From Overseas - London 2006.3/vol.8-No.12

新旧メディアの買収合戦
 1月21日号の英「エコノミスト」誌に、見開きで対照的な2人の写真が並んだ。
 左ページには、ライブドアの堀江貴文前社長。右ページには「タイムズ」、20世紀フォックス、BスカイBなどを傘下に収めるニューズ・コーポレーションのルパート・マードック会長兼CEOだ。
 堀江前社長の記事は、起業からニッポン放送買収騒動などを経て、1月16日の家宅捜索までにいたる経緯をつづったもの。マードック氏のほうは、ニューズ社のインターネット戦略についてのものである。意図的なものかどうかは知らないが、インターネットで一時代を築き既存メディアに手をのばそうとして挫折した若手経営者と、インターネットの脅威にさらされている従来型メディアを束ねる巨大メディア・グループの老将の対比は、否が応でも目を引いた。
 ニューズ社は2005年7月以降、インターネット企業の買収を繰り返している。
 おひざ元のアメリカでは7月にコミュニティー・サイトを運営するインターミックス・メディア、9月にはオンライン・ゲームなどを展開するIGNエンタテインメントを買収。この2件だけで買収額は1500億円近くにのぼる。
 イギリスでは、10月に傘下で衛星放送大手のBスカイBがインターネット・プロバイダーのイージーネットを約460億円で、11月には「タイムズ」などを発行するニューズ・コーポレーションが不動産サイトのインターネット・プロパティー・ファインダー(英)を約30億円で買収している。
 ニューズ社を一連の買収に走らせたのは、新聞やテレビといった既存メディアが抱える危機感にほかならない。一時は日の出の勢いだった衛星放送は、ケーブルテレビ局が行う「テレビ+ブロードバンド+格安電話セット」セールスの脅威にさらされ始めた。
 また、「案内広告は『金の流れる川』だったが、最近では干上がってしまうこともある」とマードック氏が広告業界誌に語ったように、新聞広告は長期的な下落傾向にある。イギリスでは総広告費に占める全国紙のシェアが、インターネットの創成期から2004年までの10年で2.5ポイントも減少した。
 BスカイBによるプロバイダーの買収は、インターネット・サービスで衛星放送に付加価値を与えようという試みだろうし、不動産サイトの買収は、減少した案内広告収入を補うためであろう。
 一連の買収劇は、世界第2位の広告会社グループであるWPPのマーティン・ソレルCEOに「マードック氏は重度のパニック状態」と指摘されたが、この流れはニューズ社だけに起こっているものではない。
 イギリスでは、他の新聞社もインターネット・サイトの買収を進めている。「デイリー・メール」などを発行するデイリー・メール&ゼネラル・トラストは、「ジョブサイト」(約70億円)など、求人と不動産を中心に100億円を超える投資を行っているし、「デイリー・ミラー」などを発行するトリニティ・ミラーは、昨年だけで約150億円を投下した。
 さて、影響が出ているのは広告や販売など売り上げに関する部分だけではない。
 昨年11月、「ファイナンシャル・タイムズ」の編集長を4年にわたり務めたアンドリュー・ゴウアー氏が、インターネット戦略に関して経営陣との意見の相違から辞職した。その後寄稿した「イブニング・スタンダード」で、「生き残ることのできる新聞は、真にオリジナルなコンテンツをつくり出し、それをいかにしてウェブという新しいメディア向けに加工できるかを、最も早く学ぶことのできる新聞だろう」と意見を述べていた。
 従来のメディアを代表するマードック氏やゴウアー氏が推進し、広告業界のトップであるソレル氏がいさめるという不可思議な構図だが、それくらい混乱の度合いが深いということだろう。
 「(メディアを取り巻く環境は)すさまじい勢いで変化している。完全に理解できている人間なんていないだろう」
 ソレル氏の一言が現在の状況を象徴している。
(2月6日)
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