新聞というメディア

 芝浦アイランド、NTTドコモの「iD」のグラフィックなど、若手のアートディレクターとして活躍している水野学氏(34)。同じ多摩美出身の同級生がつくるお笑いコンビ「ラーメンズ」の公演ポスターやグッズは究極のブランディングと言われている。そのブランディングという視点を手がかりに、新聞や新聞広告の役割について語ってもらった。


――水野さんが作られている「ラーメンズ」の公演ポスターを「究極のブランディング」と評する人もいますが、ご自身はどう考えていますか。
ラーメンズDVD BOX2(2005)
 まず、その前にブランドをどう考えるべきかからお話しした方が、ラーメンズの話もわかりやすいと思います。
 80年代にCIブームがありましたが、その時は、シンボルマークを作ることがCIというふうに誤解されてしまったと思うんですね。
 この商品をなぜ作るのか、なぜ売るのか。そういう会社の基本理念や経営方針を突き詰めて行くと、幹の部分に近づけば近づくほど、どこの企業も実は大差ない理念に近づいていくはずなんです。枝葉を落として、幹を削っていって、これを削ったらほかと一緒になってしまうところまで削った大吟醸みたいなもの(笑)。それをギリギリ残すという作業が本来のCIだった。その結果生まれたのがマークであり、会社の方針であり、広告だったはずなんです。
 最近のブランドも似たようなところがあると思うのです。大きな骨組みの部分、背骨に当たる部分、木の幹に当たる部分をちゃんと磨き出す作業をしないまま、ブランド、ブランドと騒ぎ立てている人が多いと思っていますね。
 実は、ラーメンズでぼくが長年制作しているのは、来場してくれたお客さん向けのポスターとグッズです。ラーメンズの公演チケットは毎回完売する。それは、どういうことかというと、やっぱり商品がいいからです。ラーメンズという商品がすごくいいから、ぼくはブランディングに回れる。広告しないで売れる商品というのが1番理想で、それができているのが実はラーメンズだと思っています。

――それが「究極のブランディング」と言われる理由かもしれないですね。
 ラーメンズはタレントなので商品と呼べるかは微妙ですが、ブランディングということでは一般の商品と同じです。その商品を持っていると「へー、すごいね」と言われるようなブランドを作ることと、ラーメンズのファンなんだと言うと「ああ、すごいね、ラーメンズ、いいよね」と言ってもらえることは、まったく同じことです。
 商品とお笑い芸人を比べることに違和感を感じるかもしれませんが、本質はまったく同じです。「商品をどう見せていくか」が、ブランディングの基本だと思います。

ブランディングと新聞広告


――ブランディングに適したメディアというのはあるのですか。
 いろいろあると思いますね。ラーメンズで言えば、実はグッズがブランディングにはすごく大事なんです。ファンが手で触って、持って帰れるもの。もちろん、商品そのものも、ブランディングのメディアになります。ただ、現実は商品の中身にそれほど差がないものが多いですから、そういう場合は、パッケージでブランドをビルドアップしていく。その大成功例が、サントリーの伊右衛門ですよね。消費者にこびないで、本当にいいものだから、よかったら飲んでくださいというスタンスでやっている。
 それから4媒体で言えば、新聞が、最もブランディングに適しています。リーチがあるというだけではなくて、新聞は、ぼく流の言葉でいえば“質感”を持っているからです。

――質感というのは?
 人間は本能に基づいて生きている部分が限りなく多くあると思うんです。新聞は、たくさんの人が同時に情報を共有している媒体ということが、人の本能に刷り込まれている気がするんですね。ひとりで生きて行こうと思う人はあまりいません。それは、人間が群れをなして生活する生き物だからで、情報を共有するというのは、生き物としてうまく生きていくための本能なんです。
 忘れがちなのは、その情報の前提条件になるのが、情報の信頼性だということです。新聞を読んでいる人は、そこに書かれている内容に信憑性があるから読んでいる。新聞は、そういう本能に基づいた媒体なので、新聞広告もいいものは単なる告知という浅いレベルではなくて、人の心にすごく深く刺さるのだと思います。

ブランドを立ち上げる


2005年11月30日 朝刊
――NTTドコモのケータイクレジットブランド「iD」の新聞広告はインパクトがありましたね。
 「iD」というのは、主に「おサイフケータイ」を決済媒体として活用するクレジット決済プラットフォームです。実は、日本に同様のサービスを提供する会社は、これまでアメックス、JCB、ダイナース、ビザ、マスターの5社しかなかった。iDは、ここに参入したんですね。
 仕事はネーミングから携わりました。携帯はこれから自分の証明書、IDカード代わりになるし、「あなたの携帯を1日貸してくれ」と言われたら絶対嫌なように、自分のアイデンティティーに近いものになっている。それで、「iD」という名前にしましょうと提案したんですね。

――新聞広告の位置づけというのは?
 ブランドの立ち上げ広告です。事情が複雑で、昨年12月にiDを利用した最初のサービスとして、まず三井住友iDカードがスタートし、それから5か月後の4月末に、NTTドコモのサービスとしてDCMXを開始しています。自社のケータイクレジットサービスDCMXがまだ始まっていない状況で、iDをどういう見え方にさせるべきか、というのが課題でした。
 そこで、「学校にある日突然、全然知らない転校生がやってきた。ものすごく強そうだし、スポーツも万能だし、お金も持っていそうだ。でも、いいヤツそうだ」という見え方が必要だと思ったんですね。ぼくはブランドを意識した広告を作るときは、その商品や企業のキャラクターを想定します。つまり、だれにモテたいかということなんですよ。

――DCMXの新聞広告は、またアプローチが違いますね。
 これは、ブランドという意味でも大事だったのですが、利用者を獲得したいということもあり、ニュース性のあるコピーで伝わるスピードを速くしたものです。コピーは、太田恵美さんにお願いしました。実際、携帯クレジットは1か月で加入者は15万人という勢いで増えました。

4月28日 朝刊


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