特集 2006.7・8/vol.9-No.4・5

ここまで来たIMCプランニング
IMCとブランドはどう関係するか

 もともとブランドとは別に提唱されていたIMCだが、最近はブランドと結びついたキャンペーンも行われている。IMCとブランドの関係とは? アメリカのマーケティング事情にも詳しい法政大学大学院の田中洋教授(経営学研究科長)に聞いた。

――マーケティングコミュニケーションを統合するという考え方は、いつごろからあったのでしょうか。
 70年代から80年代にかけて「戦略的マーケティング」という概念が唱えられました。企業全体のマネジメントを顧客=市場を中心にしてとらえ直し、そこに企業のパワーを集中していくという考え方です。企業は放っておくと社内がバラバラになる、それを統合、融合しましょうという考え方は、伝統的にあるわけです。IMCであれ、ホリスティックマーケティングであれ、大筋で違ったことを言っているわけではないと思います。それが、テクノロジーの変化や市場の変化に合わせて変奏曲のように唱えられていると考えたらいいと思いますね。
 90年代にIMCが注目された理由には、ダイレクトマーケティングの台頭もあります。マスコミュニケーションと並んで、ダイレクトマーケティングが有力なマーケティング手段として考えられるようになってきました。ただ当時は、IMCといっても、わりと素朴で、宣伝部が出すメッセージと営業が行う販促活動のボイスの違いを統一しよう、というようなことが主な主張でした。だから、マス広告だけでいいのかというのは、別に今に始まった話ではなくて、当時からずっと言われていました。当然、アメリカでは、ケーブルテレビや衛星放送も出てきましたし、当時でいうニューメディアが着々と現実化してきた時代ではあったわけです。
 ただ、現在はこれまでとは状況が違う点もあります。IMCが理論として明確に言われ出した90年ころは、まだ、統合やインテグレーテッドと言っても、少し絵空事なところがありました。それが、インターネットが普及し、ダイレクトマーケティングにおけるCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)のような仕組みが、インフラとして確実になってきて、実際にIMCを実現する環境が出てきているんですね。

実践理論としてのIMC

――IMCは、確かにこれからのマーケティングコミュニケーションを考えていく上で重要な考え方だと思うのですが、つかみ所がない面がありますね。
 「コミュニケーションを統合的に考える」というIMCの考え方にはだれも反対できない一方で、研究者によってニュアンスが違っており、かなり曖昧な概念であることは確かです。IMCのセオリーは確かにバラバラですけど、実践の方ではすでにIMCを意識してやっているキャンペーンが増えてきていると思います。例えば、サントリーの「伊右衛門」は、ブランドもIMCも両方、意識している。
 伊右衛門は一貫したブランドコンセプトに基づいて、日本古来の本物のお茶のあり方を竹を模したボトルで再現した。そういうコンセプトが根底にあって、それを揺らぐことなくテレビCMや新聞広告、車内広告、イベント、インターネットなど、いろいろなところに総合的に展開していった。
 消費者にいまでも印象に残っているのは、布で作った車内吊りの暖簾ではないでしょうか。車内吊り表裏のお金がかかるわけですから掲載料も倍かかりますが、いまだに我々の頭の中にしっかり、一種のシンボルとして残っている。他の車内吊り広告で覚えているものが果たしてどれだけあるでしょうか。それがまさに、ブランドエクイティですよね。我々の心に届く、あるいは、記憶に残るコミュニケーションをやれば、それはエクイティとして蓄積されていく。IMCとブランドが、非常にハッピーな形で結びついた例だと思います。
 資生堂の「TSUBAKI」もそうですし、マーケターのアクションとしては、IMCは今や広く受け入れられている考え方だと思いますね。

――そのIMCとブランドの関係についてお聞きしたいのですが、もともとは別の考え方だと聞いています。
 理論が出てきたときは、まったく別個に唱えられた概念です。ただ、議論としては関係なくはないですね。結論から言うなら、むしろブランドとIMCは、一貫したものでないといけないと思っています。
 では、ブランドとIMCで何が違うのかと言えば、力点の置き方です。IMC戦略では、消費者や顧客とのコミュニケーションを中心にメディアや組織をどう統合していくかにかなり力点が置かれますが、ブランド戦略は消費者の中に、ブランドエクイティをどうやって育てて、マネジメントするかという視点が中心になってくる。

IMCの実行を阻む組織の壁


――IMCが組織に力点を置いているというのは?
 「統合」というと、いかにもバラバラのものを、ギュッといっしょにするイメージがありますが、実際、IMCを実行しようと思うと分業体制という組織の壁が実行を阻むんですね。顧客とのコミュニケーションを中心に組織を再編するような企業はなかなかないですから、既存の組織の壁を打ち破るという考え方が、IMCの中にはあると思います。

