特集 2006.4/vol.9-No.1

クロスメディアをどう発想するか
生活者から見たクロスメディア

 「クロスメディア」は、あくまで情報を発信する側、企業やメディア側の発想だ。さまざまなメディアから情報を受け取れるようになった情報環境の中で、人々の情報摂取の仕方はどう変わったのか。電通消費者研究センターの四元正弘氏に生活者の視点から聞いた。

――クロスメディアを四元さんはどうとらえていますか?
 すでに、人々はクロスメディア的な情報取得をしていると思いますね。つまり、一つのコンテンツをいろいろなメディアから既に取っているということです。ただ、その情報をどんなメディアから得ているかというのは、テーマによって違います。
 例えば、経済動向のような堅いテーマは、新聞記事やテレビ番組が近いメディアになる。そして、それを取り囲むように雑誌記事やブログ、口コミがある。最近はブログや口コミも経済動向を知る上で結構力を持ち始めています。
 逆に、日常的なテーマ、例えば美容・健康情報を得る一番近いメディアは、最近はブログや口コミです。それを取り囲むようにマスメディアがある。広告もマスメディアに含まれます。別な言い方をすれば、中心にその人にとって第一義的なメディアがあり、それを補完するメディアが周囲を取り囲んでいるイメージです。人は情報ごとに、どういうメディアにアクセスするか優先順位を持っています。

――その優先順位は、関心の度合いによっても違うのではないですか。
 情報に対するその人の認識の進み具合によっても違いますね。例えば、今日初めて美容に関心を持った人はいきなり口コミやブログに行くことはなくて、まず雑誌からとか、一般的な情報から入っていって、それから口コミやブログに入っていく。逆に、口コミやブログで情報を取ることが一般化している人は、そのほかのメディアの情報はちょっと見る程度の重みしかない。その人の情報に対する習熟度によってもまったく違うと思います。

ネット時代の消費者心理サイクル

――質問がどうしてもメディア側からの発想になってしまうのですが、いままでは、例えばAIDMAに沿ってどういうメディアでどんな広告をすればいいか決まっていたのが、メディアが多様になったために、もう一度、その使い方を含め考えなければいけない時代になってきたということですか。
 そうですね。ただ、最近は、AIDMAも時代に合わなくなってきたと思っています。その商品をどういう環境に位置づけるかがマーケティング戦略を考える上でより重要になってきたと思うのです。

――どういうことですか。
 ネットの使い方がどうということではなく、ネットが普及したことによって消費の心理サイクルが変わった。それに合わせてメディアの使い方を考え直しましょうということです。

――ネットによって消費の心理サイクルはどう変わったと。
 例えば、「いま何がはやっているのか」「どういうことが常識なのか」「どういうものが一流だとみんなから認められているか」ということがマーケティング的「環境」だと思うのです。これが、今のマーケティング戦略にとって最も重要なことだと思っています。
 そういうトレンドに乗って新商品が出てくれば「認知」が進みます。その上で、その商品に機能性、経済性があれば、人は「関心」を持つ。いまはネットの時代、情報過多の時代ですから、商品に関心を持った後は、徹底的に比較して納得して、「確信」を得る。でも、人間はそれで買うものではなくて、購入に踏み切るときには限定何個や今日限りという「衝動」に駆られてが多い。購入後は、実際に使って満足をすると、いい買い物をしたなと「承認」する。そうすると、そのうれしさを人と「共有」したいと思う。それがネットでもリアルでもいいですが、「口コミ」を通じて、「あの商品っていいらしいよ」「最近よく見るよね」というように再びマーケティング的な環境を作っていく。



環境は新聞、確信はネット

――それに合わせ、メディアをどう使っていけばいいのでしょうか。

 例えば、環境を作るにはパブリシティやマス広告が有効になります。新聞広告の役割も、この辺が大きい。パブリシティという意味では、記事広告もその一つだと思います。認知を進めるのもマス広告とパブリシティで、これにセールスプロモーションが加わる。関心を引きつける役割は、意外とメディアの役割は少なくて、商品そのものの機能や価格が関心を生む。そして、確信はまたメディアの役割が大きくなり、ここではプロモーションが特に重要になる。これは本当にいいんだろうかと納得するためにはまた情報が重要だということです。
 ネット広告、それからネットパブリシティ、ネット口コミの部分を見ると、それぞれの段階で出てきますが、やはり「確信」を作る部分が厚い。最近は、何かに関心を持って、調べようと思ったらネットに行く。ネットできっちりと情報を調べて確信を得ていくという行動が明確になってきています。
 それから「承認」のときに通常の口コミが大きくかかわってくる。相対的な問題ですが、比率で見ればそういう傾向があると思うのです。



