特集 2005.5/vol.8-No.2

本は変わろうとしているか
時代状況を映す若者たちの読書

 世の中の状況は、若い人たちの読書にも反映する。今は情報があふれる時代だが、その情報によって現実を見る目が豊かになり整理されるのではなく、現実認識がかえって混乱を来たす結果になっている。当然、ユートピアも思い描けるはずもなく、今の若い人たちにそれがあるとしたら、せいぜい身近な人間関係の中だけのように見える。
 安全で豊か、戦争をしない、政治的にも安定した最先端の工業化社会といったこれまでの日本のイメージはほとんど崩壊しているし、進むべき方向も見えない。日本だけでなく、世界も不安定要素を増している。イスラム問題に象徴される民族による多様な価値観に対しても、国際社会はどう折り合いをつけるべきか答えを見いだせないでいる。社会は混乱の極みにあると言っていい。求める社会が見えないと、本を読んで知識を身につけても、「いったい何の役に立つのか」ということになる。そういう世の中の状況が、若い人たちの本を読もうという意欲を減退させている。
 もう1つは、日々発行される本の多さも何を読んだらいいか迷わせる要因になっている。書店へ行ったときの本の多さには誰でも圧倒される。どの本を読めばいいか大人でも迷う。

よりどころを求める若者たち

 今の若い人たちが、全く本を買わないというわけではない。自分の趣味や関心のある本は、きちんと買って読んでいる。パソコンが趣味ならパソコン雑誌や書籍を買うし、マンガが趣味ならマンガ雑誌やコミックを買う。自分の趣味や関心事という非常に狭い範囲では、若い人たちも本は買って読んでいる。しかし同時に、彼らはよりどころも求めている。これは岩波ジュニア新書の読まれ方をみても実感することだが、親が言ってもなかなか子どもは本を読もうとしないが、友だちの「この本いいよ」というすすめや、先生の「この本は役に立つ」「これは読んでおきなさい」という言葉は割合素直に聞く。
 最近は、新聞やテレビにも若者向けの書評欄や本を紹介する番組が登場し始めているが、こうした動きがさらに活発化すれば若者たちの関心はもっと本に向くのではないだろうか。その場合も、あまりに若い人たちにおもねる必要はなく、大人向けの本でも、なぜこの本はいいのか、よりどころをきちんと提示することが大切だ。情報はあふれているのに、若い人たちのよりどころとなる情報が実は不足している気がする。そういう意味では、本を読む今日的な意味を問い直すだけでなく、大学の中に読書講座を設けるなど実践的な活動を展開する読売新聞の「活字文化プロジェクト」は意義ある活動だと思う。

社会とのつながりを示す

 若い人に何かよりどころを与えなければいけないのは、社会も同じだ。ところが、進むべき道を社会が提示できないでいる。出版社や新聞社もその役割を担うべき機関の一つだと思う。
 1979年に創刊した岩波ジュニア新書が一貫してテーマとしてきたことも、若い人たちが「どう生きるか」「何を学ぶか」ということだ。80年代は「大学でなにを学ぶか」「きみたちと現代」などベーシックなテーマを、90年代は「豊かさのゆくえ」「地球をこわさない生き方の本」などより具体的なテーマを、2000年代は「世界はいまどう動いているか」「韓国の若者を知りたい」など日本と世界とのかかわりにも目を向けていった。
 今の若者は何か頼りなげだが、私たちの子どものころにはなかった人権意識や弱者に対する温かい目を持っている。その意識が社会とつながるような方向性を示してやればいいだけだ。岩波ジュニア新書もそのためにありたいと思っている。(談)

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