――事業部制を取る企業が増えていますが、やはりその方がIMCは実行しやすい?
 単純に組織を作りさえすればIMCができるかというと、そういうことではないと思います。マーケターや戦略スタッフが、いかにそれを意識したアクションができるかというところがポイントだと思います。言い換えれば、分業制という壁を超えてゼロからコミュニケーション戦略が構築できるかということ。実践概念としてのインテグレーションが、非常に重要だと思います。
 個人的な経験を言えば、広告会社のマーケティング局に勤めていたときに、あるクライアントの競合プレゼンでライバル会社に10連勝ぐらいしたことがありました。その時、どういう仕事の仕方をしていたかというと、マーケターとクリエイターが常に直接話をして、極端な場合、営業抜きでどういう戦略にするかを事前に決め、さらにクリエイターから出てきたアイデアをリサーチにかけたり、結果をフィードバックするということをずっとやっていた。ここで言いたいのは、戦略とクリエイティブをどう連携させるかというのは、別に組織があろうがなかろうが、実は関係がないということです。
 それは、ある意味、素朴な形だったのかもしませんが、ブランドとIMCというのは、一貫していなければいけないもの、ブランドという考え方がないと、そもそもIMCもできないものだと思うんですね。なぜかというと、ブランドは、消費者の中核にあるブランドエクイティを、どういうふうに育てて、取り扱うかが問題なので、消費者の中にブランドエクイティを残すためには、一種の統合化されたメディア戦略が必要だからです。「伊右衛門」にしろ、「TSUBAKI」にしろ、そういう戦略を取っていると思います。

――成功したブランドは必然的にそうなる?
 目標として、消費者の中にどういうエクイティを作り上げるかがあって、長期的にしろ、短期的にしろ、効果を上げるためには、統合的なブランドコミュニケーションが必要だということです。
 ブランドコンセプトを元に、新聞やテレビ、店頭、サンプリング、ウェブ、あるいは口コミを使いながら統合的に展開するというのは、実は当たり前のキャンペーン展開になっている。ブランドとIMCというのは、表裏一体の考えですし、成功しているブランドは、すでに両方をきちんとやっていると思いますね。

IMCに取り組む背景

――企業がIMCに取り組もうとする理由は、どこにあるとお考えですか?
 アメリカに比べれば、日本のメーカーは、まだ恵まれた経営環境にあると思います。逆に言うと日本の方が、ブランドやIMCをそんなに真剣に考えなくても何とかやっていけるという状況がある。アメリカ企業がブランドやIMCに必死に取り組んでいるのは、日本と比べものにならないほど流通側のパワーが強いという背景があると思いますね。アメリカの企業、特にメーカーにとっては、流通のいいなりにならないためにも強いブランドが必要なのです。「お客さんが高い値段でも買いたいというブランドを作らないと、もう生きていけないぞ」という危機意識があるのです。
 ブランドにしてもIMCにしても、やっぱり「そういうことをやらないと、うちの会社は本当にダメになるよね」という危機感が社内で共有されないと、本気で取り組めませんから。そういう意味で言うと、日本には、まだリアリティがないんですね。例えば、プッシュ戦略でやっていけるのに、「うちの会社も、ちょっとブランド戦略を取り入れたいんですけど」というレベルなら、やらなくてもいいんです。

消費者の中で“統合”されるか

――販売促進は短期的利益、ブランドは長期的利益というイメージがありますが、実際はどうなのでしょう。
 ブランドを実践する上でも、短期的効果はなくていいわけではありません。短期的に効果がないキャンペーンは長期的にも効果がないことは実証されています。そこをどう両立させて、統合的なブランディングコミュニケーションをしていくかも、IMCの役割だと思いますね。
 ただ、セオリーの面からみると、IMCには解決されてない問題がいろいろあります。例えば、かつて「ワンルック・ワンボイス」と言われましたが、さまざまな異なるメディアで広告表現を統一したからといって、それが本当に「統合」したことになるかということです。いろいろなコンタクトポイントで、いろんな接触のされ方があるわけです。しかし、それが、消費者の中で1つのブランドイメージとして形成される保証はないわけです。逆に、テレビと新聞にそれぞれのメディアに合った違うメッセージが出た時に、それは本当にインテグレートされて、効果的に伝達されるかどうか。消費者の中で統合されるような表現は、どうしたらいいか、そういう点については、セオリーがないんです。
 だから、今後は、そういう方面の研究も必要になってくると思います。広告の接触とその質については、以前から言われていますが、各メディアがどういうインパクトを及ぼすかについては、業界を挙げて可能性を再発掘することが必要だと思います。

Hiroshi Tanaka
1951年生まれ。上智大学外国語学部卒業。米国イリノイ大学大学院ジャーナリズム研究科修士課程、慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程修了。電通マーケティングディレクター、城西大学経済学部助教授を経て、法政大学経営学部教授。2003-4年度コロンビア大学大学院フェロー。現在、法政大学大学院経営学研究科長。同科経営学専攻(社会人ビジネススクール)では、ブランドやIMCについて集中的に研究と教育も行っている。
Hiroshi Tanaka




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