ネット口コミの可能性

――今の話で、「ネット口コミ」と「口コミ」を分けているのはなぜですか。

 基本的に、口コミのほとんどはリアルな口コミだからです。口コミに関する調査もしていますが、ネットで発信する人たちは全体で6%程度で、基本はやはり「家族や知人に教える」です。ただ、ネットを介した口コミは新しい傾向として最近出てきたものであり、注目しなければならない動きだと思っています。

――具体的には、どのような人たちがネット口コミの中心になっているのでしょう。

 口コミに対して関心があるかどうか、口コミを信頼しているかどうか、それから、口コミをよく発信しているかどうかで5つのグループに切り分けたのですが、口コミにあまり関心のない「低関心層」が3割います。残りの7割は何らかの形で口コミに関心はあります。まず、口コミを信頼しているし、発信もよくする、つまり口コミを加速する「アクセレーター」が18%。発信はするけれど信頼していない、自分で確認したり、自分の実感で補正をしながら情報を発信していく「ガイド」が14%いる。それから、信頼はしているけれど、あまり発信はしない人、つまり口コミについていく「フォロアー」が一5%、信用もしてないし、発信もしてない「傍観者」が20%弱、そういう5タイプです。
 この中で、口コミ発信者は「アクセレーター」と「ガイド」です。「アクセレーター」では、ネットに書き込むという人が10%います。

――思ったよりまだ少ない気がしますね。

 確かにネットの時代ですから、ネットの口コミは非常に注目されていますが、実際はまだこの程度です。ただ、リアルな口コミでは気になる商品があっても、ユーザーや情報通を日ごろのつきあいの中で探すのはなかなかむずかしい。それがネットの普及で可能になったというのは大きいことです。ネットなら検索をして、ヘビーユーザーや情報通の声を取ることができる。この辺は大きな変化ですし、実際に影響を受ける人が出てきていることは注目していいと思っています。

ホンネをどう伝えるか

――口コミが注目されている理由というのは、どこにあるのでしょう。

 ぼくはマーケティングの人間なので、商品価値というところから発想しますが、商品価値には大きく分けて二つのタイプがあります。一つは機能的な価値、もう一つは感性的な価値です。例えば、車だったら200馬力、4WD、7人乗りというのが機能的な価値です。そうではなくて、車のデザイン、排気音がいいというのが感性的な価値です。機能的価値は数字で表しやすいし、万人にとって平等です。実際にそれが達成されていなければ不良品扱いになる価値です。逆に、感性的な価値は数字で表しにくいし、万人にとってイコールではない。不良品なら交換してもらえますが、「いいデザインだと思って買ったけれど、飽きたから交換してくれ」とは言えません。
 何を言いたいかというと、実は機能的な価値を伝える情報というのは、その情報が信頼できるかどうか、それが本当かどうかが非常に重要だということです。しかし、実際は実感できない機能が非常に多いのです。例えば、200馬力の車が実際は190馬力しかなかったとしても本当のところはわからない。それがなぜ成り立つかと言えば、人々がこの車は200馬力だと言っている広告を掲載しているメディアを信頼しているからです。つまり、情報を信頼しているから機能的な価値は伝わるのです。
 ところが、感性的な価値はそれが本当にいいデザインか問うこと自体に意味がない。重要なのは、「この車のデザインはかっこいいね」と言っている人が、本音で言っているのかということです。だから、機能的価値を伝える情報は「本当」かどうかが重要で、感性的価値を伝える情報は「本音」かどうかが非常に重要なのです。
 技術格差がなくなり、機能の差別化はどんどんむずかしくなっている。だから、マーケティングは感性的な価値で商品を差別化しようとする。感性的な価値を伝えるのは本音だし、その本音が一番自然に伝わるのが口コミなんです。そして、それが本音だと思うのは、相手を信頼しているからです。ということは、相手を信頼していいかどうか見分けなければいけないということです。
 話が飛躍するように聞こえるかもしれませんが、だから暗号ブームが出てくるのです。つまり、仲間なのか仲間じゃないのかを識別するのが暗号です。若い人の間で去年の夏、方言がはやったのも、それを知っていることが仲間の印だからです。看板のない店の流行もそうです。全部一連なんですよね。感性的な価値というところと、全部つながっているんですね。

アクセス順位に注目して

――ネットを口コミメディアと呼ぶのはまだ時期が早いとすると、もう少し地道な発想がクロスメディアには必要かもしれませんね。

 だから、人は知りたい情報に関してアクセス順位を既に持っているというのは、重要だと思います。自分の生活スタイルやコンテンツの内容に合わせて、いろいろなメディアから情報を取るようになっている。
 それをしっかり見すえた上で、それぞれの商品のユーザーは一体どういうポジションにいる人が多いのか、その時に、例えばどういうメディアで、どういうメッセージでコミュニケーションしていけばいいのか、そういう基本的なことを押さえていくことがクロスメディアを考えるときも重要だと思います。



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