特集 2006.1・2/vol.8-No.10・11

メディアの融合がもたらすもの
 ブロードバンド配信、モバイル向け地上デジタル「ワンセグ」、ニュースを音声で伝えるポッドキャスティングなど、新しいメディアが次々と現実化している。メディアが融合するとは情報の回路が多様化することでもある。最新のメディア技術・サービスの現状を探った。

新しいメディアが変えるものは何か

 数年前までは技術論が中心であった「放送と通信の融合」「メディアの融合」が現実のものになろうとしている。その一方で、IT企業によるテレビ局の買収騒動やメディア再編ばかりが注目を集めているようにも見える。「メディアの融合」をどう理解すべきか。上智大学の音好宏助教授に聞いた。

――ブロードバンド配信をはじめ、新しい通信サービスが次々と登場していますが。
 通信環境の高度化で、ネット上での多様なサービスの可能性が高まったことは確かです。特に大容量の伝送路を廉価で利用できるということで言えば、動画配信に活用するのが最も有効ですから、ネットによる動画サービスに期待が集まっています。もちろん、そればかりではなく、双方向の通信型サービスと、大容量の情報を一方的に送る放送型サービスが組み合わされることで、新たなビジネスの可能性が期待されています。このようなメディア・サービスを支える技術の進展をにらんで、メディア事業者は、新興のIT企業なども含め、新たなビジネス・チャンスを模索し始めるようになりました。
 ただし、このようなサービスを現実のものとして運用するには、通信と放送を巡る制度整備やビジネスモデルの確立が不可欠です。その運用にあたってのルールについては、まだ調整がついていない部分も多いのです。

通信と放送の融合の進展

――通信と放送の融合は、具体的にはどのような形で進んでいくのでしょうか。
 例えば、2005年12月1日で、地上デジタル放送が開始されてから2年になりましたが、総務省の諮問機関である地上デジタル全国会議から「第6次デジタル放送推進のための行動計画」が発表されました。そこには、各都道府県がアナログ放送を停止する2011年までに、地上デジタルを何まで普及させることができるか、つまり中継局をどれだけ建てられるかが記載されています。各エリアとも90%台の目標になっている。離島などの条件不利地域がありますから、どうしても100%にならないのです。残りの数%をどうするかということなのですが、2005年7月末にその対応策としてCS放送の活用とIP再送信という案が出てきました。特に後者では、地上デジタル放送普及のための補完システムという形で、話題のIPTV(Internet Protocol TV)(注)が行われるわけです。
 2011年にアナログ放送を終了させるという命題をクリアさせるための方策の一つとして提示されたのがこのIP再送信ですから、既存のテレビ放送の枠組みを壊さない形で運営されることが大前提となります。例えば、地上テレビ放送は県域単位でサービスが行われてきましたから、県域を越えてサービスが提供されないようにするとか、地上テレビ放送と同一の内容を、同一の時間に提供する(同一性の保持)ですとか、「放送のルール」が守られなくてはなりません。
 しかし、これはもちろん、IP網を使ってテレビ放送を提供するわけですから、通信と放送の実質的な乗り入れにほかなりません。このIP再送信が本格的なIPTVサービスの呼び水となる可能性があるのです。もちろんそのあたりをIT系の企業もしっかりとにらんでいます。

IPTV:インターネット・プロトコル・テレビ。インターネットなどのIPネットワークを介して高画質なTV放送のオンデマンド配信を行う技術の総称。

デジタル放送受信機の普及目標(ロードマップ)


