企業訪問 2006.1・2/vol.8-No.10・11

人にやさしい医療を通じた社会への貢献
 これからの高齢社会で健康な日々を送るには、病気になる前の予防が欠かせない。医療製品の開発をリードするテルモの生活医療カンパニー ヘルスケア事業 プレジデント 鈴木 雅隆氏に、家庭でできる健康管理を推進している観点から、メーカーとしての取り組みを聞いた。

鈴木 雅隆氏  近年「生活習慣病」という言葉に触れることが多くなったのではないだろうか。これは「ガン・心臓病・脳卒中」に代表される、成人に多い疾患と認識されていた従来の「成人病」について、幼少時からの生活習慣や、遺伝、環境などとの深いかかわりにも着目した概念である。
 その対策も、検診による病気の早期発見・早期治療といった二次予防から、生活習慣の改善を中心とした一次予防(健康増進・発病予防)に重点がおかれるようになっている。
 
家庭での血圧測定で健康管理

 今年度、一般市民を対象に「生活習慣病予防セミナー」が日本心臓財団の主催で全国で開催されており、専門医の講演などを聴こうと、健康に関心の高い人たちが詰めかけている。このセミナーに1社協賛しているのがテルモだ。
 「血圧測定などを手軽にやっていただいて、身近な健康管理を体感するという体験コーナーも好評です」と語るのは、同社の鈴木雅隆氏。「ご家庭で、ふだんの血圧を測定するのが健康管理に非常に役立つことを、もっと知っていただきたいですね。毎朝血圧を測定して1日の活動を始めることで、自分の体調の変化に気づきやすくなりますから」
 その際、一番大切なことは、我々の意思であることは間違いない。
 「生活習慣をいきなり改めることは容易ではありませんが、自ら変えていかないことには発病予防・健康増進にはなりません。正しい知識を持ち、自分の意思で生活習慣を改善してもらうことが大切。意を同じくする医療従事者や健康器具売り場で啓発活動に取り組んでいきたいと考えています」

医療の「はじめて」をつくる

 「テルモ」という社名は、体温計のドイツ語であるテルモメーターに由来している。
 同社の前身となる「赤線検温器株式会社」の創業は1921年。第一次大戦の影響で、ドイツやイギリスからの体温計の輸入が困難となったことから、優秀な体温計の国産化を目指して、北里柴三郎博士をはじめとした医学者が発起人となり設立されたのである。
 以来、大手体温計メーカーとしての地位を確保し続けているが、事業の多角化を図り、国産初のディスポーザブル(使い切り)注射器(1963年)、世界初となる、血液を傷つけずに効率的なガス交換が可能なホローファイバー(中空糸)型人工肺の開発(1982年)など、医療の「はじめて」をつくりつづけることが同社の歴史となっている。
 「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念のもと、今では世界百五十を超える国々で同社の製品は使用されている。
 
人にやさしい医療とは

「テルモは、ユニークな輝く技術で、人にやさしい医療を実現します」
 これが同社の掲げるビジョンだ。
 実際、テルモの個々の製品には非常に細やかな配慮がなされている。
 例えば注射針。注射は痛いものと決まっている。だが、1日に数回インスリンを接種しなければならない糖尿病患者にとっては、大変に切実な問題なのである。「患者の負担を和らげるにはどうしたらよいのか」という視点から、蚊の針にヒントを得て開発されたのが、世界一細いインスリン用注射針「ナノパス33」だ。
 「病気が治るのであれば、痛くてもいいだろう、測れればいいだろうということではないんです」と鈴木氏。
 家庭用血圧計では、腕を通すだけで安定した測定値を得られるアームイン血圧計を開発。使い勝手や大きさはもちろんのこと、腕をしめる際のモーター音にまで威圧感がないよう配慮している。
 体温計についても、暗い中で測定値が分かるよう、液晶部にバックライトを搭載、検温終了時には高齢者にも聞き取りやすいよう「高音」と「低音」で交互に知らせるブザー音、寝ている幼児を起こさないための消音モードなど、微に入り細をうがった商品設計をしているが、こういったきめ細かさはコールセンターに寄せられた声を可能な限り誠実に反映した結果でもある。
 「人にやさしいということは、そういった個々のこだわりのつみかさねだと思います」
11月発売 電子血圧計「アームイン・メモ」(オープン価格)
 11月発売の電子血圧計「アームイン・メモ」では、血圧値のグラフ表示部を取り外して持ち運びができるため、家庭血圧値を医師と共有することができる。日常生活で得られるデータを医師に見せることが、患者にとってよりよい診療を受けるコツになるのだという。
 同社の今後の課題は、家庭で手軽に健康状態を認識できるよう、血圧をはじめとした「指標」とその正しい知識・情報をいかに多く提供することができるかだ。
 「家庭で簡単に確認ができ、軽症なうちに医療機関への受診機会を増やすことが、メーカーとしてのテルモの役割です」
 鈴木氏は自社の製品についてこうも言う。
 「医療機器は買っていただいても、ふだん使われなければ意味がありませんから、使いやすさを追求することもテルモの責務です。それは決して目立つ必要はないし、いつでも使えるよう日常に溶け込んでいるような製品であればいいと思っています」

(梅木)
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