IT企業とテレビ局

――昨年は、ライブドアや楽天などのIT企業がテレビ局を買収しようという動きがありました。
 IT系の企業がこの約10年でいろいろ登場したわけですが、そのなかでも成功を収め資金力をつけてきた企業が、さらなる事業展開を目指したときに、魅力的だったのが放送局だったということでしょう。特にテレビ局のマス媒体としての訴求力、ブランド力を欲しかったのでしょう。一緒に組んでの事業展開を提案したけれど、なかなか思うように進まない。それなら、買収してしまおうと動いたということではないでしょうか。
 テレビ局がこの提案に乗れないのも当然です。今の民放テレビの広告モデルは、それなりの高収益を上げています。このモデルを壊してまで、つまり、現在の収益を落としてまで、通信と放送の融合を進める必然性はないわけです。もちろん、放送事業者の側も、今後、通信と放送が技術的には乗り入れていくことは十分わかっています。そのようなメディア状況に向けた研究や実験はこれまでにもなされてきました。しかし、あえて、今、急いでネット上で本格的に番組配信を行うことには躊躇するでしょう。
 このことは、新聞を例に説明するとわかりやすいと思います。現状のまま新聞社がネット新聞に積極的に取り組むことにより、紙の部数が下がるのであれば、今、ネットに紙の新聞の資産を注ぎ込むことが、よい経営判断とは言えないでしょう。つまり、ネット新聞のビジネスモデルが開発されて、紙の新聞にさほど影響を与えないか、影響を与える幅がある程度わかってネット新聞の収益がそれ以上に増えていくという見通しが立てば、新聞社はこぞってネット新聞に参入するでしょう。それが今は見えていません。放送も同様の状況なのです。

――逆に、IT企業はどんなビジョンを持っていたのでしょうか。
 買収を仕掛けたIT企業側に、画期的なビジネスモデルのプランがあったのかというと疑問ですね。楽天の三木谷さんは TBSとの統合計画を発表した際、その事業計画を発表しましたが、既存の放送事業者がこれまで検討してきた内容を超えるものではなかったといわれています。ライブドアの堀江さんに至っては、「調査報道はいらない」とか、「ジャーナリズムをぶっ壊す」というような既存のメディアを挑発した発言ばかりがなされ、肝心の通信と放送が融合した際のビジネスモデルは、最後まで示されなかった。言い換えれば、IT企業とのコラボレートが実現するためには、通信・放送融合型の新しいビジネスモデルをどうやって作っていけるかが大きな課題なのです。

――IT企業はテレビ局のコンテンツが欲しかったということはないのですか。
 テレビ局の持つ番組が欲しかったというよりは、そのブランド力を利用して、現在、自らが行っているネット上でのサービスをさらに周知、発展させたかったのでしょう。IP網に放送局の持つテレビ番組が流れるようになれば、それらとリンクする形でサービス展開ができる。しかし、まだ日本のIP網では番組流通のルールが確立していません。加えて、日本の場合はテレビ局がコンテンツ制作とその流通を一緒に行っている。言い換えれば、集客力のある動画コンテンツの制作能力・流通能力が、既存のテレビ局に集中しているわけです。これがコンテンツ流通の発展にネックになっているのは事実です。
 そのことからすると、IP網でのコンテンツの流通システムを開拓するプレーヤーをどうやって作っていくかというのが、これからの課題です。テレビ番組制作・流通の活性化・多様化ということで言えば、海外の先進諸国では、それを政策的に進めてきた事例もあります。例えば、サッチャー政権下のイギリスでは、既存の有力民放テレビ局が再免許を申請した際に、それがかなわず、プロダクション化した例があります。この大手プロダクションの誕生は、イギリスの放送制作の現場に活性化と多様化をもたらしました。ただし、そのような強引な手法に対しての批判も大きかった。今で言えば、放送事業者から免許を取り上げて、IT企業に免許を与えるというような強引なことをやったわけです。既存のメディア事業者の側からすれば、そういう政策介入でやられたらたまったものではない。既存のメディア事業者もブロードバンドへの転換を独自で、あるいはIT企業と組んで進めている背景には、そういうことがあると思うのです。




テレビ局が始めたブロードバンド配信
日本テレビ メディア戦略局 メディア事業部 事業担当部長 第2日本テレビ事業本部VOD事業部次長 平松英俊氏→


携帯で見る地上デジタル「ワンセグ」
地上デジタル放送推進協会 技術部部長 藤本一夫氏 理事 木村政孝氏→


若者をターゲットに「聞く」朝刊
読売新聞東京本社 メディア戦略局開発部 石井重聡<寄稿>→
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